すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.55*エアーマンのくせに!】



「はぁ……」

私は大きなため息をついた。
さすがにさっきのは言い過ぎた……。
絶対網倉、怒ってる。私もイラっときてるけど。
うー……再び気まずい。

「有泉」

もやもやしていると網倉が話し掛けてきた。
ちなみに今、作者が素で私の名字を忘れたあげく、鈴井と打ちました。
それこの小説のキャラじゃないわ、ドアホ。

「何?」

私は、そんな裏事情に内心イライラしつつも網倉に返す。

「何って、階段だから持ち上げないといけないだろ」

「あ、そうだね」

私の言葉に網倉は溜め息をついて、ティンパの私側を指差した。
あ、持てってことか。
私はそう思い、ティンパの片側を持った。
すると網倉ももう片側を持って、

「じゃあ、持ち上げるぞ」

「はーい」

私は返事を返す。
すると網倉は「せーの」と掛け声をかけ、それと同時に私たちはティンパを持ち上げた。
ティンパの重みがずっしりと両腕にのしかかってくる。
お、重……っ!!

私達はやはり無言のまま階段を下り始めた。
その時、私はあまりの重さにバランスを崩し、ふらついた。

「大丈夫か?」

網倉がティンパを床におろし、気遣いの言葉を掛けてきた。
ちょっと意外。エアーマンのくせに。
何かイメージでは「何やってるんだ、有泉!時間に間に合わないじゃないか!」とか言うと思ってたのに。

―――……何なの、一体。

「うん、ごめん」

私は手頸を振りながら答える。
……ん?待てよ?
“時間に間に合わないじゃないか!”?
コレが脳内の網倉のセリフで、
“今は九時五十五分だから、あと五分しかないよ!”
これが加賀美部長のセリフ。
そんで、今は九時五十八分。
―――……あ、やばい。

「網倉、あと二分しかないよ!どうしよう!」

私は言った。自然と早口になる。
すると網倉は、

「あと二分か……急ぐぞ、有泉!!」

「うん!」

私と網倉はもう一度、ティンパを持ち上げた。
ひたすらみんなが待っているトラックを目指して。

そして階段を一つ一つ下って行って、私たちはようやくトラック前に着いた。

「はぁ……」

私も網倉も溜め息を漏らす。
何かこう、達成感と言うか、何と言うか……。
ただ、一つ大問題が。

「あれ?誰もいなくね?」

何故かトラック前に誰もいません。
私と網倉が呆気にとられていると、私の携帯の着信音が鳴った。
かけてきたのは、米長先輩。
私は急いで電話に出る。

「もしもし!?米長先輩!?これ、一体」

「二人には悪いと思ったんだけど、バスに間に合いそうもなかったから私達だけ先に乗っちゃった」

電話口淡々という米長先輩。
私、わけがわからないよ。

「ティンパもう運び終わったんならトラックに入れて、凜ちゃんたちもバス乗ってきてね。じゃーねー」

電話は米長先輩の一方的な発言のみで切られてしまった。
いや、もうホントにわけがわからないよ!
奇跡も魔法もクソも無いよ!

というわけで、私と網倉はバス停に向かうのでした。