コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- マーメイドウィッチ
- 日時: 2016/06/21 11:41
- 名前: いろはうた (ID: FEOD1KUJ)
世界が止まった。
手が震える。
数拍のちに気付く。
私は大切な人に裏切られたのだと。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76
- Re: マーメイドウィッチ ( No.109 )
- 日時: 2016/07/27 13:09
- 名前: いろはうた (ID: dFWeZkVZ)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
「フレヤ!!」
強くゆすられて、フレヤははっと目を覚ました。
その瞬間目じりから、涙が零れ落ちた。
後から次々とあふれてきて止まらない。
視界いっぱいにチノの顔が見える。
必死の形相だった。
それを見て、目覚めてしまったのだと悟る。
「とてもね、幸せな夢を見ていたのよ」
フレヤはかすれた声でそうつぶやいた。
涙まみれの顔で言っている時点で、
どんな夢を見ていたのか悟ったのだろう。
チノはただ一言、そうか、とだけ返した。
腕に触れていたチノの手が離れていく。
ちょうど朝日が窓から差し込む時間帯だった。
「早起き、してしまったみたいね」
フレヤは、もう一度眠る気にはなれなくて、身を起こした。
身支度を整えた後、フレヤは父王の部屋に向かった。
護衛の近衛兵がフレヤの姿を認識して敬礼をする。
三日目にしてやっと父王への見舞いの許可が医者からおりたのだ。
チノは部屋の外に残して、フレヤは扉に手をかけた。
重すぎる木の扉の向こうは薄暗かった。
豪奢なベッドには父、イルグが眠っていた。
その傍まで歩く途中、ふと父のベッドの脇に金属製の輝くものが
光っていることに気付いた。
よく見るとそれは、
亡き母の純金製の貝殻を模したペンダントだった。
フレヤは息をのんだ。
その輝きはフレヤが幼かったころからなにも変わっていない。
どれだけ大切に手入れをされているのか一目でわかった。
いまだなお、亡き母を深く愛しているのだと悟った。
後継ぎがいないため、フレヤの母が亡くなった後、
家臣たちは父に再婚を何度も勧めたが、
頑として受け入れなかったのはこのためだったのだ。
狩りに明け暮れるようになったのも、
最愛の妻を失った悲しみをごまかすためで。
青い髪に深紅の目という亡き母そっくりの人間離れした容姿の
フレヤをかわいがってくれたのもそのためだろう。
最愛の妻の忘れ形見だからだ。
フレヤは父の枕元にある椅子に腰かけて、彼の顔を見つめた。
この三日で十も年を重ねたように見える。
「私は、あなたに似てしまったのですね、お父様」
最愛の人を忘れられなくて。
何もかもから逃げてしまいたくて。
不器用だから、上手にごまかせなくて。
他の人なんて到底考えられなくて。
ふと、枕元の棚に豪奢な花束が飾ってあることに気付いた。
メッセージカードにはヘレナ、ステファンより、と書いている。
見舞いの花束が贈られてきたのだ。
その名前は、今のフレヤが一番目に入れたくないもので
フレヤは思わず立ち上がった。
「また、伺います、お父様」
くるりと向きを変えると一目散にドアを目指す。
涙が目の端ににじんだ。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.110 )
- 日時: 2016/07/30 20:06
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
うっそうとした森の中を馬で駆け抜けることができず、
馬を歩かせることでゆっくりと森の中を移動していた。
ツタがあたり一面に映えており、馬の脚に絡みつくのだ。
もう少しで、目的の村が見えてくるはずだ。
タイヤ—という、地方伯爵のタイヤ—伯が治めている土地だ。
王都からもそう離れておらず、海辺に位置する大きな町だった。
他の辺境の地にある村とは違い、日々の食べ物に困るほどの生活ではないが、
王都と比べるとその生活水準は低い。
それが、フレヤが一年ほど前にタイヤ—を訪れたときの感想だった。
何年もかけて、国中のほぼすべての町と村を回った
フレヤだからいえることだ。
少しずつ視界が明るくなってくる。
緑の向こうに見えるのは、大きな門だった。
レンガで作られた立派な作りをしている。
その門の前に、いつもはいないはずの見張りの兵のような
男が二人立っていて、フレヤは森の中で馬の足を止めた。
「チノ、止まって」
背後でチノが馬を止める気配がした。
相手はまだこちらに気付ていない。
どういうことだろう。
この村は、このようなうっそうとした森におおわれているせいで
あまり盗賊などの襲撃は受けないはずだったのだが……。
「あたり、のようだな」
馬を静かにフレヤの隣に並べたチノがポツリとつぶやく。
フレヤもうなづく。
ここも革命軍の息がかかっているのだろう。
おそらくあの見張りの兵も革命軍の者に違いない。
「どうするんだ?」
「チノならどうする?」
まさか問い返されるとは思わなかったらしいチノが
しばらくの間黙る。
数拍のちに彼は口を開いた。
「おれならば、正面から入る」
「どうして?
