すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-

作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI



【harmony.26*ドジッ子秋さん!】



作者の強引な終わらせ方から数十秒後、やっと廊下の角から先輩達の後姿が見えた。
その姿は何かを探しているように見える。

「せんぱ……ん!?」

私と詩織が駆け寄ると、何かを探す先輩たちの向こう側で頭から足までタオルをかけられて寝ている一人の人物が目に入った。
どうやらさっきは廊下の壁に隠れて先輩達しか見えていなかったらしい。
っていうか、何で先輩たちはそんなに平然としているんだろう。

「あ、凜ちゃんと詩織ちゃんじゃーんっ!どうしたのーっ?」

ようやく私達に気が付いたのか、絢音先輩は振り向いた。
それに釣られるように和真先輩も振り向く。

「いや、先輩達こそどうされたんですか?……っていうか、“アレ”!一体何なんですか!?」

私が言うと和真先輩はその得体の知れないものに近寄ってポンポン、と軽く叩いた。
するとその人物はむくりと起き上がる。
その動作によって顔にかかっていたタオルが落ち、顔が露わになった。
タオルの下から現れたその顔は加賀美先輩と並ぶほどの美少年。
だが一番驚いたのは、その綺麗な顔が血だらけだったことだ。
私たちが色んな意味で呆気にとられていると絢音先輩はその人物を指差した。

「あ、言い忘れてたけど“アレ”が秋だから」

絢音先輩に紹介され、私たちに微笑みを向ける秋さん。
せっかくのイケメンスマイルも血のせいでとてもバイオレンスです。
え、ちょっと待って。状況が読み込めないんだけど。

「あ、あの……何で血だらけなんですか?」

何を言っていいか分からなくなってしまったので、とりあえず一番の疑問をぶつけてみる。

「秋はすっごいドジっていうのもあるんだけど、極度の遠視なんだよー!いつもはコンタクト付けてるんだけどドジだから落としたらしくって!で、探してる間に階段から落ちたりとか色々……」

「で、すごいグロくなっちょったけん、タオル被せちょーよ」

先輩たちの説明に私たちは納得する。
そして秋さんのイメージを完璧にドジで固定した。

「あの、そういえば秋さんってあだ名なんですよね?本名は……」

次は詩織が訊いた。
確かに前回の話であだ名って言ってた気がする。

「じゃあ、秋。自己紹介でもしてなよー!コンタクトは私と和真で探しといてあげるからさっ!」

「あ、分かりました。ありがとうございます」

絢音先輩に秋先輩は丁寧な言葉遣いで返す。
そして私たちの方に向き直ると柔らかい微笑みを浮かべた。

「奥秋純也、二年生。バストロンボーン担当です。よろしくお願いしますね」

とりあえず先輩、血拭いてください。