二次創作小説(新・総合)
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- 【オリキュア】メモリアルプリキュア!
- 日時: 2017/08/01 23:00
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.69 )
- 日時: 2017/10/14 17:54
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第11話「メモリア交換!?杏奈とリコルンが入れ替わる!?」5
<杏奈視点>
「今を輝く、一つの光! キュアアデッソ!」
そう言ってポーズを決めるリコルンに、私は息を呑んだ。
まず、変身できるのか……いや、それどころじゃない。
私はなんとかリコルンの元に小さな足で駆け、その足に掴まった。
「ま、待ってリコルン!」
「大丈夫リコ。杏奈の分まで、戦うリコ」
そう言ってリコルンは立ち上がり、ワスレールと戦っているパーストの元に駆ける。
リコルンはたまにフワフワと空を飛んでいるけれど、どうやって空を飛んでいるのだろう……。
試しに力を込めて見ると……あ、背中の方に力を込めたらなんだかフワフワ浮かび始めた!
それを維持して、フワフワ〜と空を飛んで二人の元に行こうとした時、ワスレールが雄叫びをあげて二人の体を殴り飛ばした。
「パースト! リコルン!」
リコルンの体の状態でこの名前を呼ぶのはおかしいかと思ったが、今はそれどころじゃない。
フワフワと飛びながらなんとかリコルンの元に飛んで行き、地面に足を付けて倒れ伏す自身の体を揺すった。
すると、リコルンは私の顔を見て、「杏奈……」と呟いた。
「大丈夫!? すごい怪我……」
「だい、じょうぶ、リコ……」
そう言ってリコルンは立ち上がろうとするが、すぐに体を地面に打ち付ける。
確かにプリキュアは力も上がるし、耐久力だって上がるが、今まで自分で戦ったことが無いであろうリコルンにとってはかなり痛いだろう。
しかも、私なんかと違って、リコルンは今まで数多くの異世界を渡って、ロブメモワールの侵攻を止めようとしてきた。
私達なんかとは比べ物にならない人生経験の数の中での、初めての戦い……初めての、痛み。
きっと、かなりショックが強いハズ。
中学一年生の頃、学校の体育でソフトボールをした時に、ボーッとしていて人が投げたボールが胸に当たったことがある。
ただの打撲だったのだが、恐らく心臓の辺りに当たったからか、ショックで蹲り泣いてしまったのだ。
実際の痛みはそこまでではない。当たった箇所が箇所なので病院には行ったが、湿布を渡されてそれきりだ。
しかし、嗚咽を漏らしながら号泣して、しばらく保健室で胸を氷で冷やした。
初めての痛みや、予期せぬ痛みとは、それだけ辛いものなのだ。
だからこそ、今、リコルンは苦しんでいるのだろう。
なんとか守ってあげようと差し出した手は……小さい。
あぁ、そうか……。
リコルンはこの小さな手で、数々の異世界を守ろうとしてきたんだ。
でも、守ることは出来ずに……ただ、ロブメモワールに全てを奪われていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。
「リコルン……私、全然リコルンのこと分かってあげられなかった……」
「杏奈……?」
「杏……どうしたの……?」
リコルンとパーストがそう尋ねてくるのを聞きながら、私は小さな手に拳をつくる。
「リコルンは……ずっと、こんなに無力感を感じていたんだね……こんなに……」
それ以降は、言葉にすらならない。
リコルンが、「杏奈……」ともう一度私の名前を呼び、私の手を大きな人間の手で包み込んでくる。
温かい……私はその手に小さな獣の手を乗せ、撫でた。
その時、ワスレールがこちらに近づいて来る足音が聴こえた。
「……今の私には、リコルンを助けることも……一緒に戦うこともできない……」
「杏奈、何を……」
「でも、私だって、二人の力になりたいッ!」
そう叫んだ瞬間、胸元がカッと光った。
何があったと思うと同時に、目の前に、光り輝く桃色の針が現れた。
これは、前に巨大時計から生まれた……!
「なんでここに……鞄に入れていたのに……」
「まさか、杏奈のメモリアと、想いの力が反応して……?」
リコルンの言葉を聞きながら、私は桃色の針を握る。
すると、リコルンが付けているラブメモリーウォッチが、反応するように淡く光った。
これは……!
