二次創作小説(新・総合)

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【オリキュア】メモリアルプリキュア!
日時: 2017/08/01 23:00
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.119 )
日時: 2017/12/17 23:20
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第18話「Let dance!忘れられない一時を」7

 あの後松中さんの記憶世界を抜け出し少しすると、松中さんは無事目を覚ました。
 特に体に異常も無かったので、これからの競技にも出場できそうだという話だ。
 校舎から出て瑞樹ちゃんと雑談をしながら歩いていた時、星華ちゃんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
 瑞樹ちゃんがいたままだと色々と面倒なことになりそうだったので、彼女には離れてもらって、星華ちゃんの所に向かった。

「杏奈さんっ。あの、大丈夫でしたか?」
「えっ? あぁ、うん。大丈夫だよ」

 私がそう言いつつ笑って見せると、星華ちゃんは「良かった」と言って安堵の表情を浮かべた。
 もしかして、心配してくれたのだろうか?
 星華ちゃんと松中さんには、恐らく面識はない。
 それなのに、ここまで心配してくれるなんて……本当に優しい子だ。

「星華ちゃん松中さんのこと、そんなに心配してくれたんだ? 優しいね」

 私がそう言うと、星華ちゃんは「えっ」と目を丸くして言った。
 あれ? 違うの?
 不思議に思っていると、星華ちゃんはなぜか顔を赤らめて、恥ずかしそうに目を伏せた。

「あの……私が心配したのは……その……」
『それでは次は、体育祭を締めくくる全校生徒でのフォークダンスです。全校生徒の皆さんは、準備をしてください』

 アナウンスの言葉に、星華ちゃんの言葉は遮られる。
 それに私は「あっ」と声を漏らし、星華ちゃんを見る。
 すると星華ちゃんは「うぅ……」と呟き、目を伏せる。

「ホラ、星華ちゃん。準備しよう?」

 私がそう言って見ると、星華ちゃんは渋々頷いた。
 ……結局、星華ちゃんは誰を心配していたんだろう?
 そんな風に考えながら、私は自分のクラスに向かった。

 さぁ、いよいよフォークダンスの時間だ。
 私は瑞樹ちゃんの手を取り、クラスの列に従って歩いて行く。

「杏ってば緊張しすぎ。練習通りやれば良いんだよ?」
「で、でも……」

 強張った感じの声でそう言った時、一年生の方の列に星華ちゃんがいるのが見えた。
 彼女の顔を見た瞬間、緊張が解れるのが分かった。
 そうだ。星華ちゃんとあんなに頑張ったんだ。
 大丈夫。……私なら。

『組んで下さい』

 そんなアナウンスが聴こえ、私達はすぐにオクラホマミキサーの構えを取る。
 瑞樹ちゃんの手を取り、身を寄せる。
 やがて音楽が鳴り、私達は踊り出す。
 星華ちゃんと練習した時のことを思い出す。
 気付けば、私は小さな声で歌を口ずさんでいた。自然と体が動いていた。
 次々に変わっていくパートナーを上手くリードし、捌いていく。
 先ほどまでの緊張が嘘のように、曲があっという間に終わった。

 次はコロブチカだ。
 コロブチカは楽しい感じの振り付けで、最後は全校生徒で学年関係なく楽しく終わろうという意向から、学年入り乱れて踊ることになる。
 全学年がバラバラに混ざり、巨大な円を作る。
 それでも一応規則性はあるようだけど、私にはよく分からない。
 そんな風に考えていた時、私の隣に星華ちゃんが並んだ。

「……えっ、もしかして……」
「えっと……私、みたいですね……」

 キョトンとした顔で言う星華ちゃん。
 予想だにしなかった出来事に驚きつつも、喜びが溢れ出てきて、私はつい笑った。

「よろしくね、星華ちゃん」
「杏奈さん。はいっ!」

 私の言葉に、星華ちゃんは満面の笑みを浮かべながらそう言った。
 その時、アナウンスで『組んで下さい』という指示が出たので、私達は組む。
 両手を握り合い、私達は対面する。

「星華ちゃん……」
「杏奈さん……」
「「Let dance」」

 同時にそう言った瞬間、曲が始まる。
 リズミカルな曲調に合わせて、私達は踊る。
 星華ちゃんと踊るのも、結局はほんの数秒程度。
 でも、たったそれだけの出来事が、私にとっては忘れられない思い出になった。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.120 )
日時: 2017/12/19 18:23
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第19話「瑞樹VS星華!?友情の三角関係!?」1

