すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.62*え、ちょっとウザいんだけど!】
「ねぇ、翔くん」
「なんですか、由里子先輩」
コンクールの演奏が行われる会場内の通称ウインドホールに向かう、半円を描いた広い廊下を歩いている途中、私の隣で由里子ちゃんが言った。
「他の子と行動してもいいんだよ?別に今回はパートごとの移動ってわけじゃないんだし」
由里子ちゃんは自分の後ろにいる薬袋くんに言う。
別にパート移動でもないのに、薬袋くんは由里子ちゃんにべったりなのだ。
それで、見かねた由里子ちゃんが……という流れなうです。
「大我は三門さんと回ってますし、千紘はパーカスの先輩方に連れまわされているし、綾瀬はサックスの先輩方と回ってるみたいなので……それに俺は先輩と一緒に回りたいんです!!」
由里子ちゃんの目を真っ直ぐ見つめ、熱弁する薬袋くん。
だめだ、コレ離れる気が皆無だよ!
「ちょっと、涼。アンタも何か言ってよ」
困り果てた由里子ちゃんは私に振る。
いや、何かと言われましても……。
仕方ない。ここは由里子ちゃんのために一肌脱ぐか!
「薬袋く」
「少し黙っててください」
……泣きたい!!
いくらなんでもこの扱いはないでしょ、薬袋くん!
もうなす術がないよ、由里子ちゃん。
私は視線で助けを求める。
それに気づいた由里子ちゃんは一つ溜め息をついて、
「もういいよ。どうしても回りたいって言うなら仕方ないし?一緒に回ってあげよっかなーなんて、」
少し俯きながら言った。
そして薬袋くんの方を見上げる。
「思ってるんだけど、どう?」
「ありがとうございます!!」
満面の笑みで言う薬袋くんに照れ顔の由里子ちゃん。
……あれ?私、邪魔?

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