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- マーメイドウィッチ
- 日時: 2016/06/21 11:41
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
世界が止まった。
手が震える。
数拍のちに気付く。
私は大切な人に裏切られたのだと。
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- Re: マーメイドウィッチ ( No.184 )
- 日時: 2016/12/07 21:26
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
まぶしく輝くシャンデリア。
目障りなほどにまぶしく輝いている。
まぶしくて、フレヤは目を伏せた。
穏やかなセレナーデが豪華な造りの大広間に流れている。
そこに潜むようにして囁く声が聞こえる。
まぁ王女殿下がいらしたわ。
お可哀そうに、婚約者に捨てられて
あさましくも次の男をあらさがししているのかしら
まぁそうでもしなければいき遅れてしまうでしょう
くすくすくす
くすくすくす
風のざわめきとともに聞きたくもない言葉が運ばれてくる。
だから、こんなものに出席などしたくなかったのだ。
フレヤは表情を変えないようにつとめた。
ぐっと奥歯をかみしめて耐える。
その時、視界の端に黒衣が映ってはっとした。
チノがいつも着ている黒衣と色がそっくりだった。
急いで視線で黒衣の人物の顔を確認する。
体がこわばった。
シウだ。
ミン国の皇子、ヴァンピールの末裔がいる。
闇夜に溶け込むようにしてたたずむさまは
闇の眷属という言葉がふさわしかった。
どうして。
声にならない声が唇から吐息となって漏れた。
あたりに視線を配るがチノの姿は見当たらない。
「フレヤ王女殿下がいらっしゃいました」
執事が喧噪の中でもよく通る声でそう言うと
あたりはしんと静まり返った。
フレヤはかすかにこわばった顔のまま、優雅に一礼をして見せる。
コルセットが脇腹に食い込んでかすかに顔をしかめる。
今日はハンナが念入りにきつく締めたのだ。
感じる。
きつい視線を。
どの若い男たちも次期国王の座を狙ってフレヤに近づける機会を
今か今かと待っている。
その中でもひときわ強い視線はシウのものだった。
なにが彼の目的なのかさっぱりわからない。
この国が目的なのだろうか。
だから、この国の次期国王の座がほしいのだろうか?
メノウの館の前で偶然鉢合わせした時の光景がフラッシュバックする。
なんのためにこの男は動いているのだろう。
「王女殿下」
空気を鋭く打つような低い声が静寂を切り裂いた。
長靴のかかとを鳴らしながらゆっくりとこちらに近づいてくるのはシウだった。
とっさに彼を拒もうとチノの姿を視線だけで探している自分に愕然とする。
いつのまにこんなに自分はよわくなっていたのだろうか。
いつからこれほどまでにチノに頼ってしまうようになったのだろうか。
「麗しき姫君と一曲踊る栄誉を許してはくださらぬだろうか」
フレヤの前まで来ると、シウはひざまずいて彼女に手を差し出した。
あれほどまでにフレヤと踊るために我先に駆けだそうとしていた
貴公子達はぐっと踏みとどまっている。
シウから発せられる気迫と雰囲気に圧倒されてしまっているのだ。
フレヤは指先が震えないように気を付けながら
そっとその手のひらに指先を載せた。
シウがすっと瞳を細めた。
唇が三日月を描いた。
「……ありがたき幸せ」
- Re: マーメイドウィッチ ( No.185 )
- 日時: 2016/12/10 14:01
- 名前: いろはうた (ID: dFWeZkVZ)
シウに手を引かれて大広間の中央まで導かれるようにして足を運ぶ。
緊張しすぎて、ドレスの裾を何度となく踏んでしまいそうになりながら
毅然として見えるように精一杯ふるまった。
シウの視線は強い。
本人にはきっと自覚はないのだろうが、その瞳で見つめられると
身を焦がされてしまうような錯覚すら起きる。
ゆるやかに音楽が流れだした。
フレヤはステップを踏み出した。
ふわりとドレスの裾が揺れる。
「うまいではないか。
おとぎばなしの人魚姫も踊りの名手だと聞いていたが」
シウはフレヤが警戒しすぎて緊張していることも
すべて見抜いたうえで軽口をたたいてくる。
