すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.20*先生!】
「……やっぱりこのカップリングが一番よね」
私は手に持っている薄くて高い本のページをめくりつつ呟く。
そしてその音は誰もいない一年E組の教室の中では大きく聞こえた。
―――功刀つばさ、高校一年生。クラリネット担当。
好きな物:BL。
BLとはボーイズラブの略。簡単に言えば男の子同士の恋愛ものだ。
そしてそんなBL好きな私はいわゆる“腐女子”というやつで。
ちなみに私が腐女子だという事を知っているのは親友の樹里音だけ。
他の人には死んでも言わないつもり。
今だって部活の練習中だけど、飯室先輩が倒れて他の皆は保健室に付き添っているので読む時間が出来た、みたいな感じ。
じゃないと家ではとても読めないし……。
まわりからは同じ階で練習しているフルートとサックスの音が聞こえてくる。
それを聞きながらBL漫画を読むのが私の至福のひととき。
―――でも、そろそろ練習しないとマズイよね……・。
私はクラリネットを手に取る。
すると、
「お、やっと練習開始ですか?」
突然後ろのドアの方から聞こえた声に驚いて振り向く。
視線の先に映ったのは高い鼻に細い目。そして黒縁眼鏡をかけて白衣を着た男の人。
私の胸が高鳴る。
「萱沼先生……」
先生はにこっと優しい笑みを浮かべた。
―――萱沼優先生。
クラリネットの練習部屋、一年E組の担任で二十六歳の新米理科教師。
そして私の好きな人。
決して加賀美部長や網倉みたいなイケメンとは言い難いが、私のタイプのど真ん中なのだ。
「……あれ?」
そんな時、私はあることに気づいた。
「さっき先生、“やっと”って言ってましたけど、いつからそこに……」
私は引きつった笑みを浮かべながら先生に問う。
もし、先生が結構前からいたとすると、本を見られている可能性がある。
本を見られていたとしたら一巻の終わり。
変な趣味を持っている子だと思われてしまう。
それだけは絶対に嫌だ!!
「いつからって……始まって三行目ぐらいかな?」
「先生、小説のキャラがそんなこと言わないでください」
私はツッコむ。
まあ、キャラとか言ってる時点で私もアウトなんだけれども。
……っていうか、急に丁寧語崩すの反則!!ドキドキするじゃないですか!!
私はドキドキする心臓を押さえ、かなり身長の高い先生を見上げた。
「ん?どうかしましたか?功刀さん」
すると視線に気づいた先生が微笑みながら私の顔を覗きこんだ。
え、わ、顔近い!顔近い!
ただでさえドキドキしていた心臓がさらにスピードを速める。
「べ、べべべっべ別に!?何でもないですけど!!」
あ、やばい!声裏返った!
再び先生を見上げると、先生はくすっと笑って、
「そうですか」
―――先生の一言が行動が私の表情に色を付ける。
一日会えなかったら青色、褒められたら黄色、たくさん喋った日は桃色。
小さなことなのに、私の中では多くを占めていて。
何でこんなに好きなんだろう。
何度考えても分かりそうにないから、
ねぇ、先生―――、

小説大会受賞作品
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