「リコルン! これ、使って!」
「えっ……」
「良いから!」
私の言葉に、リコルンは「わ、分かったリコ!」と言い、その針を抓む。
その瞬間、ラブメモリーウォッチが強く光り、時計の文字盤を覆うガラス板が縁ごと開き、針がある部分が剥き出しになる。
戸惑いながらも、リコルンは時計の長針に合わせるように、桃色の針をはめ込んだ。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.70 )
- 日時: 2017/10/14 21:02
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第11話「メモリア交換!?杏奈とリコルンが入れ替わる!?」6
桃色の針をはめた瞬間、ラブメモリーウォッチの光がさらに強くなる。
それに、ワスレールがたじろいだのが分かった。
「なんだ、この光は……!」
ラオベンの声がする。
私はそれに短い腕で目元を覆いながら、様子を伺う。
「もしかして、これ……」
リコルンはどうやらどうすれば良いのかを察したようで、ラブメモリーウォッチの針を回すネジ部分を引っ張った。
次の瞬間、桃色の針が高速回転する。
グルグルと回転した針からさらに強い光が漏れて、やがて、パァンッと弾けるような音と共に棒状の何かが出て来た。
慌ててリコルンが受け止めると、それは……剣のようなものだった。
「ロングソード……?」
パーストが真面目な顔で言う。
とはいえ、確かにこの見た目はロングソードと言うほか無いか。
桜色の両刃に、柄はショッキングピンク。
刃は七色の宝石で彩られ、その根元の辺りには丸い窪みがあり、真ん中に細い突起がある。
「これは何リコ……?」
どうやらリコルンもこの剣の情報は無かったようだ。
不思議そうにしているリコルンを見ていた時、なんとか立ち直ったワスレールが歩いて来るのが見えた。
「リコルン!」
「分かってるリコ!」
咄嗟にリコルンは立ち上がり、ロングソードを振るった。
すると、それだけでワスレールの体が削れ、僅かにメモリアらしき光が漏れる。
それを見て、パーストは「おぉぉぉ!」と歓声をあげる。
「カッコいい!」
「え、そう……?」
どうやらパーストにはそういう系統のものへの憧れがあったようだ。
ロングソードと銘打ってはいるが、片手でもなんとか振れるようで、リコルンはそれを扱ってワスレールを牽制する。
「リコルンそのままぶった切れ〜!」
「いやぁ、自分の見た目をした人が、化け物を滅多切りにしているのを見るのは……」
パーストの指示に、私はそう言いつつ顔をしかめた。
すると、リコルンは「じゃあどうすれば良いリコ!」と文句を言って来た。
どうしろって……と思ったところで、リコルンの手首に巻き付いたラブメモリーウォッチに目が行った。
「あっ……リコルン! あの、ピンクの針をその剣の丸い穴にはめてみて!」
「え、あ、分かったリコ!」
私の言葉に、リコルンは慌ててラブメモリーウォッチから桃色の針を外し、突起にはめ込む。
すると、腕時計用の針だったため小さかった針が輝き、その窪みに合う大きさの針に変化する。
その時、ワスレールが攻撃をしてきたため、リコルンは「うわわッ」と慌てた様子で避けた。
しかし慌てていたからか、指がロングソードにはめた針に触れた。
そこから一気に高速で時計の針が回転し始め、すぐにリコルンは動きを止める。
「今を輝く大いなる光! アデッソソード!」
……こういう掛け声って、傍から見たらかなり痛いね。
しかも自分の顔だから笑えない。
ていうかこれ、次回から私がやるの?
やだー……。
「杏、変な顔してるけど……?」
「あー……うん。大丈夫」
そんなやり取りをしていると、リコルンがロングソードもといアデッソソードを持った手を上に掲げ、構える。
それから大きな円を描くように剣を回し、一個の大きな丸ができる。
いや、あれは……時計?
