すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.35*私の気持ちと修学旅行!#2】



「で、結局話って何?」

階段横、悠ちゃんが訊く。
あとは好きって言うだけ、なのに。
その一言がなかなか言えなくて。

「えっと……」

言葉がとまる。
私の気持ちは声にならない。
でも、言わなきゃ始まらない。



「……私、悠ちゃんのことが好き」

私の吐き出した一言に悠ちゃんは驚いている。
やっと言えた……。
でも返事はもうわかってる。

「ずっと好き」

だからこそ私には言わなきゃいけないことがある。

「―――だけど、」

少女漫画なんかでは幼馴染は大体フラれる役目。

「私なんかよりずっと、悠ちゃんの事を好きな人がいる」

だったら、主人公に譲ってあげるのが一番でしょ?


「私、ホントは知ってたの」

郁ちゃんが悠ちゃんを好きなことぐらい。

「でも、気づいて無いフリしてた」

悠ちゃんを取られたくないから。

「郁ちゃんが自分の気持ち言えるようなタイプじゃないのも知ってた」

だから、気付かないフリしてた。

「私、ずるいの……」

郁ちゃんは私の事応援してくれたのに。



私が言い終わると、悠ちゃんは何て言ったらいいか分からない様子で私を見ていた。
私の涙は止まらない。

「ごめん……」

私は流れ続ける涙を拭いながら呟いた。
早く泣き止まないと。悠ちゃんが困る。

「ひなた、」

「―――悠ちゃん!」

沈黙に耐えきれなかったのか悠ちゃんが発した一言を私はさえぎる。

「私、返事はいらないから」

私は俯きがちに言った。
自分ではしっかりと言ったつもりだったのに、声が震える。

「え、でも……」

「いらないって言ってるでしょ!?」

悠ちゃんの態度に私は大声で返した。

「……じゃ、それだけだから。呼び出してごめんね」

「うん……じゃあ」

悠ちゃんは自分の部屋へと戻って行った。

勝手に呼び出して、告白して、怒鳴って。
私、いったい何やってるんだろう。
もしかしたら、悠ちゃんに嫌われてしまったかもしれない。
もう、“幼馴染”には戻れないかもしれない。

でも、伝えることに意味はあったと思うんだ。

「……好きだったよ、悠ちゃん」

誰もいなくなった階段横で私は呟いた。
もう、悠ちゃんへの気持ちはなかったことにしよう。
そう思えば思うほど涙は止まらなかった。