<杏奈視点>

 待ち合わせの場所である駅前に着くと、そこにはまだ誰もいない。
 私はため息をつき、ラブメモリーウォッチで時間を確認する。
 九時四十五分。待ち合わせには、まだ早い。
 早く着きすぎたなぁ……と思いつつ、私は空を仰いだ。

 ……空が青い。
 水色のペンキを流しまんべんなく塗りたくったような空に、白い綿のような雲が幾つか浮かんでいる。
 綺麗な青い空は、まるで瑞樹ちゃんの髪のようだ……とぼんやりと考えていた時だった。
 遠くから、本人が走って来るのが見えたのは。

「杏ごめん! 待たせた?」
「瑞樹ちゃん! ううん。私も今ところ」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんは安心した表情を浮かべ、私の前で足を止める。
 少し肩で息をして呼吸を安定させてから、私を見てニコッと笑った。

「じゃあ行こうか。杏」
「ん……ちょっと待って」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんは「え?」と言ってキョトンとした。
 それに私は笑いつつ、もう一人のとある人物を待つ。
 その時、駅前に一台の車が入って来るのが見えた。
 ……まさか車で来るとは……。

「杏?」

 恐らく引きつっているであろう私の顔を見て、瑞樹ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
 その時車の扉が開き、中から目的の人物が出てくる。

「ありがとうございました。……はい、分かっています。では」

 そう言って車の運転手に会釈し、車の扉を閉める少女。
 サングラスにマスクを付けているが、目立つ金髪で……『彼女』だと分かる。
 瑞樹ちゃんも同じようで、少女を見て「まさか……」と呟き笑みを引きつらせる。
 それは向こうも同じで、こちらを見た瞬間、体を強張らせた。
 私はそれに苦笑しつつ、マスクの少女に声を掛けた。

「星華ちゃん、おはよう。仕事お疲れ様」

---
<セフト視点>

「本当に貴方達は使えませんね」

 俺の言葉に、二人は顔を背ける。
 それに、俺はわざとらしくメモリアの入れ物を指で突いた。

「貴方達では、今以上の功績は期待できません。残念ですが、そろそろボウキャーク様も……」

 そこまで言うと、シッパーレの顔がただでさえ青いのにさらに青ざめた。
 まだ青くなる猶予があったのか、と思いつつ、俺は笑う。

「まだ話の途中ですよ? ……ボウキャーク様に見切られないために、私がより良いメモリアの活用法を伝授しようとしているのです」

 俺の言葉に、ラオベンは「まさか……」と呟く。
 しかし、もしそれをしなかった場合の末路を考えたのか、無言で目を逸らす。
 するとシッパーレがすぐに縋りついて来る。

「お願いします……教えて下さい!」
「フフッ。それでこそロブメモワールの幹部ですね」

 俺はそう言って笑い、口に人差し指を当てた。
 それをシッパーレの口に当て、微笑む。

「まずはメモリアを……」

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.121 )
日時: 2017/12/19 21:26
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第19話「瑞樹VS星華!?友情の三角関係!?」2

「……この生意気モデルが来るなんて聞いてないんだけど」
「そっくりそのまま返します」

 瑞樹ちゃんと星華ちゃんは不機嫌な口調でそう言い合う。
 二人はなぜか不仲だ。
 まぁ、それもしょうがないのかもしれない。
 瑞樹ちゃんは初めて星華ちゃんと話した時に割と雑な扱いをされていたし、星華ちゃんだってこんな態度を取られたら不快になるだろう。
 そう、二人は客観的に見ればどっちもどっちなのだ。

 しかし、私としては、友達同士でこういうギスギスがあるのは嫌なのだ。
 仲良く……は無理でも、せめて、こういう喧嘩腰な空気は止めてほしい。
 というわけで、二人を連れだして一緒に遊ばせてみることにしたのだけれど……。

「……なんか、険悪なムード……」

 私の呟きに、二人は同時に顔を背けた。
 そう、かなり重い空気が漂っているのだ。
 まさかここまでとは思わなかった……。

「……ところで杏奈さん」

 その時、星華ちゃんが口を開く。
 それに私が首を傾げると、彼女がサングラス越しに私を見て来た。

「あの、今回のお出かけの目的は何ですか?」
「目的?」
「はい。どこか行きたいお店があるとかそういうのは……」
「あ、それは私も気になる」

 ずっと顔を背けていた瑞樹ちゃんが、そう言ってこちらに視線を向ける。
 ちなみに歩いている並び順は、私から見て、左から、瑞樹ちゃん、私、星華ちゃんだ。
 というわけで、二人が私を見ると必然的にお互いの視線がバッチリ合う。
 二人はそれにムッとして、すぐに視線を逸らした。
 ……いづらい。