周りからは話しているように見えないようにしているため
ただフレヤを優雅にエスコートしているようにしか見えないのだろう。
じわりと掌に汗がにじんだ。
「どうしてあの時メノウのところにいたの」
駆け引きなどしていられなかった。
あまりに直球すぎる質問にシウは唇の端をゆがめるようにして笑った。
「そうせくな。
今はゆるりと舞を楽しむときであろう」
のらりくらりとかわされて苛立ちが増す。
この男はわからないことだらけだ。
聞きたいことがたくさんある。
しかし、聞いたところで今のように軽く流されてかわされてしまうだろう。
音楽がひときわ大きくなり、フレヤはくるりと回った。
髪に飾られた絹のリボンがふわりと宙に舞う。
この男、やたらとリードがうまい。
ステファンと同じかそれ以上かもしれない。
「どこで踊りを習ったのかしら?」
「これでも皇族だ。
人並みには踊れる」
そういうとシウはぐっとフレヤを引き寄せた。
腰に回る強い腕が、拒むことを許してくれない。
フレヤは至近距離からシウの瞳を見つめた。
魔性の瞳。
見ているだけでくらくらする。
なんて美しい男だろう。
だが美しいだけで、心の琴線には触れなかった。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.186 )
- 日時: 2016/12/11 15:34
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
「やはりか」
流れる優美な音楽に紛れて、シウがぼそりとつぶやいた。
やはりその魔性の瞳からは何を考えているのか全く読み取れなかった。
「今なんて言ったのかしら」
「別に大したことではない」
すげなくそう言われてしまったが、引き下がれない。
無意識のうちにステップを踏みつつ、なんとかシウから距離を取ろうと試みる。
しかし、背に回った大きな手のひらはびくともしない。
「何も言ってくれないのね」
「そのいらだった顔を見るのがこのうえなく楽しいからな」
笑みとともにそう返され、ますますいらだちが増す。
この男、顔だけはいいが性格は最悪だ。
氷姫、とあだ名がつくほどの鉄面皮で有名なフレヤの感情を
読み取れるのも腹が立つ。
やたらとダンスがうまいのもしゃくに触った。
「いい顔を見せてくれた礼にいいことを教えておいてやろう」
ふいにシウがその顔から笑みを消した。
そうなると凄みのある美貌が一層際立つ。
フレヤはくるりと一回転しながら、シウから目を離さないでいた。
「なにかしら」
「まずひとつ、我には汝と同じくたぐいまれなる力を有する」
フレヤの歌の力は各国まで広く知られている。
おそらく、歌の力のことをさしているのだろう。
「あなたも私と同じく人間以外の血を持つものなら、まぁそうでしょうね」
「我の力は目だ。
目を見ただけで、相手は我に従う。
我は我以外の異形の者にも幾度か試してみたが我の力は人間にしか効かなかった。
事実、我は汝にも霊力を込めて目を見たが何も起きなかった」
フレヤは足を止めてしまいそうになるのを必死でこらえた。
フレヤは自分以外の異形の末裔にこれまでほとんどあってこなかった。
ゆえに、その事実を知らなかったのだ。
「もうひとつ、メノウの言葉には従うな」
さすがのフレヤもこれには顔をこわばらせた。
冷たいものが背筋を流れる。
どういうことだろう。
シウは、メノウの屋敷に入っていったから、
メノウの仲間かもしれないと思っていたのに。
その表情を見て、シウは眉をひそめた。
「汝、まさか……」
割れんばかりの拍手があたりを包む。
フレヤははっとしてあたりを見渡した。
いつの間にか音楽は止まっていて、大広間にいる人々は王女と遠国の皇子に拍手を送っている。
フレヤはあわてて一礼をした。
しぶしぶといったようにシウも一礼する。
フレヤは自分の手をシウの手からもぎ取るようにして抜くと、
急いでその場を立ち去った。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.187 )
- 日時: 2016/12/14 20:10
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
急いでその場を去りながら、ちらりと後ろを見てみる。
シウが笑みを浮かべながらゆったりとフレヤを追ってきていた。
それはもう楽しそうな笑顔だった。
(あの男、本当に性格が悪い……!!)