それだと咎められるのでは?」
チノは首を振った。
彼には何か策があるらしい。
「今回はおれがなんとかしてみよう。
めずらしく姫君が臣下を頼ってくれるからには……」
すこしからかうような調子を含んだ声音に
フレヤは思わずチノの顔を凝視してしまった。
視線に気付いたチノは押し黙る。
「あなたでも、冗談を言うのね」
「おまえ、おれを何だと」
「冗談よ」
それだけ言うと、フレヤは馬を進めた。
見張りの兵がこちらの姿を認識して顔を険しくした。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.111 )
- 日時: 2016/08/06 01:06
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
チノには後ろの森で待機してもらっている。
フードを深くかぶり、相手からは口元しか見えないようにする。
目と髪を見せなようにするためだ。
「止まれ!!」
すぐに反応した見張りの兵たちが槍を振り上げて声を上げる。
フレヤはすぐに馬の足を緩める。
「何者だ!!」
「私は、メノウ様にお目通りを願いに来たものです」
フレヤは目を閉じて、少しだけフードを上げる。
閉じた瞼を兵達に見せつける。
「私は目の見えぬ哀れな者。
ゆえに、メノウ様にお会いすることで
少しでも心の傷を癒そうと」
とんでもなく棒読みだった。
フレヤは唐突に歌いだした。
小さな声だが、兵達に聞こえるように。
突如歌いだしたフレヤを兵たちは怪訝な顔で見つめた。
しかし、兵たちは徐々に目の焦点が定まらなくなっていた。
ゆるやかに槍が下ろされる。
「これは失礼いたした。
どうぞ中へ」
「ええ、ありがとう。
あなたがたも、このことは忘れるように」
「かしこまりました」
馬に乗ったまま巨大な門をくぐりぬける。
後ろから蹄の音が聞こえる。
すぐに、チノが馬を寄せてきた。
「どういうことだ」
「歌よ」
フレヤは前を見たまま答えた。
先ほど歌ったのは忘却の歌。
何もかもを忘れてしまう歌。
眼前に広がるのは、レンガ造りの家が立ち並ぶ町だ。
あちこちの煙突から煙が上がっている。
たしか、鍛冶屋が多い町だったか。
「おれが言っているのはそういうことではない。
おれがやると言っただろう」
「いつまでもあなたに頼るわけにはいかないわ」
フレヤは決して振り返らなかった。
振り返れなかった。
この力は、チノにまで影響を及ぼしているに違いないのだから。
しばしの沈黙の末、ぽつりと声が落された。
「すまない。
おまえはその力を好ましく思っていないのに
使わせてしまった」
だから、そんな声で謝ってほしくなどなかった。
- Re: マーメイドウィッチ ( No.112 )
- 日時: 2016/08/09 22:57
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1515cf/
町の中は、あたりから金属音が聞こえた。
鍛冶にいそしむ音だ。
この音がこの街を支えている音なのだと思うと、
なんとも不思議な感じがする。
なるべくきょろきょろとあたりを見渡さないように、
目の動きだけで周囲を観察する。
人々は忙しそうに歩き回り、フレヤには目もくれない。
「どうする気だ」
珍しく隣に並んで歩くチノがやや硬い声で言う。
この町にはおそらく間違いなくメノウがいる。
そのせいで気を張っているのだろう。
「メノウを探すわ」
沈黙は金属音にかき消されてしまう。
フレヤは会話を続けながらもメノウっぽい娘がいないか
視線だけであたりを観察する。
どの家もがっしりとしたレンガ造りの丈夫なものが多い。
道を行く人々の衣服も上等とまではいかないが、
清潔で簡素なものが多かった。
やはり、ひどく貧しいというわけではなさそうだ。
少なくともフレヤが今まで見て回った貧しい村とは違う。
「探すって、具体的には何をどうするんだ」
「地道に探すわ」
「探して、見つけたらどうする」
矢継ぎばやに質問がくる。
それだけ心配してくれているということだろうか。
ちらりとその横顔を見ると、チノもちょうどこちらを見た時だった。
真正面から視線がかち合ってどきりとする。
その瞳は真剣そのものだった。
「おまえの身を第一に考えて行動し……」
「わかっているわ」
フレヤはチノの言葉を遮るようにして言った。
もの言いたげなまなざしが己を射抜いているのがわかったが
気付かないふりをする。
何故かはわからないが、チノの顔を正面から見れなかった。
かたくなに前を向くフレヤの視線の先にふと一つの家があらわれた。
ごく一般的なレンガ造りの家に見える。
しかし、不自然に人がよりつかず、
その家の戸口には警備兵がいた。
フレヤは不信に思われぬよう、その家の前を通らないように
さりげない風を装って、右の角を曲がった。
- Re: マーメイドウィッ ( No.113 )
- 日時: 2016/08/10 06:17
- 名前: 織原ひな (ID: Qz56zXDk)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=41876
いろはちゃん!
元紗悠ってひとです、覚えてるかな
1年ぶりにカキコに帰ってきました
さすがの構文……
前見たときより更に素敵な文たちが……
まだ全部は見れてないけどとてもおもしろいです!
更新がんばって!
僕も復帰して新作始めたのでうらるの作品にいつか遊びにきてくださいな!
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76
この掲示板は過去ログ化されています。