すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.16*となりのかけるくん!】
「ホントに死ぬ……ていうか死にたい」
いつものように背中に弦バスを背負い、階段をおぼつかない足取りで下っていく。
そんな中、私―――芦沢由里子は虚空を見つめ呟いた。
「だから俺が持ちましょうかっていってるじゃないですか」
すると前をチューバを抱えて歩いていた翔くんが振り向いた。
私が弱音を吐くと翔くんは必ずと言っていいほど、この台詞を言う。
今だって五メートルは離れてるのに……どんだけ耳いいのよ。
「いい!一人で持てるもん!」
ついムキになっていつも通りの返答をしてしまった。
言った後で少し後悔する。
最近思う。
翔くんは私の事をどう思ってるんだろう。
だって、いつもこんな感じで返しちゃうし、素直じゃないし、可愛くないし……。
内心イライラしてたりするのかな……?
―――……って、
「何で私、こんなこと……っ!?」
何故か顔が熱くなる。
すると翔くんは再び振り返って、
「由里子先輩、どうかしました?」
由里子“先輩”。
この先輩という単語が何度邪魔だと思ったか。
あと一年遅く生まれてたら、もっと一緒に―――。
なんて、
「……か、翔くんのバカっ!!」
馬鹿みたい。
「馬鹿ってなんですか、馬鹿って」
私の言葉に翔くんはむくれた。
いくら温和な方の翔くんでも、さすがに怒ったかな?
私は翔くんの元に駆け寄った。
「ご、ごめん」
そう一言だけ言って、また階段を下りた。
お、重い……。
おぼつかない足取り。
すると後ろから翔くんが、
「別に気にしてないですから」
と爽やかな笑顔を浮かべながら私の隣を歩く。
ふらふらしながら歩いているため私のスピードは遅いのだが、翔くんはペースを合わせて一緒に歩いてくれている。
私の事なんか気にしないでもっと早く歩けばいいのに。
そう思って背の高い翔くんを見上げると、それに気づいた翔くんは私に微笑む。
もう、なんなのよ。
「いちいちドキドキさせんな、馬鹿ーっ!!」
私の言葉に翔くんは「すみませんね」と私の頭に手を置いた。
―――やっぱり、翔くんはずるい。

小説大会受賞作品
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