「いや、別にそういうのは無いかな……」
「では、なぜこの買い物を……あぁいや、なんとなく察しました」

 チラッと瑞樹ちゃんを見てそう言う星華ちゃん。
 その様子に瑞樹ちゃんも視線を背けながら「同じく」と言う。
 目的が分かっている上でこの態度……前途多難だ……。

「……目的が無いのであれば、行きたい場所があるんですけど……」
「行きたい場所?」

 私が聞くと、星華ちゃんは大きく頷き、上目遣いで私を見ながら「ダメ……ですか?」と聞いてくる。
 それに私は瑞樹ちゃんを見る。

「瑞樹ちゃん……良い?」
「なッ……私は、杏が良いなら……」

 瑞樹ちゃんの返答に、私は星華ちゃんを見て「良いよ」と答えた。
 すると星華ちゃんはパァァァと笑顔を浮かべ、私の手を強く握った。

「わッ!?」
「それじゃあ早く行きましょう! 杏奈さん!」

 そう言うと、私の腕を掴んで走り出す星華ちゃん。
 突然のことに、私は戸惑う。
 咄嗟に瑞樹ちゃんの手を掴む。
 すると瑞樹ちゃんの体も引っ張られ、二人で星華ちゃんに引っ張られて走っていく。
 そして着いたのは……一軒の服屋さんだった。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.122 )
日時: 2017/12/19 22:59
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第19話「瑞樹VS星華!?友情の三角関係!?」3

「「服屋さん……?」」

 店の前に着いた私と瑞樹ちゃんは、そう同時に零した。
 それに星華ちゃんは「はい」と頷き、扉を開ける。
 中に入ると、ポップなBGMと共に、服がたくさん並んでいるのが目に入る。

「おぉ……」
「ホラ、早く行きますよ」

 楽しそうな口調で星華ちゃんはそう言うと、私の腕を引いて歩き出す。
 瑞樹ちゃんがその横を小走りで付いて来る。
 やがて女物の服の前に立つと、早速星華ちゃんは服を物色し始める。

「せ、星華ちゃん……?」
「杏奈さんって、元が良いのにそんなシンプルな服ばかりで損してると思うんですよね~。折角の機会なので、杏奈さんをプロデュースしようと思って」

 そう言いながら服を私に合わせる星華ちゃん。
 その言葉に、瑞樹ちゃんが「ハッ」と嘲るように笑った。
 瑞樹ちゃ~んそれ女の子がして良い表情じゃないよ~。

「プロデュース? 自分のファッションセンスに自信がおありで?」
「えぇ。これでも一応人気モデルなので。誰かさんよりは良いセンスをしていると思いますよ?」

 星華ちゃんはそう不敵な笑みを浮かべながら言う。
 ていうかいつの間にマスクとサングラス外したの!?
 驚く私とは反対に、瑞樹ちゃんのこめかみに青筋が浮かぶ。
 二人の視線はぶつかり合い、間でバチバチと火花が飛び交う。
 先に視線を逸らしたのは、星華ちゃんだった。
 彼女は持っていた服を戻し、別の服を手に取って私に合わせる。

「折角だから、前原先輩もプロデュースしましょうか?」
「……ありがたいけど、私、アンタに頼るほどダサい服着てませんから」
「冗談ですよ。誰が貴方の服なんて選びますか」
「……アンタねぇ……」
「うわわ、二人ともやめて!」

 喧嘩腰になる二人を慌てて制止する。
 すると、二人はしばらく互いを見合った後で、「フンッ」と顔を背ける。
 ……胃に穴が空きそう。
 無意識にお腹を押さえた時、星華ちゃんが「ハイ」と言って服を差し出してくる。

「へ……?」
「これ、着てみてください」

 星華ちゃんの言葉に、私は服を受け取る。
 それから更衣室に入り、服を着替える。
 少しして、私は更衣室を出た。

「こ、これで良いのかな……?」
「「……」」

 私が更衣室を出た瞬間、二人は固まる。
 に、似合ってないのかな……。
 星華ちゃんに渡されたのは、桜色のフリフリしたワンピースだった。
 アクセントに濃いピンクのカーディガンを上から羽織っている。

