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マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.129 )
日時: 2016/09/07 00:04
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

目を見張った。

奥のほうには、しっかりした造りの椅子に座る美しい娘がいた。

その美しさに驚いたのではない。

恐ろしいほどに似ているのだ。

妹のヘレナに。


「——————お待ちしていましたわ、王女殿下」


夢見るようなその笑みは、華のように笑うヘレナのものとは違った。

きれいで、整っていて、美しい。

美しいのに、無機質だ。

作り物のような。

大きな音をたてて背後の扉が閉まった。

その音に少し驚いて、フレヤは振り返った。

視界にチノの姿が映る。

彼は、その表情を驚愕で染めていた。

その唇がかすかに震えていた。


「おまえは……!?」


そうかすれた声でつぶやいたあと、チノは

我に返ったらしく唇をきつくかみしめた。

その目はひどく険しい。


「あら」


目の前の少女もやや不思議そうに首を傾ける。

柔らかく緑の瞳が細められた。

その瞳にろうそくの火が赤く映る。

妖しく光るその瞳。

少しの間、チノを見つめるとふっと笑った。


「私、王女殿下だけをここに招いたつもりなのだけど……」


気おされぬようにフレヤは強く足の裏を地につけた。

顎をひいて、強く前を見つめる。

この人形のように美しい娘を。


「メノウ、ですね」

「ええ。

 お初にお目にかかりますわ、王女殿下」


メノウは笑みを深くしてうなづいた。

フレヤはフードをとった。

フードの陰から波打つ青い髪がこぼれ出る。

メノウは、フレヤの髪に視線を一瞬向けてすぐに戻した。


「私が、なぜここに来たのかは、わかっていると思う」

「ええ。

 招待の使者を送っておいて正解でした。

 そうでもしなければ、あなたからいらしてはくれなかったでしょうから」


フレヤは目を細めた。

使者というのはおそらく、結婚式の帰りに襲ってきた賊のことだろう。


「命まで狙ってきてよくも」

「この程度で消える存在であれば、そこで散っていただきたいと思いまして」


さらりとそう言うと、ふふっとメノウは笑った。

フレヤは眉間にしわを寄せた。

話せば話すほどいらだちが増した。

遠回しな駆け引きはやめだ。


「目的を、言いなさい」


低く押し殺された声に、力が宿る。

びりびりと窓ガラスが揺れた。

わずかに笑みをこわばらせたメノウだったが、

一瞬でそれは掻き消えた。


「そう怒らないでくださいな、王女殿下。

 私は王女殿下にお願い事があってここに来ていただいたのですから」


メノウは何事もなかったかのように、

綺麗な笑みを浮かべた。

Re: マーメイドウィッチ ( No.130 )
日時: 2016/09/07 10:54
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

織原ひなちゃん!!


ありがとううううううう(泣
銀賞というすばらしい賞をもらえてとてもうれしいです!!
地道にやってきたかいがありました……


お互いに忙しいと思うけど
これからも一緒にがんばっていこうね!!


コメントありがとう!!

Re: マーメイドウィッチ ( No.131 )
日時: 2016/09/10 00:43
名前: いろはうた (ID: W2nkXu2t)

「おねがい?」

「そう、お願いです」


メノウは変わらず笑みを浮かべている。

ふとフレヤは気づいた。

メノウの緑の瞳が少しも笑っていないことに。

ぞくりと背筋に悪寒が走る。

緑の瞳にろうそくの赤がちらついていた。

形のいい唇が言葉を紡いだ。


「あなたの手で父王を玉座から

引きずり落としてくださいませ」

「なっ……!?」


さすがのフレヤもその言葉に顔色を変えた。

その様子を見て楽しそうにメノウは笑う。

鈴を転がしたような可憐な声なのに

背筋には冷たいものが走る。


「私が革命軍の長というのはご存知かと。

私たちの目的は王のすげ替え。

そのために私たちは、

あなたのお父上を倒さねばならないのです」


放たれる言葉の1つ1つは王宮で一言でも放てば、

不敬罪で一瞬で捕らえられてしまうものばかりだ。


「でも、私たちが反乱を起こせば

王宮の兵との戦いで

たくさんの民が傷つくでしょう。

私は、その事態だけは避けたいのです」


ですから、とメノウは言葉を続けた。


「あなた様の手で、あなた様の父上を

影より葬ってくださいませ」


言葉が出なかった。

その言葉に対して、微動だにできなかった。

しかし、それは隣のチノも同じのようだった。

動かない。

いや、動けない。


「あなたさまはお優しい方だわ。

民が傷つくのは見たくないでしょう?