フレヤが困っているのを見て、心の底から楽しんでいる顔だあれは。
フレヤはむきになってさらに足をはやめた。
あちらのほうが足が長いからどうがんばってもいつかは追いつかれてしまう。
周囲に視線をさまよわせると、一斉に手が差し伸べられた。
「王女殿下、次は私と踊っていただけませんか?」
「いえ、次は私と」
「どうか、王女殿下」
見目麗しい貴公子達が次々と手を差し伸べてくる。
しなやかな手は上等な白手袋に包まれていた。
フレヤは彼らの顔を見上げた。
目を見ればわかる。
彼らはフレヤを通して己の栄光だけを見つめていた。
フレヤは足を止めて彼らに向き直った。
彼らの顔に、一斉に喜色が広がる。
フレヤはにこりともしないで言い放った。
「わたくし、一曲踊ったら少し疲れてしまったの。
もう、さがらせていただきます」
貴公子達が笑顔を浮かべたまま固まっているのに見向きもしないで
フレヤはくるりと背を向けて歩き出した。
吐息が漏れた。
自室まで走ってきたのだ。
自室の扉に手をかける。
コルセットをきつく締めすぎたせいで息がうまくできない。
フレヤは酸欠でくらくらする頭を扉に押し付けた。
なにを、やっているんだろう。
最後に親孝行をするつもりが、逃げ出してきてしまった。
「こんな、はずじゃなかったのに……」
驚くほど弱々しい声が漏れた。
自分はこんな人間だっただろうか。
こんな感情のままに動く人間だっただろうか。
いや、違う。
もっと自制が聞いていたはずだ。
計算高く、理性に従って動けていたはず。
なんて情けない。
「もっと……賢く動かないと」
フレヤはゆっくりと頭を上げた。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.188 )
- 日時: 2016/12/14 21:28
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
フレヤは深くフードをかぶりなおした。
あたりは静けさに包まれていた。
舞踏会の喧噪は遠く過去に消えていた。
あのあと、生暖かい目でメイドたちに見られた。
おそらく、シウに恋をしてそのほかの貴公子達のダンスの誘いを断ったのだと
勘違いされているのだろう。
ものすごく訂正したいがこうなったら、その勘違いも利用するしかない。
だから、シウのもとに数日いく、という置手紙を残してきた。
メイドたちの阿鼻叫喚が目に浮かぶようだが、考えないようにする。
フレヤは夜の闇に紛れて、城をそっと抜け出した。
衛兵たちが門を守っているのを横目で確認してから、馬屋のほうに急いだ。
その身を包むのは乗馬服だった。
手に持っているのは数日分の食料と水だけだった。
王宮の台所からくすねてきたものだった。
なるべく物音を立てないように気をつけながら、馬屋にやっとたどり着いた。
ほっとして愛馬の鼻面を撫でようとした。
「どこに行くおつもりですか、王女殿下」
びくっとフレヤは指先を震わせた。
丁寧な口調なのに、ひどく投げやりな響きがこもっていた。
ゆっくりと振り返ると闇に紛れるようにして、チノが立っていた。
全く気配に気づけなかった。
皮肉げな口調にははっきりとしたいらだちが混じっていた。
その表情は機嫌が悪いのを隠そうともしていない。
「チノ……」
「どこに行くつもりか、ときいているんだ」
鋭く問われて、とっさに上手な嘘がつけなかった。
かすかにうろたえたフレヤを見てチノは目を細めた。
「おおかた、男のもとか」
嘲るような声にフレヤははっとした。
チノが別人のように冷たい目でこちらを見ていた。
「なにを、言って……!!」
「男どもに囲まれてまんざらでもなさそうだったしな」
フレヤを傷つけるような言葉をわざと選んでいるのを感じた。
空には少しだけかけた満月が浮かんでいる。
おそらく先祖のオオカミの血が騒いでいるのだろう。
フレヤは押し黙った。
今のチノに何を言っても無駄に違いない。
「だんまりか。
沈黙は肯定ってことだな」
「……チノには、関係ないわ」
「そうかよ」
フレヤはチノから目をそらした。
暗かった視界がさらに暗くなった。
驚いて正面を見るとチノの瞳が驚くほど近くにあった。
はっとして横を見ると、すぐ近くにチノの腕があった。
とっさに後ずさろうとするが、背には馬小屋の壁がある。
チノの腕が檻のように囲って動けない。
「おれは今、ひどく気が立っているんだ。
下手に抗わないほうが身のためだぞ」
ぐいっと顎をつかまれて、無理に視線を合わされる。
酷薄なまなざし。
獲物を見つめる獣だ。
「それで、どこへいくんだ?」
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