「……まさか、ここまで似合うとは……」
「……私、アンタのファッションセンスだけは本気で認めるわ……」

 なぜか二人が少しだけ意気投合していた。
 そこで、瑞樹ちゃんはピクッと眉を動かし、私に近づいて来る。

「ひゃ……!?」
「杏。ちょっと動かないで」

 そう言って、瑞樹ちゃんは私の後頭部辺りに腕を回してくる。
 かなりの距離の近さに、私は息が止まる。
 その時、髪が解かれるのが分かった。

「み、瑞樹ちゃん!?」
「シッ。あんま動かないで……」

 瑞樹ちゃんはそう言って私の体を反転させ、髪を弄り始める。
 私はなんとなく緊張して、目を瞑った。

「……よしっ。完成」

 少しして、瑞樹ちゃんはそう言う。
 私は恐る恐る瞼を開き……更衣室の中にある鏡を見る。
 そして、息を呑んだ。

「これが……私……?」
「……すごい……」

 星華ちゃんの声がする。
 髪が細かく編み込まれ、結いまとめられている。
 髪型と服装を変えただけで、ここまで印象が変わるものか……。

「こういうドレス系の服はピアノコンクールでよく見るからね。髪は自分で結ったりするから」
「髪型のアレンジか……そこを見逃すなんて……!」

 ドヤ顔を披露する瑞樹ちゃんとは反対に、悔しそうに顔を歪める星華ちゃん。
 それに私は苦笑しつつ、髪を解く。

「ありがとう。でも、服を買うお金は無いし、今回は遠慮しておく」
「「そんな……!」」
「でも……二人の意外な特技とか分かって、少し嬉しかった。ありがとう、瑞樹ちゃん。星華ちゃん」

 私がそう言いつつ笑うと、二人は少しだけ嬉しそうな顔をした。
 それからお互い顔を見合わせ、笑い合う。
 ……少しだけ、意気投合したみたい。
 私はその様子を見て、ホッとした。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.123 )
日時: 2017/12/20 20:24
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第19話「瑞樹VS星華!?友情の三角関係!?」4

 それから服屋さんを出て、私達は町を歩く。
 来る時に比べると多少は空気が緩和した気が……しないな、うん。
 相変わらず二人の間に漂う険悪ムードに、私は笑みを引きつらせる。
 なんでかなー……さっきまで少し良い雰囲気だったじゃない。
 もしかして星華ちゃんのマスクとサングラスか!?
 冗談はさて置き。

「星華ちゃん。さっきのお店ではマスクとか外してたよね? なんで?」
「え? ……あぁ。服はきちんと肉眼で見たいんです。サングラス越しだと、色が微妙に変化して見えるから」
「なるほど……マスクは?」
「それは、まぁ……なんとなく」

 星華ちゃんの言葉に、私は「なるほどねぇ」と呟くように返事をした。
 すると、瑞樹ちゃんがため息をついた。

「なんとなくで声掛けられたらどうするんだよ……」
「なッ……ダメですか?」
「アンタ有名人なんだからさぁ。そこらへんもう少し自覚して過ごしなよ」

 瑞樹ちゃんの言葉に、星華ちゃんは微かに眉を潜めた。
 しかし、それも事実か。
 星華ちゃんは割と名の売れたモデルだし、こうして変装をしていないと声を掛けられるのも必至。
 でも……。

「……星華ちゃん、マスクとかサングラスとかしない方が可愛いよね」
「……へ?」

 ポツリと呟くと、星華ちゃんが間抜けな声で返事をした。
 それに私は少し戸惑いつつも、続ける。

「ホラ、星華ちゃんって顔可愛いし、隠すのはもったいないかなって。……まぁでも、顔隠さないとダメなんだろうけどね」
「……眼鏡とかしてみれば? あとは帽子とか。その不審者ルックよりは自然だし」

 瑞樹ちゃんが若干毒舌混じりにそう言った。
 不審者って……まぁ事実ではあるけど。
 私が苦笑していた時、瑞樹ちゃんの目が一点で固まった。
 視線を向けると、それは、楽器店だった。

「楽器屋さん……?」

 私がつい声にすると、瑞樹ちゃんはビクッと肩を震わせた。
 すると星華ちゃんはサングラスを外しながら、「楽器店に用事があるんですか?」と聞いた。
 彼女の言葉に、瑞樹ちゃんは目を逸らす。

