コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.204 )
日時: 2017/01/11 23:06
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

愛とは狂気。

そう言っていた父の言葉が脳裏によみがえる。

これは、たぶん、事実だ。

失望のようなものとともに、そう認めざるを得なかった。


「おまえ……」


チノから荒々しい気配は消えなかった。

だというのに、それを歯牙にもかけないで、メノウが少しだけこちらに歩み寄る。

父が苦しそうにせきこみ、鋭い呼吸音があたりに響く。

どうしよう。

どうすればいい。

思考がぐちゃぐちゃになる。

糸のようにからまってほどくことができない。

焦れば焦るほど、もつれて結び目が固くなっていく。


「ふふふ」


メノウが笑った。

それはもう嬉しそうに。

花開くように。

それは艶やかな毒花のほほえみだった。


「あなたがたの幸せなど地に落ちて朽ちてしまえばいい」


それは、祈りのように紡がれる呪詛の言葉だった。

びりりと空気が震える。

力ある声。

彼女が人魚の血を引いているのだと、否が応でも知らされる響きだった。


「母は、愚かでした。

 決して帰ってこない人の帰りを死ぬまで信じて待っておりました。

 でも、私は違う。

 私は無力だから、と行動を起こさないでなどいない。

 殿下。

 あなたが、私の母にそうしたように、

 貴女の幸せを完膚なきまで壊して差し上げましょう」


ぎいっと重厚な扉が開いた。

陽光を背に、背の高い人物が部屋にはいってくる。


「あら、遅かったのですね」


メノウがゆっくりと振り返った。

金髪。

アイスブルーの瞳。

ミルクに赤いインクを一滴たらしたかのような白磁のような肌。

声が出ない。

恋い焦がれた。

何よりも恋い焦がれた。

夢中になって追いかけて握りしめたつもりだったのに

指の隙間からすり抜けていった。


「ステファン、様……?」


先ほどあったばかりの彼がこちらを見てほほ笑んだ。

Re: マーメイドウィッチ ( No.205 )
日時: 2017/01/12 23:30
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

こんばんは!
先日はあんなに長いコメントに返信を頂き、ありがとうございましたm(*_ _)m

まずは小説大会の銀賞おめでとうございます!!!(o´艸`)

やはり流石だなぁ、と改めて感じました。


そして、更新の方読ませていただきました!!!

もう本当に文章読んでいて、鳥肌立ちました!!Σ(*゜◇゜*)

続きが気になって気になって……。
いろはうたさん毎回の小説の終わり方にいつも凄く「続き読みたい」という心が惹かれます。


大したこと書いていなくてすみません!!(((;°▽°))

本当におめでとうございます!
これからも頑張ってください(o´艸`)(o´艸`)

夜分に失礼しましたm(*_ _)m

byてるてる522

Re: マーメイドウィッチ ( No.206 )
日時: 2017/01/13 13:58
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

てるてる522様!!


ええええ銀賞とってる!?
思いっきり飛び上がって体が五ミリくらい浮きましたよ!?←
完全に小説大会の存在忘れていました……


小説のほうがガンガン進めては行きたいのですが
緊迫した場面でなかなか書き進めてはいけないでいます……
構想は堅めつつあるのでこれからも見ていてくださったら嬉しいです!


メノウだけでなくステファンまで登場!?って感じですよね
はははははは←
もう、カオス
まさにカオスですよねはははははは←


コメントありがとうございます!!

Re: マーメイドウィッチ ( No.207 )
日時: 2017/01/13 14:27
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

視界が一瞬かすんだ。

瞬きを何度も繰り返す。

だが、彼の姿は消えなかった。

まだ、体が抱きしめてもらった感触を覚えている。

あれが最後だと思っていた。

もう会うことはないと思っていたのに。


「フレヤ様」


彼は、微笑んだ。

いつもと変わらない笑み。

それが、この状況ではいびつに見えた。

瞬きをした表紙に最後の涙がボロリと落ちた。


「驚きました。

 私はもとより、メノウから話を聞いていたので

 まさか、貴女本人からこの国を頼むと頼まれるとは」


頭の中で、どんどん記憶の欠片が舞う。

一番最初に、革命軍のことを示唆した人物。

それも一度ならずも二度。

一瞬、見せた冷酷な表情。


「もとより、この国は私のものにするつもりでした。

 そのために手っ取り早いと思ったのは、この国の王女と結婚すること。

 あなたはすぐに私の容姿に夢中になってはくれましたが、あなたは賢すぎた。

 いつかは私の考えていることに気付いてしまう。

 そのために、貴女の妹姫に近づきました」


その点あなたの、妹姫は簡単だった、とステファンは笑った。

天使のような微笑みだった。

目の前が暗くなるような感覚だった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.208 )
日時: 2017/01/15 14:30
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

ステファンがまるで知らない男のようだった。

誰だろうあれは。

天使の皮をかぶった悪魔なのではないか。

じわじわと実感がわいてくる。

ステファンに裏切られたのだ。

そもそも、出会いから、すべて、仕組まれたものだったのだ。

なんて、なんて滑稽で惨めな話だろう。

もう、涙すら出てこなかった。

不意に、ぐっと手に何か冷たいものを押し付けられた。

これは、金属の冷たさだ。

わずかにチャリっと音がした。

細い鎖の感触。

この形状。

母、ソフィナの形見のペンダントだ。

骨ばった手がそっと離れていく。

振り返らないように、メノウたちにも気づかれないようにそれを握りしめた。

父がこれを誰にも気づかれないようにフレヤに渡したということは、

これになにか大切な意味があるかもしれない。


「それで、私をどうする気……?

 その感じだと、ただでは解放してくれないでしょう?」


かすれた声でそう問う。

音がならないように、そっと鎖を手首に巻き付ける。


「王女殿下には、ご乱心なさりお父上を殺害なさったあげく自害という

 筋書にはしております」


なんてことないようにメノウが言う。

最初からこうするつもりだったのだ。

唯一の救いの道だと思ったステファンはメノウの仲間だった。


「フレヤ、逃げなさい」


ハッとするほど強い声だった。

フレヤは振り返って父を見つめた。

強いまなざしがフレヤを射貫く。

最後の命の灯が、父の中で燃えていた。


「男よ、娘を逃がせ」

「御意」


ぐっと腰に強い腕が回って、足が床から離れた。

次の瞬間には、チノはフレヤを抱えて床を強く蹴っていた。


「逃がさないよ」


ステファンがすらりと腰の剣を抜いて切りかかる。

フレヤの護身用の剣を構えなおすと、チノはフレヤを抱えたまま、ぐっと姿勢を低くした。

からだをしなやかなばねのように使い、その反動力で信じられないほどすばやく

ステファンの横を彼は駆け抜けた。

すれ違いざまに、ステファンの左足に向かって刃を走らせ、

純白のトラウザーズを切り裂く。

ぴっと鮮血が散った。


「くっ……」


ステファンがひるんだ一瞬のスキをついてチノは体当たりをするようにして

部屋の扉を開けて、外に転がり出た。


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