手を出して、ちょうどその手が円の中心にくる位置で止めると、尚更十二時をさす時計に見えた。
その位置から手首や指先だけ使って、さらに剣を一周させると、白い丸が剣の動きに合わせて桃色に染まっていく。
全てが桃色に染まった時、その光が剣に集まり、ピンク色の眩い光を発する。
「今を輝け! プリキュア! アデッソルーチェ!」
そう叫び横薙ぎに切ると、真一文字の光がワスレールに向かって飛んでいく。
光がワスレールを捕らえると、時計の文字盤のようなものが現れて、空中でワスレールを固定した。
リコルンは胸の前で剣を構えると、柄にあるピンク色の針を指で停止させた。
すると、ワスレールを固定していた時計が、ワスレール諸共爆裂し、消えて行った。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.71 )
- 日時: 2017/12/11 20:59
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第11話「メモリア交換!?杏奈とリコルンが入れ替わる!?」7
<セフト視点>
ワスレールが消えたのを見て、俺は少し驚いた。
まさかあの状況でパワーアップして、ワスレールを倒すとは。
このまま様子を見ていても、これ以上面白い展開は望め無さそう。
仕方なく、俺は指を鳴らし、二人のメモリアを元に戻した。
「どうしたんだ? 急に指なんて鳴らして」
隣でピアノを弾いていた紫音は、手を止めてそう聞いてきた。
彼の言葉に、俺は「なんでもないよ」と答え、笑って見せた。
<杏奈視点>
一瞬、視界が揺らぎ、気付いた時には視界がものすごく高くなった。
自分の体を見ると、手には長めの剣が握られていて、服や手はキュアアデッソのものだった。
それはつまり……!
「「戻った!」」
私とリコルンは、同時に声を発した。
すると、パーストは驚いた様子で目を丸くした。
「え、戻ったって……つまり、杏が杏で、リコルンがリコルンってこと!?」
「なんか余計にわけわからなくなってない?」
私が困惑しながらそう聞いてみると、パーストはしばらく困惑した表情をしていたが、「ま、いっか」と言ってヘラッと笑った。
その時、ワスレールが浄化されたからか、世界に色が戻り始める。
記憶世界を出て少しすると、女子生徒も無事目を覚ました。
それから話を聞いた感じ、どうやら用事とは体育の時に瑞樹ちゃんが忘れ物をしていたようで、それを直接渡したかったのだと言う。
それから女子生徒が去った後で、瑞樹ちゃんは軽く伸びをした。
「それにしてもさ、あの入れ替わりは一体何だったんだろうね」
「さぁ……でも、良い経験だったと思うよ。ね、リコルン」
私がそう言ってリコルンを見ると、リコルンは大きく頷いた。
それからリコルンは私達の目の前まで浮かぶと、ペコッと頭を下げた。
「杏奈、瑞樹。いつもありがとうリコ」
突然そんなことを言われ、私達はキョトンとした。
やがて、瑞樹ちゃんが「え、ちょっと……」と困惑した声を漏らした。
「急にどうしたのさ。リコルン」
「……今日杏奈と入れ替わって、二人は、いつもあんな戦いをしてる上に、あんなに忙しい学校生活を送っていることを知ったリコ。だから、その感謝を込めて……ありがとうリコ」
そう言って頭を下げるリコルンを、私は慌てて止めた。
「でも……」と困惑した様子で声を漏らすリコルンに、私は微笑んで見せた。
「もうずっと繰り返してきた生活だもん。……慣れちゃった」
「ん……そうだよ。そんな今更感謝なんてされたら、居心地悪いじゃんか」
ヘラヘラと笑いながら言う瑞樹ちゃんに、リコルンはまだ腑に落ちない様子の顔をしている。
だから私はそんなリコルンの頭を撫でて、笑って見せた。
「それにっ! 私の方こそ、リコルンが今まで辛かったってこと、分かったもん。これからも一緒に頑張って行こう?」
「杏奈……うんっ!」
笑顔で頷くリコルンを見て、瑞樹ちゃんが苦笑を漏らした。
「なんか、二人だけ仲良くなっちゃってんじゃん。リコルン私にも甘えて良いのよ~?」
「瑞樹はたまに耳掴んで脅してくるから嫌リコ」
「そういえば飴あるんだけど」