「あ、そっか。瑞樹ちゃんはピアノ弾くもんね。興味あるの?」
「いや、まぁ……リビングのピアノは一台しかないから、よく兄貴と取り合いになるし……電子ピアノとか見れないかなぁ、とは……」
「じゃあ見てみる? どうせ行く場所無いし。ね? 星華ちゃん?」

 私が話を振ると、星華ちゃんは「へっ?」と言った後で、一度瑞樹ちゃんを見る。
 それから私を見て、小さく頷いた。

「じゃあゴー!」

 私は早速二人を促し、楽器店に入る。
 中では一組の親子が楽器を見ているところだった。
 私達はその脇を通り抜け、ピアノコーナーを見る。

「おぉ……結構種類あるな……」

 数多く並ぶ電子ピアノを眺めながら、瑞樹ちゃんはそう零した。
 確かに何個も種類がある。
 これは選ぶのに時間が掛かりそう。

「今回は多少見るだけだから選ぶ必要は無いけど……ここまで種類豊富だとは……」
「……別になんでも良いんじゃないですか?」

 星華ちゃんはボソッと呟く。
 すると瑞樹ちゃんは顔を上げた。
 あぁ、星華ちゃんもしかしたら瑞樹ちゃんの逆鱗に触れたかもしれない……!
 そう思って頭を抱えた時だった。

「ママ~あのおっきいピアノ買って~」

 ちょうど楽器を見ていた親子の子供が、そう言って店の真ん中に置いてあるグランドピアノを指さした。
 それに、母親は「え~?」と困惑した表情を浮かべる。

「流石にあれは……マリちゃんには早いわよ」
「やだやだ。あのおっきいピアノ弾きたい!」

 恐らく、マリちゃんと呼ばれた女の子はピアノでも習っているのかもしれない。
 それに母親は困ったような表情を浮かべながら、「それは高いからこっちにしましょう」と近くの電子ピアノを手で示した。
 すると、マリちゃんは「え~」と顔をしかめた。

「やだよ~。おっきいピアノで綺麗な演奏したいもん!」

 マリちゃんの言葉に、母親は「ワガママ言わないの」と若干強い口調で窘める。
 すると、ついにマリちゃんは泣き出してしまう。
 部外者の私達に出来ることはあるのだろうか……。
 困っていた時、瑞樹ちゃんがスッと前に出て、母親が示した一番安い電子ピアノの前に立つ。
 電源を付けて鍵盤を叩くと、音が出る。
 それに瑞樹ちゃんは目を細め、備え付けの椅子に座る。

 そして……弾き始める。
 それは、前にピアノコンクールで弾いていた曲だった。
 子犬のワルツじゃない方の……ショパンの「革命」……だったか。
 瑞樹ちゃんが奏でる音に、私達は口を閉じるのも忘れて聞き入った。
 やがてピアノを弾き終えると、瑞樹ちゃんはマリちゃんの方に顔を向ける。

「どう? 安い小さなピアノでも、綺麗な演奏は出来るでしょう?」
「……うん。お姉ちゃん凄い!」

 目を輝かせながら言うマリちゃんに、瑞樹ちゃんは顔を綻ばせた。
 するとマリちゃんは瑞樹ちゃんに縋りつき、ピョンピョンと跳ねる。

「ねぇ、もっと弾いて!」
「そうだねぇ……おい、生意気モデル」

 瑞樹ちゃんはそう言って星華ちゃんに視線を向ける。
 星華ちゃんは少し間を置いて、「え、私!?」と驚いた声で聞く。
 すると瑞樹ちゃんは頷いた。

「ちょ……生意気モデルって……!」
「はいはい、そういうのどうでもいいから。……何かリクエストしてよ」
「リクエストって……あまりクラシックとかそういうの聴かないんだけど……」
「良いから言えよ」

 瑞樹ちゃん……口調……。
 私が内心苦笑いしていると、星華ちゃんは少しだけ俯いた。

「……じゃあ、子犬のワルツ」
「……え?」
「な……知ってるピアノの曲の中で一番好きなだけです! 悪いですか!?」

 そう言いながら照れ隠しのようにプイッと顔を背ける星華ちゃんに、瑞樹ちゃんは笑って「悪くないよ」と言い、鍵盤に手を置いた。

「……ただ、好きな曲だっただけ」
「え……?」

 星華ちゃんが聞き返すのを無視するように、瑞樹ちゃんはピアノを弾き始めた。
 ……二人とも、照れ隠しが下手なんだな。
 私は一人、そう思った。


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