すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.28*幼馴染と修学旅行!】
後ろの席から楽しそうな声が聞こえる。
私―――箭本ひなたは外の景色を眺めながらその声に耳を傾けていた。
悠ちゃん、楽しそうだな……。
最近、気が付けば悠ちゃんの事ばかり考えている。
でもいくら好きだからと言っても、報われないんだなーコレが。
悠ちゃんが誰かを好きだとか聞いたことないしなー。
あれ?これって……一生報われない少女漫画の幼馴染キャラの典型的パターン!?
チョコレート●スモスじゃん!まじ悠士じゃん!(元ネタが分からない人は春田なな先生を検索してみよう!)
「ひなちゃん、パッキー食べるー?」
声の方に視線を向けると絢音ちゃんがパッキーを私に差し出していた。
ちなみにパッキーとはサクサクの細長いプレッツェルをチョコレートでコーティングしたもの。
いわゆるポ●キーである。
「ありがと、絢音ちゃん」
私はパッキーを受け取って食べる。
そんな私を見て絢音ちゃんの隣に座っている郁ちゃんが口を開いた。
「そういえば、ひなた」
「何?郁ちゃん」
私は二本目のパッキーを頬張る。
「さっきボーっとしてたけど何考えてたの?」
郁ちゃんの質問に三本目のパッキーに伸ばした手が一瞬止まる。
だが、私は平静を装う。
「別に?外の景色が綺麗だなーって思ってただけだよ」
咄嗟に出た嘘。
だって悠ちゃんの事考えてたなんて悠ちゃんの真後ろの席で言えないっつーの!
でもこの嘘絶対ばれる。
今乗っているのは特急新幹線。
景色なんてすぐ過ぎていくから眺められたもんじゃない。
これヤバいって!絶対気づかれたって!
私は不安げに郁ちゃんの方を見た。
すると郁ちゃんはニヤッと笑って、
「ひなた、動体視力凄いんだね」
絶対気づかれたァァァァ!!
絢音ちゃんと私の隣の麻梨亜ちゃんは気づいて無いっぽいけど……絶対気づかれたァァァァ!!
こうなったら、せめて郁ちゃん以外の人には悟られないようにしなければ!
「……で、でしょー!!いやー、綺麗な空!!絶好の修学旅行日和だね!」
「ひなた、今雨降ってるよ」
私のカモフラージュは麻梨亜ちゃんの言葉によって玉砕された。
これじゃ、ばれるのも時間の問題だよー!!
「この灰色のコントラストがいいなー!みたいな!?」
私は再びカモフラージュにかかる。
が、く……苦しい!!
「へぇ……ひなたって嘘下手だね」
ボソッと呟いたその声に私の背筋が凍る。
もちろん声の主は郁ちゃんである。
「な、なななな何で!?」
私は平静を装いながら返したつもりだが、動揺がにじみ出てしまっている。
さ、最悪……。
「何で、って決まってるじゃない」
郁ちゃんの笑みはだんだんとどす黒くなっていく。
それと反比例するように私の引きつった笑顔は白くなっている気がする。
何これ、貧血?いや、じゅんじゅんじゃあるまいし……。
あ、じゅんじゅんっていうのは後ろの席に座ってる一人、詢のことね!
……って今はそんなことどうでもよくって!!
「今日の晩御飯は超豪華バイキングよ」
郁ちゃん、違うゥゥゥゥ!!
別にそんなことどうでもいい!いや、よくないけど!!
「そ、そうなんだー……ありがとね、郁ちゃん……ははは……」
……―――私の努力って、いったい……。

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