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マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.154 )
日時: 2016/10/17 21:21
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

フレヤはステファンとヘレナの三人で父王の病室を訪れていた。

父の顔は一見顔色がよくなっているように見えるが実際は違う。

フレヤの歌の力で確実に体を蝕まれているはずだ。


「お父様……」


ヘレナが力なく父の手を握りしめているのを見て、

フレヤはそっと視線をそらした。

鈍く胸が痛む。

必死に自分に言い聞かせる。

こうしなければいけない。

民を守るためには犠牲が必要なのだ。

父が一向に目を覚まさないのを確認すると

ヘレナがゆっくりと立ち上がった。

三人で連れ立って、部屋を出ていく。

衛兵が敬礼をするのを横目で見ながら父の部屋を離れる。


「お姉さま」


廊下の角を曲がったところで、ヘレナが口を開いた。

ひどく緊迫した表情だった。


「お話があります。

 人払いをした部屋を用意していただけますか」


その表情が、一瞬メノウと重なって見えて消えた。

フレヤはヘレナから視線を外した。

そして執事に向かって口を開いた。






















ヘレナはオレンジとピンクのまじりあった花のようなドレスを身にまとっていた。

それが、ちょうど花開く乙女であるヘレナの魅力を最大限に引き立てていた。

首元で輝くトパーズのネックレスはステファンから贈られたものだろうか。

ヘレナの大きな青い目がゆっくりとまたたく。

その仕草が、メノウとひどく似ていて、フレヤは目を細めた。

ヘレナを見ているとひどく心を乱される。

誰もいない部屋に、ヘレナと二人きり。

姉妹はなかなか口を開かなかった。


「お姉さま」


先に口を開いたのは、ヘレナだった。

その表情は決意に満ちたものだった。

ぎゅっと手を膝の上で握りしめているのが見える。

Re: マーメイドウィッチ ( No.155 )
日時: 2016/10/18 00:55
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

「私を、恨んでおいでですか」


しぼりだされた言葉に、表情を変えないことで必死だった。

今更どの口がそんなことを言うのだ。

恨まないはずがない。

そして、羨まないはずがない。

ステファンに選ばれた彼女にとって代われたらどれほどいいだろうと

何度思ったことか。

どれほど惨めな思いをしたことか。

ステファンとヘレナの婚礼式で、

見なさい、あれが婚約者に捨てられた姫君よ、お可哀そうに、と

哀れみの視線を向けられても耐え続けなければならなかったのだ。

フレヤは、感情を抑え込むためにひどく平坦な声を出した。


「それで」


びくり、とヘレナの肩が揺れた。

華奢な肩だ。

だが、丸みを帯びた女の肩になってきている。

ソファに向かい合って座っているヘレナは、

妹である前に、女なのだとふと思った。


「あなたは、何が言いたいのかしら。

 回りくどいのは嫌いなの。

 私に懺悔でもしに来たの?