私たちが望むのは王のすげ替え。

それがなされれば、余計な争いは起こらない」


簡単なことでしょう?とことも投げに言われた言葉が

なかなか頭に入らなかった。

この手で、父を殺す…?

私に、民を守るために父を殺せと。

己の手を血で染めろというのか。

Re: マーメイドウィッチ ( No.132 )
日時: 2016/09/14 14:51
名前: いろはうた (ID: 2aIbLYIF)

メノウの言葉が頭に毒のように染み込む。


「私…私は…」


様々な出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

貧しいながらも懸命に働く人々。

子供達の笑顔。

人さらいに暴力を振るわれたこと。

民が政治に不満がたまっているのを痛いほど知ったこと。

眠る父の顔。

今も大切にされている母の形見のネックレス。

動けない。

よりによって最後に浮かんだのが、

今もなお丁寧に手入れされている母の形見のネックレスだったからだ。


「何も迷う必要はない」


押し殺した声でチノが言った。

火の粉が散るような眼差しで

彼はメノウだけを見つめている。


「一言、こいつを殺せ、とお前が言えば

おれはお前に従おう」


それを聞いてメノウは一際おかしそうに笑った。

命を狙われている発言をされたのに

その余裕な様子は変わらない。

チノの眼差しは変わらない。

抜き身の刃のようにその視線は鋭い。


「それをあなたが言うのかしらチョルノ。

一時は志を共にした人が

王家の犬に成り下がっていて、笑ってしまうわ」

「……黙れ」


あからさまな嘲りにフレヤは眉をしかめた。

チョルノというのはチノのことだろう。

チノの本名なのかもしれない。

しかし気になったのはそのことではない。

志を共にした、というところだ。

チノは昔、メノウの仲間だったということだろうか。


「さぁ王女殿下。

お決めになってくださいませ。

あなた様自らが国王陛下に手を下されますか?」

「なぜ、私なの」


メノウはゆっくりと瞬きをした。

理解ができないというように。


「あなたなら、いくらでも暗殺者でもなんでも

王宮に送り込んでこれるでしょう」

「ええそうですね」


メノウはあっさりとうなづいた。

あまりに素直だったから、少し拍子抜けしてしまう。

そのあとに、メノウは、ですが……と付け加えた。


「王宮の守りは堅固。

一筋縄ではいきません。

国王陛下に最も疑われずに近づけるのは

王女殿下なのです。ですから……」

「いいえ、それはただの建前ね。

あなたの本音は何?」

Re: マーメイドウィッチ ( No.133 )
日時: 2016/09/16 01:02
名前: いろはうた (ID: eCQLZ4l8)

初めてメノウの顔から笑みが剥がれ落ちた。

ただ無言でフレヤを見つめてる。

今にも短刀を抜き放ちそうなチノには目もくれない。


「あなたは思っていたよりも

面白い方なのね王女殿下」

「好きに言えばいいわ」


メノウがどのような意図でそういったのかわからなかった。

だが、メノウは驚いているように見えた。

メノウが本音を隠していることに気づいたことではなく

フレヤが強気で言い返したことにだ。

フレヤは目を細めた。

まさか、この娘にも特殊な力でもあるのだろうか。

妹姫そっくりなメノウの顔立ちを見ると

普通の人間であるヘレナに見えて、そうは思えなかった。

しかし、それならなぜシウはメノウの元を訪れたのだろう。

あの皇子は意図なく行動を起こさない。

ヘレナとステファンの結婚式に参列したのも

フレヤとの接触が目的だった。

フレヤが特殊能力をもつ異形の末裔だから。

じゃあ、メノウは…?

まさか、メノウも…?


「私の真意は、あなたが父上を

手にかけてからお話しいたしましょう」

「そう言われて私が素直に従うとでも?」


相手の気迫に飲まれぬよう顎を引いて答える。

メノウの顔に再び笑みが宿った。


「あなたは置かれている立場をお忘れのようですね。

私たちほどの勢力が革命を起こせば

それなりに国民は傷つきもしくは死ぬでしょう」

それでもいいのか、と無言で問われる。

そう言われて、フレヤは即座に返答できなかった。

国民の不満は限界まで溜まってきている。

確かに統治者が変われば、多少は不満も治るだろう。


「統治者を変えたところで、

政治の本質が根本的に変わらなければ意味がないわ」

「どう変えるのです?」


即座に聞き返されて言葉に詰まる。

とっさには思いつかなかった。


「……答えられぬくせによく言う」


聞き取りづらいほどの小さな声でメノウが呟いた。

目はこれっぽっちも笑っていなかった。

緑の目に赤い色がチラチラと激しく踊る。


「……私は違う。

女だからといって無知でいたり、

行動を起こさないでいたりなどしない」


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