すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【番外編*Wish under the Milky Way-空気くんのお願い-】
先日、人気投票で同情票を勝ち取った網倉のもとを離れ、ナルシス子な小尾先輩、何か荒んでいるひなた先輩、模範解答な青山先輩たちの元も去り、主 人 公 ☆が次に向かうのは飾り付け担当のガチ百合、川端下先輩のところ。
正直苦手なんだよね、川端下先輩。
いい人なのは知ってるんだけど、その親切心の下に下心があるのも知ってるからなぁ。
そんな憂鬱な気持ちとは裏腹に川端下先輩のいる音楽室まで戻るのはそんなに時間がかからなかった。
私は一瞬ためらいつつも、ドアを開けた。
「失礼しまーす……」
私はおずおずと中へ入る。
すると前方から猛スピードで走ってくる影が。
「凜ちゃああああああああああああああん!!」
「うわっ!?」
予想通りの川端下先輩である。
やば、抱き着かれるってコレー!!
抱き着かれた後のガチ百合展開も覚悟したうえで、ぎゅっと目を瞑る。
「うおっ!?」
だがその瞬間、川端下先輩の声。
おそるおそる目を開けてみると、川端下先輩に見事にヘッドロックを掛けている小鳥居先輩の姿が。
え、何この状況。
「あ、凜ちゃん。悪かったな、ウチの美咲が迷惑かけて」
小鳥居先輩はその体勢のまま言う。
なんかもう、どこからツッコめばいいのやら。
「ウチの、って……そんな、渚ちゃん!私の事そんな風に……」
「お前は死んでろ!」
ヘッドロックをされた状態で妄想爆発の川端下先輩に小鳥居先輩は蹴りを入れた。
うん、きっとここはこういう感じでいいんだよね。
「ところで、小鳥居先輩は短冊に何て書かれたんですか?」
私は空気を換えるため、口を開く。
すると小鳥居先輩は真顔で、
「『美咲が爆ぜますように』」
と短冊を顔の前でひらひらさせた。
「え、渚ひどいー」
川端下先輩はそれを見て小鳥居先輩に抱き着きながら言った。
もちろん「うざい」の一言でひっぺがされたのだが。
だがそんな仕打ちにもめげない川端下先輩は、
「ねぇ、凜ちゃん。私も短冊書いたんだけど、見たい!?」
「いえ、別に……み、見たいです!すっごく見たい!!」
「今言い直したよね!?まぁ、しょうがないなぁ。可愛い凜ちゃんのためなら見せてあげる」
先輩は制服の胸ポケットから短冊を取り出して私に渡した。
どうせ先輩の事だから百合系のことなんだろうなぁ。
私は短冊を見た。
……。
「『世界中の可愛い女の子が全員私のご主人様になりますように』って、先輩M属性ィィィィ!?」
だってご主人様って!ご主人様ってー!!
ガチ百合属性にM属性ってー!!
「まぁ、どちらかと言われたらMだねぇ。別に罵られるにも抵抗ないし」
「……美咲、私の半径一メートル以内に近づくなよ」
真顔で言う川端下先輩から小鳥居先輩は怪訝そうな顔で離れる。
だが、やはりそんな事にも動じず川端下先輩は、
「渚もそうだけど凜ちゃんになら罵られてもいいかなーなんてー!!」
そうハイテンションに言い放った。
数秒の沈黙。
「―――先輩、これの飾り付けお願いします。では、失礼します」
私は机に短冊を置くと、猛スピードで音楽室を去るのだった。

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