すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.15*女帝とヘタレと暴力女!】



―――朝。
家のチャイムの音で目が覚めた。
ドアが開く音がして、階段を誰かが上っていく。
そして、私の部屋のドアが開いた。

「ひなた!いつまで寝てんの!?」

……悠ちゃんだ。
若干イラついている様子が伺える。
私と悠ちゃんは生まれた時からの幼馴染で毎日一緒に登下校している。
家が隣同士なので、いつもは家の前で待っていてくれるのだが今日は私が寝坊してしまったらしく、迎えに来たというわけだ。

「ん……まだ起きたくないー……」

私は布団を被った。
すると悠ちゃんはその布団をひっぺがす。

「いつまでも子供じゃないんだから。ハイ、起きる!!」

お前はおかんか!!
それから色々小言を言う姑のような悠ちゃん。
さすがにイライラしたので、

「……さっきからうるせぇんだよ。姑かお前はァァァァ!!」

昔ならっていた柔道の技をフル活用して悠ちゃんを投げ飛ばした。

***

「いたたたた……何で俺の周りには暴力的な女子が多いんだろう……」

「何か言った?」

腰を擦りながら言う悠ちゃんに私はにっこりと微笑む。
すると悠ちゃんは大きく首を横に振った。
ほんっとヘタレ。
だけど悠ちゃんは顔は割とイケメンなのでモテてはいる。
でも、本人は鈍感すぎて気づいてないし、何より私が周りの女子を近づかせていない。
だって、



―――悠ちゃんが好きだから。



いつも邪険に扱ってるし投げ飛ばしちゃうけど、小学校のころからずっと好き。
まあ、悠ちゃんは私なんて眼中にないだろうけど。
だから絶対に言わない。

……ただ、言わなくてはいけないのかもしれないとも最近思う。

「加賀美!!」

教室に入ると吹部の副部長、郁ちゃんが悠ちゃんの元に駆け寄る。
私が言わなくてはいけないと思う原因は郁ちゃんにある
―――保育園でも、小学校でも中学校でも加賀美に近づく女子はいなかった。
別に人気がなかったというわけではなく、周りの女子が消極的だったからだ。

だが高校では違った。

―――高校一年生、春。

「あー……緊張で胃が痛い……」

私の隣で悠ちゃんは胃を押さえる。
今日は私と悠ちゃんがここ、南梨高校に入学する日。
確かに緊張するといっても……情けないな。

「何言ってんの、このヘタレが」

「もうヘタレでも何でもいいから、ひなたと一緒のクラスがいい……」

私が冷たく言い放つと、悠ちゃんは私にもたれ掛った。
な、なななな何してんの!?
天然のタラシすぎるっつーの!!
私の顔の温度が上昇していくのが分かる。

「あ、甘えたこと言ってないの!!私先に行くから!!じゃ!!」

私は悠ちゃんを柔道技で投げ飛ばし、走った。
じゃないと、私の気持ちがばれてしまいそうな気がしたから。

私がクラス表に書いてあった教室に入って座っていると、しばらくして悠ちゃんが入ってきた。
私はさっきの事を謝ろうと口を開く。

「ゆ、悠ちゃ―――」

が、その言葉は途中で切れた。
悠ちゃんの隣にレイヤーの入った肩までの金髪に近い茶色の髪が印象的な女子がいたからだ。
そして、悠ちゃんが私に気づいた。

「あ、ひなた」

「……悠ちゃん、その人誰?」

声を掛けてきた悠ちゃんに私は俯きながら聞いてみる。
もしかして彼女だったら?
だとしたら中学の時から彼女がいたの?
色々な感情が心を駆け巡る。

「同じ塾だった米長郁花さんだよ」

悠ちゃんから帰ってきた言葉に私は少し安心した。
隠してるだけかもしれないけど、彼女の確率は低くなった……のかな?

それから三年、今は同じ部活になって確実に悠ちゃんと郁ちゃんがそういう関係ではないという事は明らかだけど、今でもたまに不安になる。
もし郁ちゃんが悠ちゃんの事が好きでも、私―――、