神の使徒と希望のヒカリ 作者/乃亜 ◆uz.dYBj786

本当は、皆に付いて行きたかった。

皆の後ろ姿を、黙って見ているなんて出来なかった。

だからもう、私は後姿を見ないんだ。

見たくない。

皆の後姿を――――――



+12夜【後ろ姿は見たくない。】




ガタン―――ッ!

ゴッ―――ッ!!

何度も

何度も

鈍い音が冷たいコンクリートに響く。

何度も

何度も。

それが

この部屋の一秒一秒を刻んでいる。

クロアはもうボロボロで

体中から血が滲み出ている(ニジミデテイル)。

見るからに悲惨と言える。

だがクロアは

絶対に座り込まない。

「・・・・まだ発動しねぇの?黒魔術出来るまで?」

「・・・・ああ。」

クロアは口元に流れ出てきた血を舌の先でペロリと舐めると言った。

詠娑はソレをタダ普通に見ている。

「・・・・・よっしゃ、んじゃ始めるか。」

「・・・。」

クロアは黙って立ち上がるとイノセンスを発動させた。

揺ら揺らと体が揺れている。

ばたりと倒れた。

神剣はクロアに近づくとゆっくりと聞いた。



「―――――何でそんなに頑張んだよ?任務ならまだあるじゃねぇか?」



「・・・・見たくない・・・」



「・・・は?」

「見たくないんだよ・・・皆の後姿を・・・黙って・・・」

クロアは自分の右腕を顔の上に隠すようにするとまた言った。

「何にも出来ないのは解ってる。足手纏い(アシデマトイ)になる事も解ってた――――」
「じゃぁ行かなくて尚更良かった・・・・」

「違うんだよ・・・・ッ!」

クロアは叫び声を上げた。

そして神剣の胸倉(ムナグラ)を掴むと言った。


「・・・・俺は・・・皆の後姿を黙って見ていたくないんだって・・・」


そのまま力無くズルリとクロアは倒れこんだ。

詠娑はクロアの近くへ行くと、クロアの傷だらけの手を持って言った。


「・・・・だから練習するんじゃないんですか・・・」

「・・・・・」

「私達はクロアさんを救ってくれ・・・とコムイさんに頼まれました・・・・」

「・・・・・コムイが・・・・」

″君はまだまだ練習が足りない〟――――

コムイの言葉が耳に木霊(コダマ)する。

クロアはニカッと笑うと立ち上がった。

「よっしゃ!もう一回始めるぞッ!」

その笑顔を再び見ると、詠娑と神剣は顔を見合わせて笑った。

「・・・・そうだな・・・」

「じゃぁ今度は私で♪」



――――冷たいコンクリートの心から

温かい人の心に

何かは変わった――――