すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.32*She is ナルシス子!】
光るフラッシュとシャッター音。
俺の隣で研修班の写真係、小尾結実さんが写真を撮りまくっている。
……自分の。
それぞれの班に渡されたカメラは使い捨てのものが一つ。
だから小尾さんの自撮り写真で使い果たされる可能性が。
さすがにそれは困るので班長である悠に注意してほしいのだが、なにしろヘタレなので言えるはずもなく。
「小尾さん」
「なぁにー?」
仕方がないので俺が注意しようと小尾さんに声を掛けると、小尾さんはカメラのレンズを見つめながら返した。
まだ撮ってるよ、この人……。
……よし!俺は悠とは違う!言うぞ!言ってやるぞ!
そう自己暗示を掛けながら口を開いた。
「あんまり自分の写真ばっかり撮るのはよくないんじゃないかなー」
若干おどおどした声。
―――うん!俺、弱い!!
あれ、俺ってこんなに悠みたいだっただっけ。
え、ちょっと……嫌だァァァァ!!
俺が思いつめていると小尾さんは髪をいじりながら、
「可愛い私を撮って何が悪いのー?」
としれっとした顔で言い放つ。
お、おぉふ……。
素なの!?これは素で言ってるの!?
いや、ナルシストなのは知ってたけど、まさかここまでだとは思わなかった。
小尾さん、この性格さえなければ今の倍はモテるのに。もったいないな。
「あ、フィルム無くなっちゃった」
「は!?」
考え事に気を取られていると小尾さんが恐れていた一言を発した。
まだ修学旅行、二日もあるのに……。
まだ撮りたいものあったのに……。
俺を含め皆、項垂れる。
ただ一人を除いては。
「ちょっと、結実!何してくれてんだよ!!」
米長さんは小尾さんの胸ぐらを掴んで詰め寄る。
怒るのもわかるけど、ちょっとやりすぎじゃ……。
「ちょっと米長、離してよ。服がしわになるでしょー?」
それに対して小尾さんも反抗的な態度で迎え撃つから、さらに険悪な空気に。
もう、せっかくの修学旅行なんだからもう少し穏便にいこうよー。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。とりあえずアレだ。飴でも食べて落ち着こう」
俺と同じことを考えていたのか、雅人が無謀にもデットヒート中の二人の間に割って入る。
雅人、チャレンジャーだな。
「うるせぇよ。引っ込んでろ」
感心したのも束の間、米長さんと小尾さんの低いトーンのドス声に雅人はUターン。
もうあの二人、ただのタチの悪いヤンキーなんだけど。
そして、雅人のUターンから数分、二人が睨み合っている中、一人の人物が立ち上がる。
我らが部長、加賀美悠だ。
こうして映画の予告のように言えばまだマシに聞こえるような気がするが、実際はへっぴり腰である。
「米長さん、小尾」
殴られる覚悟を決めたのか、果敢にも話しかける悠。
現在、死亡フラグが乱立中です。
「何だよ、ヘタレ」
そのフラグを成立させようと言わんばかりに米長さんと小尾さんは悠を睨む。
そんな視線にビビりつつ、悠は背中のリュックに手を伸ばし、中を漁り始めた。
そして何かを取り出し二人に見せた。
あれは、カメラ?
「ここに予備のカメラあるんだけど」
やはりカメラだったらしい。
悠はカメラを小尾さんに渡すとこちらに戻ってきた。
すると米長さんは、
「もっと早く言えよ!このヘタレ加賀美が!!」
と今度は小尾さんの代わりに悠の胸ぐらを掴んだ。
小尾さんはというと、服のしわを直し、髪の毛を整えている。
そしてさっき受け取ったカメラでパシャっと一枚。
彼女は今日もナルシス子です。

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