 謝罪なんかしても、ステファン様は私のもとには戻らないわ」


ヘレナの顔がゆがんだ。

胸が痛んだ。

陰口をたたかれたのはフレヤだけでない。

結婚式の日に、ほらみろ、あれが姉の婚約者を奪った

あさましい姫君だと、ヘレナも陰口をたたかれていた。

彼女はこれから一生姉の婚約者を奪った姫君として

後ろ指をさされることになるだろう。


「……冗談よ。

 そんな顔しないで」

「私は何でもいい……なんでもいいからお姉さまと話をしなければと思ったのです」


馬鹿な妹だ。

話をしても何の解決にもならない。

それはただ、お互いの傷をえぐるだけだというのに。

昔からどこか抜けている娘だった。

それでいて愛らしいから、無駄に知恵のあるフレヤよりも

ヘレナのほうが殿方に人気があった。


「……認めましょう」


この言葉を発するだけで、まだ癒えていない心の傷から

血が滴るのを感じた。

ざりっとした嫌な感情が胸をめぐるのを無視する。


「え……?」

「あなたとステファン様の関係を認めましょう」


ヘレナが不思議そうな顔で瞬きをした。

彼女のせっかくのドレスは、握りしめすぎてしわになっていた。

それだけ、彼女が緊張していたのだと悟る。


「何故、そんなに驚いているの」

「死んでも許さないと言われてもおかしくないと覚悟していましたから……」


ゆっくりとヘレナの顔が驚きから沈んだ表情に変わる。

せっかく、関係を認めるといったのに、嬉しくなさそうな表情だ。


「不満げね。

 私に罵詈雑言でも吐いてほしかったのかしら」

「はい」


今度はフレヤが驚く番だった。

ヘレナは恨めし気に、悲しげにこちらを見ている。


「おねえさまはいつも私に心を開いてはくださらない」

「そんなことはないわ」


すぐに否定したが、ヘレナはその言葉を否定するように

強く首を振った。

ふわふわとした金髪が華奢な肩から零れ落ちる。


「もし私がおねえさまだったら、私という存在を絶対に許せない。

 お姉さまも本当はそうなのでしょう……!!」


心の柔らかいところにヘレナの言葉が擦り傷を残した。

決して深くない傷なのに、痛い。

すごく痛い。

血がにじみ出ている。

私が。

私が何のために自分を押し殺しているのだと思っているのだ。


「そんなあさましい真似、するわけないでしょう」

「ですが、お姉さまはもっと……!!」

「ヘレナ」


フレヤの声が一段と低くなった。

はっと気づいたようにヘレナが姉を見やる。


「そろそろ、口を慎みなさい」

「……はい。

 申し訳ございませんでした、お姉さま」


部屋に沈黙が満ちた。

Re: マーメイドウィッチ ( No.156 )
日時: 2016/10/19 01:34
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

(こんなつもりでは、なかったのに……)


隣を歩く沈鬱な表情の妹を見て、フレヤはわずかに唇をかんだ。

傷つけるつもりはなかった。

ただ、我慢ができなかった。

妹に申し訳ない思われと、憐れまれて、

傷をえぐる言葉の数々に、耐えられなかったのだ。

謝罪の言葉もとってつけたような感じがするので口には出せなかった。


「フレヤ」


聞きなれた声にはっと顔を上げる。

廊下の壁にもたれて、腕を組むチノがこちらを見ていた。

なぜかその姿に張り詰めていた心がふっとほぐれるのを感じた。

彼の姿にひどく安堵している自分がいる。


「チノ」


対するヘレナは、眉をかすかにひそめてチノを見ていた。

続いてフレヤのほうを見やる。


「お姉さま、こちらは……?」

「チノよ。

 私の護衛をしてもらっているの」

「彼は、以前、見かけなかった気がしますが……」

「数か月前に私の護衛となったのよ」


初めてヘレナと会った時に比べて、

ひどく身ぎれいだから気づかなかったのだろう。

不思議そうにチノのことをヘレナは見つめている。


「話は終わったのか」

「ええ」


ヘレナが目を見開いた。

王族に対する口の利き方がなっていないのに驚きを隠せないのだろう。

チノは別に臣下でも何でもないので、そこはフレヤは気にしていない。


「ああ、ここにいたのか二人とも」


どきりと心臓が脈打った。

柔らかな声とともに、ステファンが廊下の向こうから姿を現した。

平静を装って、ステファンに向き直る。


「話はすんだのだろうか」

「ええ、妹との久しぶりの時間、ありがとうございます」


軽く一礼するとステファンは静かにほほ笑んだ。

フレヤは目を細める。


「フレヤ様、私もあなたに少しお話があるのだが、いいだろうか」


チノが目を細めて動こうとした。

それを視線でけん制する。

動くな、何も言うな、と。

チノはもの言いたげにこちらを見つめていたが、

ふっと視線をそらした。

どうやらフレヤの意思を尊重してくれるらしい。


「できれば、私も人払いをして、話をさせてほしい」


ステファンの言葉に、フレヤはぐっと手を握りしめた。

人払いをして、ヘレナも付けないということは

ヘレナにも聞かせられない話だというのか。

また、懺悔か。

また、憐れみのまなざしを向けられるのか。

そう思うと、体がこわばってしまう。

必死にカラカラに乾燥した唇を動かした。


「私は、かまいません」


心とは逆の言葉がこぼれ出た。

Re: マーメイドウィッチ ( No.157 )
日時: 2016/10/19 23:36
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

こんばんはーm(*_ _)m
参照2400突破おめでとうございます!
私はちなみに2480を頂きました←←

いろはうたさんがこのコメントを見ている時はもしかしたら2500超えてたりするのかなーとか思ったり()


フレヤちゃんloveです(((いきなり
もともと、いろはうたさんが書かれる小説の登場人物は大好きなのですが……フレヤちゃんっ……いい!

フレヤちゃんだけじゃなくて、会話文とか描写など……私には真似出来ないものをたくさん持っていらっしゃるいろはうたさんの小説はいつも驚きと感激がたくさんですよ(o´艸`)


比喩っていうんでしょうか……そういう表現も無理矢理感なくナチュラルに入っていて、すごいなぁと尊敬します。


いつも更新が楽しみです!
無理しない程度で頑張って下さい!

応援しています(*´▽`*)


夜に失礼しました((。´・ω・)。´_ _))

byてるてる522

Re: マーメイドウィッチ ( No.158 )
日時: 2016/10/22 14:37
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/

てるてる522様!!


夜にまでありがとうございます!!
お久しぶりですねー!!


想像以上にフレヤさんが人気で
作者冥利に尽きます。
いやぁ……うれしいですねぇ……←実感わいていない


いろはうた的には、どん底まで突き落とされたヒロインが
一生懸命もがきながら、再び立ち上がる姿を書きたいと思っているので、
フレヤさんにはまだまだ苦しんでいただきます!!笑
褒めていただいたキャラをボロ雑巾のごとき扱いにして
すみません……汗


コメントありがとうございます!!


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