すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【haromony.13*嫌だ!】
窓から差し込む日光が楽器に当たって金色に輝く。
うちは直射日光を避けるため、少し窓から離れた。
今日は気持ちが良すぎるくらい晴れている。
……こんなに晴れてたらクラの飯室先輩がまた倒れるんじゃないだろうか。
そんな事を思っていたら、案の定隣のクラの練習部屋から床に何かが落ちた音と雫やつばさ達の慌てふためいた声が聞こえた。
今日もクラは大変そうだ。
「あー……部活だっるーい」
そんなクラの緊迫した空気とは裏腹に、ここ―――サックスパートの練習部屋にはうち―――藤谷友里香の気の抜けた声。
「だめだぞ、藤谷。サボるなんて許される行為じゃないからな」
「そうだよ、友里香ちゃん。この和宮千紗の目が黒いうちは練習、絶対にサボらせないからね!」
そんなうちの声に覆いかぶさる二つの声。
一つ目は同級生の網倉綾瀬。学級委員長の堅物。正直うちは苦手。
二つ目は二年生の和宮千紗先輩。堅物ってわけじゃないけど、良く言えば芯が通っている、悪く言えば我が強い。やっぱり正直苦手。
基本的に真面目な人とはウマが合わないんだよねー。
他にもサックスには部長の加賀美悠先輩、箭本ひなた先輩という二人の比較的穏やかな先輩がいるんだけど、何故か先輩たちはまだ来ておらず……。
「はぁ……」
うちは溜め息をつきながら網倉と和宮先輩をチラッと見た。
二人とも黙々と譜面と睨めっこしている。
あーもう!
先輩、早く来てくださいよー!!超気まずいですー!!
……しょうがない、練習するか。
私は場の空気に耐えられず、楽器を手に取った。
そして楽譜の中の主旋律の練習にかかる。
「……ん?」
するとある部分のリズムで躓いた。
よくある“あれ?これってどんなリズムだったっけー?あはははー☆”というヤツである。
「友里香ちゃん、どうかした?」
うちが必死に考えていると和宮先輩が訊いてきた。
網倉も手を止める。
「リズム忘れちゃって……」
うちは楽譜を指差しながら言う。
すると先輩は、
「私が教えてあげるよ」
と頼もしい笑みを浮かべた。
それと同時に、
「―――解るまで返さないから☆」
と黒い笑みも浮かべたのだった。
「……え!?」
うちの顔が引きつる。
「さぁ、やるぞ!!」
そんなうちの思いとは裏腹に和宮先輩の張り切った声。
うちは網倉にすり寄って、
「あ、網倉、助けてー!!」
「嫌だ」
すると網倉は無表情に言った。
この堅物……ムカつく。
「はい、友里香ちゃん。座って座ってー」
茶番を見終わった和宮先輩がうちを椅子に座らせた。
もうマジで帰りたい。
ほんとに、
「嫌だぁ―――!!」
うちの悲痛な叫びが教室に響いた。

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