すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.12*ヘタレリーダー!】



箭本ひなた、じゅーはっさい。
幼馴染と一緒に入った高校ももう三年目!!
そして、その幼馴染と一緒の部活―――吹奏楽部も今年で最後です。

衝撃の練習場所割から数日。
いまだに練習場所までがしんどい!!
私の担当楽器はバリトンサックス、通称バリサク。
吹奏楽で多く使われるサックスの中では結構大きい。そして何より、重い!!
そんなバリサクのケースを両手で持ち、音楽室から練習場所の一年生の教室までの道のりを歩く。
認めたくないけど、割と低身長で非力な方なので楽器を運ぶのは正直しんどい。

「はぁ……っ……もうちょっと低音パートに優しくしてほしい……っ!」

小さく愚痴を漏らしながら階段を下る。
まだ一階分しか下っていないのに息が上がっている。
コレ私、マジ痩せる。
そう、ポジティブに考えながらどんどん階段を下っていく。

「いたたた……手加減というものを覚えてほしいよ」

そんなポジティブシンキング、ヒャッハー!な私の目の前を頭を押さえながら通過する人物が一人。

「……悠ちゃん……っ!」

私が名前を呼ぶと振り向いたのは、加賀美悠。
ちなみに私の幼馴染はこの悠ちゃん。
吹部の部長に委員長にサックスパートのパートリーダー……とリーダーシップが必要となってくる役職についているにも関わらず、大体どこでも尻に敷かれている。
しかも女子に。
委員会では副委員長に、部活では副部長の郁ちゃんに、パートでは私に。
まったく、幼馴染として情けないよねぇ。

「あ、ひなた」

悠ちゃんは私に小さく手を振る。
そして私に駆け寄った。

「さっき頭押さえてたけどどうかしたの?」

すぐ目の前まで来た悠ちゃんに訊いてみる。
すると悠ちゃんは視線を泳がせながら、引きつった笑いを浮かべた。

「べ、別に」

悠ちゃんは語尾を濁して言った。
まぁ、大方予想はついてるけどさっ。

「どうせ郁ちゃんの事、怒らせたんでしょー?情けなーい」

私はわざと馬鹿にしたような口調で言う。
そんな私の言葉に悠ちゃんの目はさらに泳ぎまくる。
図星だ。

「情けないって言うなよ」

悠ちゃんは不機嫌そうに言った。
私はそれがおもしろくって、さらに言う。

「ほんっと、悠ちゃんって昔っからヘタレだよねー」

私はニヤッと笑みを浮かべた。
視線の先の悠ちゃんはむくれている。
そして、私のバリサクを持つと、

「ヘタレって言うな!!」

と、階段を下りていくのだった。
―――顔に出さないだけで気短いし、女子の尻には敷かれるし、ヘタレだけど、

誰よりも優しい。

「ありがと、悠ちゃん」

小さく呟く。
私も階段を下って行った。