すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.14*黒一点!】s
「嫌だぁ―――!!」
何やらサックスの部屋のある方から聞こえてくる叫び声。
そんな声には構わず、真面目に落ち着いて練習―――
「誰だろ、今の叫び声」
……できたらいいんですけどね。
堂凌雲、高校での吹部は二年目。
今までに真面目に静かに練習、という風景を見たことがありません。
原因その一。
「誰でもええやないの。それよりウチ、八つ橋食べたいわー。樹里音、買ってきてー」
「樹里音ですか?それではヘリコプターをグラウンドに用意しますので少々お待ちください。……あ、もしもし?武村?あのね……」
「え!?樹里音ちゃん、ヘリも持ってんの!?さすが深沢財閥の娘だわー」
女子同士の会話が途絶えない事。
男の僕には理解し難いです。ある意味そんなに喋れるなんて尊敬です。
第一、ヘリコプター持ってるって、どれだけお嬢様なんですか。
―――かなりのお嬢様で世間知らずの樹里音さん。
会話を止めることもせず、むしろ入っていくタイプの雑誌モデルも務めるパーリー青山麻梨亜先輩。
そんな麻梨亜先輩のライバル誌のモデルで“可愛さ”の追及に精を出している校則無視常習犯、小尾結実先輩
パート練習が円滑に進むはずがない。
僕は溜め息をつく。
「うっわ、枝毛。私の可愛さが半減しちゃうー」
そんな僕の思いとは裏腹に、結実先輩はカールした長い黒髪の先端を見つめている。
ちなみに今のセリフから分かる通り、結実先輩は可愛い自分が大好きです。俗にいうナルシストです。
まあ、実際に可愛いのであながち間違ってはいないんですが。
「ホンマかーウチも気を付けんとなぁ」
麻梨亜先輩も長い髪の先端を見つめる。
それを見て樹里音さんも同様、先端を見つめた。
―――……え、何ですかこの光景。
教室でフルート片手に枝毛チェックする美人女子三人と心の中で突っ込みを入れまくっている男子一人。
何なんですか、コレ。
ほ、他のパートはどうなのでしょう?
やはり真面目に練習しているのでしょうか?
それとも僕たちみたいに……。
あ、そういえばペットの美馬さんも同じようなことで悩んでいたような……?
今度各パートの悩んでいるメンバーで座談会でもしてみましょうか。話数も一話稼げますし。
そんな事を考えていると、いつの間にやら女子三人は練習を始めていた。
実にマイペースです。
「僕もやりますか……」
そう呟き楽器を構えた。
その時。
「どうしよう、麻梨亜!髪のウェーブ緩くなってきたかもしんない!私の可愛さが半減しちゃうーっ」
「ホンマかーウチは巻いてへんから分からんけど、大変やなー」
「すごく大変ですよー!樹里音も巻いてるんですけど、雨の日とかペッタリしちゃって」
再び始まった女子特有の会話に僕は頭を抱えた。

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