すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.40*気苦労が絶えない彼らの雑談!】
「はぁ……」
私―――小鳥居渚は溜め息をついた。
あたりを見渡せば皆、私のように溜め息ばかり。
ここは北棟二階の教室。
何をしているのかというと、鬱談だ。
そしてその鬱談をしているのは、気苦労会。
気苦労会とは私たちが付けたグループ名みたいなもの。
ちなみに気苦労会のメンバーはフルートの堂、パーカスの千紘、ペットの美馬、チューバの涼、ボーンの白築、クラの飯室先輩、サックスの加賀美部長だ。
活動内容は月一回のペースでパート内でたまったうっぷんをまき散らして帰る。ただそれだけ。
ちなみに私はもちろん美咲の私に対してのコミュニケーションの取り方についての愚痴をまき散らして帰る。
じゃないとパート練なんてやってけねぇよ。私気短いし。
「では、今月の気苦労会を始めます。何かうっぷんがたまっていらっしゃる方はいますか?」
司会の堂が柔らかな口調で言った。
その瞬間、その場にいた全員が勢いよく挙手。
さすが、溜まりに溜まってるな。
「では、トロンボーン代表の和真くん、どうぞ」
「はい」
堂に名前を呼ばれて返事をしたのはボーン3rd白築。
でも私が思うに、ボーンパートでうっぷんなんて溜まることはないと思うんだが……。
「貴家先輩の島根弁イジリが最近ひどいんじゃ」
それを聞いた周りのみんなは、あぁ……と苦笑を浮かべる。
ただ、周りとは違い、一人だけ鼻で笑う人物が。
「それくらいならいいじゃないですか」
パーカッションの千紘だ。
千紘はムッとする白築をよそに続ける。
「僕なんて入部した時からずっと“千紘ちゃん”ですよ。分かります!?十六にもなってまで、ちゃん付けで呼ばれる男の気持ちが!!」
まくしたてるように白築に詰め寄る千紘。
それを見て溜め息をつくのは、トランペットの美馬。
「ま、まだいいじゃないですか。私なんていつも、まつ毛のカールさせられそうになってるのに……っ」
控えめな声だが、まつ毛のカールが嫌だという意思は伝わってくる。
っていうか、やっぱり皆何かしら愚痴はあるもんなんだな。
「皆、まだまだだね」
そう、口を開いたのはバスクラの飯室先輩。
っていうか、その台詞どこのテニプリですか!?
「いつも誰かが窓閉め忘れるせいでパート練の度に命の危険にさらされてるからね、俺」
そして溜め息。
たしかにいつも、バタンバタン倒れてるの見るな。
「詢、お前もまだ甘いよ」
いつもの雰囲気とは打って変わって哀愁漂う笑みを浮かべているのは、加賀美部長。
「いつもいつも女子の尻に敷かれる俺の気持ち考えたことある!?俺がパーリーなのに!俺が委員長なのに!俺が班長なのに!俺が部長なのにィィィ!!」
か、加賀美先輩……?
今ので結構吐き出したかのように見えた先輩だったが、まだ言いたいことがあるらしく、彼の勢いは止まらない。
「だいたいさぁ、何で米長さんが部長みたいな感じになってるの!?皆最初の頃、米長さんが部長だって思ったでしょ!?パーリーだってひなただと思ったでしょ!?ねぇ、千紘ちゃん!!」
突然同意を求められ、千紘は「はぁ……」と困り顔。
「だいたい米長さんも米長さんだよ!いっつも俺の事馬鹿にしてさぁ!俺だって米長さんに尻に敷かれてばっかりじゃないんだっつーの!!いつか絶対俺が部長なんだっていう事、見せつけてやる!!」
「―――へぇー……大層な野望じゃない」
加賀美部長がひとしきり語った後、聞こえたあの人の声。
と同時にこわばる加賀美先輩の顔。
「よ、よよよよ米長さん!?いつからここに!?」
部長が最も恐れる存在を目の前にし、どもりまくりながら問うた。
すると米長先輩は加賀美部長の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。
「いつから、って……テメェが調子乗ってべらべらしゃべり始めた時からだよ!!」
眉間にしわを寄せ、もう完全にヤンキーにしか見えない形相で加賀美部長に詰め寄る米長先輩。
その形相を見て加賀美部長の目は泳ぎまくる。
そして、米長部長は口元にだけ笑みを浮かべて、
「……さぁ、見せてもらおうじゃねぇか。お前が部長なんだってことをなぁ!!あ?」
米長先輩、もうそれヤンキーです。
一気に血の気が顔から引いた加賀美部長は、
「す、すいませんでしたァァァァァァァ!!」
とスライディング土下座をするのだった。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク