すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.9*小さな太陽!!】



柔らかくて優しい音。
窓から差し込む暖かい日差し。
俺がこの世界で好きなもの。
開いた窓から吹き込む風に色素の薄い髪がなびく。

と、同時に傾く体。

―――あ、やば……。

「い、飯室先輩ぃ―――!!」

俺を呼ぶ声が微かに聞こえ、目の前が真っ白になった。



「先輩、大丈夫ですか?ごめんなさい、私窓開けっ放しにしちゃって……」

俺が目を覚ましたのは保健室だった。
心配そうに同じパートの後輩―――亜弓亜雫さんは俺の顔を覗く。
―――飯室詢、高校三年生。南梨高等学校吹奏楽部クラリネットパート。
特技はじゃんけん、けん玉、あやとり。
好きな食べ物は福神漬け、嫌いな食べ物は野菜。

悩みは、体が弱いこと。

「まぁ、さっきよりは大丈夫……」

俺は生まれつき体が弱く、日光に当たりすぎると貧血を起こすという面倒な体質だ。
そのせいで色は白いし、体育の屋外授業はできないし、夏でも登下校は長袖だしで散々だ。
それに加えて体力もないので中学の時に嫌々、文化部の吹奏楽部に入ったのだが……クラリネットの優しい音色の魅力に取りつかれ、吹部歴六年目突入だ。

「はぁ……また頭クラクラしてきた……」

俺は頭を押さえた。
目の前がかすむ。

「先輩、まだ寝てた方がいいかも」

そう言ってもう一人の後輩―――功刀さんは俺に布団を掛けた。
皆が気を使ってくれてるのが分かるだけに、倒れる度に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
俺は溜め息をついた。
すると保健室のドアが開いて、

「詢、大丈夫か」

同じパートの同級生―――青木雅人が息を切らして入ってきた。
その前髪はピンでとめられている。
雅人は演奏中には前髪をピンでとめる……という事は、演奏の邪魔をしてしまったという事か。

「軽い貧血だから大丈夫だよ。ありがとうね、雅人」

俺は雅人に笑って見せた。
そして元の表情に戻って、

「満足にひなたぼっこも出来ないとか人生損してるよね、俺」

俺はムッとむくれた。
すると雅人は俺に近づいて、俺の手に何かを握らせた。
俺は手を開く。

「飴……」

そこにはオレンジ色っぽいパッケージの飴があった。

「あげるよ。疲れた時には甘い物が一番だ」

雅人は微笑んだ。
俺もフッと笑って飴のパッケージを開けた。
中から出てきたオレンジ色の飴は保健室から差し込んだ光に反射してキラキラしていて。
まるで、

「―――太陽みたい」

俺は小さく呟いた。
そしてその小さな太陽を頬張って、笑った。



―――瞬間、俺はベッドに倒れた。
薄く開いた目から見えるのは窓の方を見てあわてる亜弓亜さんの姿。

「あ、また窓閉めるの忘れた……」

……いい加減にしてください。