「瑞樹大好きリコ~!」
甘物に弱いリコルンは、あっさり瑞樹ちゃんに釣られてしまった。
しかし、飴か……そこで星華ちゃんに貰った飴を思い出し、制服のポケットに手を突っ込んだ。
すぐにそれは見つかり、透明の袋で梱包された星型の黄色の飴を取り出した。
「リコルン。私も飴持ってるよ」
「本当リコ!?」
「あげないけど」
「なッ」
最初はあげようかと思って声をかけたけど、折角星華ちゃんに貰ったんだからやっぱり大事にしよう、と思いとどまった結果、リコルンをガッカリさせてしまった。
瑞樹ちゃんはそんなリコルンを抱いて飴を舐めさせながら、「杏サイテ~」と言ってニヤニヤと笑った。
最低と言われても……しょうがないじゃないか。
私は「ごめんごめん」と言いつつ、その飴を口に含んだ。
飴は普通のレモン味だったにも関わらず、すごく甘い味がした。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.72 )
- 日時: 2017/10/16 22:58
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: 間違えて消去してしまったため再投稿
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」1
<瑞樹視点>
「うん?」
いつものように学校から帰り、学校から出た課題や復習を終えて、気晴らしにピアノでも弾こうとリビングに入った時だった。
ピアノコンクールの広告がテーブルに置いてあるのを見つけたのは。
「あれ、瑞樹。どうしたの?」
そしてソファに座り紅茶を飲んでいる兄貴。
私はその隣に座り、雑誌を指さした。
「兄貴。この広告は?」
「うん? あぁ。次やるピアノコンクールの広告さ。学校の意向で参加しろって」
そう言って紅茶を飲む兄貴。
「ふーん」と返事をしていると、兄貴はティーカップに紅茶を入れて、私の前に置いてくれた。
「はい」
「ん。サンキュ」
そう言いながら、私は広告を眺める。
へぇ……ジュニア部門に中学生部門と高校生部門があるのね。
自分でも無意識の内にじっくり見ていたためか、兄貴が優しく微笑みながら広告を覗き込んだ。
「熱心に見ているね。瑞樹も参加するかい?」
「はぁ? 何言ってんの」
ただ見ていただけなのになぜそんな話になる。
そもそも、ずっとピアノをサボっていて、最近ようやく趣味で弾いたり杏に教えたりする程度になったばかりだというのに。
しかし、兄貴は柔らかい笑みを浮かべたまま、私の持つ広告に視線を向けた。
「いや、瑞樹の広告を見る目があまりにも真剣だったからね。でもそうか……参加しないのか」
「うッ……」
少しだけ落ち込んだ様子の兄貴に、私は胸が締め付けられる。
しかし、数年ピアノに触れていなかった今の私は、恐らく初心者に毛が生えた程度の演奏しかできない。
そんな実力でコンクールに出たりしたら、不評を買うに決まっている。
試しにそう訴えて見ると、兄貴は「なんだ、そんなこと」と言って笑った。
「大丈夫だよ。プロアマ関係なく参加できるし、瑞樹ならきっと皆に負けない演奏が出来るさ」
「なんでそんな過大評価するかな」
「瑞樹を信じているからさ」
そう言って白い歯を見せる兄貴に、私はため息をついた。
しかし、ここまで言われて断るのもなんだか悪い。
それに、と少し考える。
兄貴とのイザコザが解決してから、私の中では、またプロのピアニストになってみたいという夢が沸々と湧き上がってきつつあるのだ。
本格的なレッスンをするほどではないが、今回のコンクールの結果次第では、レッスンなどを検討してみるのも良いかもしれない。
私はため息をついてから、微笑んだ。
「しょうがない。やってやんよ」
私の言葉に、兄貴は嬉しそうに笑った。
夜。私はベッドで仰向けになりながら、杏に電話する。
内容としては、杏のピアノレッスンがしばらくできないということ。
理由としてピアノコンクールに出ることを話すと、大層驚かれた。
『ピアノコンクールなんて凄いじゃん! 頑張って!』
「ありがとう。ま、せいぜい笑われないように頑張る」
