すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.5*百合色ファゴット!】
放課後のチャイムが鳴った。
よっしゃ、部活!!
私はチャイムと同時に教室から飛び出し、音楽室へと向かった。
音楽室の前に着くと音楽室のドアは開いていたが、楽器の置いてある第一準備室のドアは開いていなかった。
加賀美先輩、開け忘れたのかな?
だとしたら米長先輩が来たらまた土下座のパターンじゃ……。
先輩ながらつくづく哀れです、加賀美先輩。
というわけで、私は加賀美先輩を探すため音楽室のドアを開けた。
すると加賀美先輩はおらず、代わりに黒髪のポニーテールを風に揺らしてピアノ椅子に座っている女の人がいた。
手には細長い茶色の楽器を持っている。
「あ、あの」
私は意を決して声を掛けてみた。
彼女は振り向く。
「何?初めて見た顔だから一年生かしら。名前は?」
透き通るような少し低めの声。
外見ととてもぴったりだ。
*ポニーテールの女の人の印象
落ち着いた大人の女性
「え、あ、有泉凜です!今月から入部しました!」
ポニーテールの女の人はふーんと呟き、頬杖をついた。
そして私の方を見て、にっこりと微笑む。
「私は二年生の川端下美咲。ファゴット担当なの。よろしく」
そういって川端下先輩は私の手を握った。
っていうか二年生なんだ。大人っぽいから三年生かと思ってた。
それと、あの楽器。
ファゴットっていうんだー!また一つ勉強になりました。
……じゃなくて!!
「で、あの、川端下先輩」
「ん?」
先輩は真っ直ぐ私の目を見つめてくる。
な、何か照れるんだけど!!
「加賀美部長はどこに……」
「部長?今日は部長だけじゃなくて三年生全員が卒業アルバムの写真撮影で遅れるらしいわ。だから私が鍵預かってるのよ」
川端下先輩はポケットから鍵を出し、指でクルクル回して見せた。
そして、
―――あ、落とした。
先輩は無言で鍵を拾う。
うん、見なかったことにしよう。
「じゃあ他の方は……」
私は素朴な疑問を投げかけた。
三年生の先輩がいないのは今分かったけど、それなら何で他の皆がいないんだろう。
川端下先輩はフッと笑う。
「ほとんどの人が委員会。あとは学級委員会議とかそういう系。ほら、吹部ってそういう役回りの人多いでしょ?」
「そうなんですかー」
私は相槌を打つ。
確かに委員会とか学級委員長とかやってる人は多いけど、部員がほとんどいなくなるレベルって……。
「……おわっ!?」
私が感心していると川端下先輩が私の顔を覗き込んでいた。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「な、なんですか」
「いや、凜ちゃんって可愛い顔してるなーって思って」
―――……ん!?
嫌な予感が頭を巡る。
「やっぱり女の子はロングが一番よねー」
そんな嫌な予感を実現させたかのように、川端下先輩は私の長い髪を触る。
私は後ろへ後ずさった。
のだが、後ろは壁で。
「せ、せんぱ……」
え、ちょっと待って!!
コレって、え?ん!?ええええええええええ!?
その時、ドアが開いた。
「失礼します」
ドアを閉める音とともに聞こえた声。
この声は!!
「あれ?美咲じゃん」
「もう、由里子かー。ビックリさせないでよ」
入ってきた由里子先輩に拗ねた顔を向ける川端下先輩。
すると、由里子先輩と目があった。
「凜ちゃん!?何で……って、まあ理由は大方予想ついてるけど」
そういって由里子先輩は川端下先輩を睨む。
そして私に視線を戻して川端下先輩を指差した。
「凜ちゃんもコレの被害に逢ってたんでしょ?」
被害って……まあ、そんなもんだよね。
私が何も言わずにいると由里子先輩は、
「あと、もう気づいてると思うけど、一応。川端下美咲の好きな物は女の子と女の子と女の子だから。凛ちゃんも気をつけなよ」
と淡々とした口調で言った。
先輩の言ったことが理解できず、私は固まっていた。
「―――……えぇぇぇぇ!?」
ようやく理解できたとき、言葉が口を突いて出てきた。
だって女の子と女の子と女の子が好きって、
「だから、俗にいうレズなの。女の子が大好きで男が大っ嫌い」
*川端下先輩の印象
落ち着いた大人の女性⇒人ラブ!!(ただし女子に限る)
「は、はははは……」
由里子先輩の言葉に私はただ笑うことしか出来なかった。

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