すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-
作者/ 夕詠 ◆NowzvQPzTI

【harmony.24*いーてぃーしー!】
結局、先輩からのツッコミは来ず、柚羽先輩がわざわざ買ってきて下さったイカの塩辛味をしぶしぶ頬張る。
先輩が信じたことにも驚いたが、何より驚いたのはイカの塩辛味が存在していたことである。
でもやはりイカの塩辛はイカの塩辛。
予想通りのゲテモノだ。もう一生食べたくない。
俺の顔が苦痛にゆがんでいると、音楽準備室のドアが開いた。
「すいません、遅れましたー!!」
すいません、と謝っている割には元気ではつらつとした声とともに入ってきたのは、ユーフォの同級生、舞島花鈴。
笑うと口から覗く八重歯が特徴的な大阪出身の浪花系女子だ。
っていうか、これはいつになったら練習が始まるんだろう。
……福沢先輩がくるまでだろうな。
俺が視線を舞島に向けると彼女は後ろを振り返って何かを探しているようなそぶりをしていた。
「花鈴ちゃん、どうかしたの?」
飴をなめ続けている瑛太先輩のその隣で柚羽先輩が訊いた。
すると舞島はこちらに視線を向けて、
「福沢先輩と一緒に来たはずなんですけど……先輩が見当たらへんくて」
と困った表情を見せた。
何やってるんだろう、福沢先輩……。
「まぁ、練習しようか。練習時間、あと三十分しかないし」
俺が考えていると柚羽先輩がドライな発言。
福沢先輩、哀れです。
「薬袋くん今、私のこと哀れって思ったっしょー!!」
突然後ろから聞こえた声に振り向くと、まさしく哀れな福沢涼先輩が。
なんですか今の。読唇術ですか。
ちなみに当たり前だが、福沢先輩は読唇術など使えない。
一言で言うと加賀美先輩の後継者―――いわゆる、ただのヘタレである。
「まぁ、思ってましたけど……先輩、今まで何されたんですか?」
俺は問うた。
すると先輩はへらっと笑って、
「え?ちょっと美咲にパシられちゃってー」
―――……THE☆後継者ですね!!

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