『瑞樹ちゃんなら大丈夫だよ〜』
杏の励ましに、私はもう一度「ありがとう」と返した。
明日の土曜日は家で早速コンクールに向けた練習を開始することを話すと、杏は、リコルンと応援に来てくれるという。
暇人だな〜と思ったが、日曜日には生意気モデルとお出かけの約束があるとか。
あの二人も相当仲良くなったものだ。
『ごめんね。日曜日も瑞樹ちゃんの所に行きたいんだけど』
「良いよ良いよ。生意気モデルはずっと杏の憧れの人だったんでしょ? 楽しんでおいで」
『ん……ありがとう』
「いえいえ」
それからしばらく他愛のない雑談をしてから、電話を切った。
久しぶりのピアノコンクールだ。緊張するなぁ……。
ベッドに倒れ込んで目を瞑った時、小さい頃に参加したピアノコンクールを思い出した。
そういえば、と少し考える。
あの頃、よくピアノの腕を競い合っていた相手がいた。
ピアノから離れてから一切関わらなくなっていたが、彼は元気にしているだろうか。
「ま、私には関係のない話か」
今回のピアノコンクールに参加するわけないし、気にするほどでも無いか。
私は携帯電話をベッド脇の棚に置き、兄貴が用意してくれた課題曲の楽譜を手に取り眺める。
少しでも良い結果を残せるように……頑張らなくちゃ。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.73 )
- 日時: 2017/10/16 23:00
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: 間違えて消去してしまったため再投稿
第12話「目指せ金賞!夢を奏でろピアノコンクール!」2
<セフト視点>
キュアパーストのメモリアから彼女の弱点を探っていた俺は、ゆっくり瞼を開いた。
ピアノコンクール……か。
奴は確か、ピアノを弾くんだったか。しかし、紫音が原因で一時期ピアノから離れていたとか。
最近趣味の範疇ではあるが、またピアノを再開したようだが。
しかし、前回のキュアアデッソの場合は、邪魔するつもりが成長の糧になってしまった。
一つ、キュアパーストとキュアアデッソのメモリアを交換してからかうというのも考えたが、また成長の糧にしてしまう可能性もあるので却下。
……逆に、何もしない方が返って、今以上に奴等を成長させる可能性を減らせるか?
とはいえ、少なくともこの目で見ておきたい部分はある。
場合によっては邪魔したりして、邪魔する必要性があれば、すれば良いか。
そう結論付けて、俺はゆっくり立ち上がる。
すると、ちょうどこのメモリア保管庫に入って来たシッパーレと目が合う。
「……セフト……」
「おや……シッパーレさん」
そう言いつつ、彼女に近づく。
すると、青い鱗のような肌をした美女は、警戒した様子で後ずさる。
そんなに怯えなくても良いのに……。
「な、何よ?」
「いえ、別に? ただ、最近少しメモリアの集まりが悪いですね……」
そう言いながら、俺は彼女の隣に並び、そして……。
「このままでは、三幹部様のクビが、少し危ういかと思われまして」
「ッ……」
シッパーレは忌々しそうに舌打ちをして、俺の顔を見る。
試しに肩を竦めて見せると、彼女はそれ以上何も言わずに、踵を返し去っていく。
少し言い過ぎたか? まぁでも、これくらい言っておいた方が、少しはやる気に繋がるか。
「それじゃあ俺は、お友達の紫音君の所に、遊びに行かせてもらいますかね」
そう呟いて少し笑い、俺は歩き出した。
<瑞樹視点>
翌日から、兄貴に教えてもらいながら課題曲の練習が始まった。
コンクールの課題曲は二曲。その内、一曲は幸いにも私が好きな子犬のワルツに決まった。
だから、私がコンクールまでに覚えなければならない曲は残りの一曲のみなのだが、その一曲がかなりの曲者だった。
ショパンの「革命」。
最初メロディを掴むために兄貴と共に聞いてみたら、かなり難しそうで呆然としたものだ。
兄貴はどうやら弾けるようで、お手本で目の前で弾いてもらったが、正直指の残像が何度か見えた。
ピアニストを目指していた全盛期の私ならいざ知らず、今の私に弾けるのだろうか。
……いや、弾けるか、じゃない。弾くんだ。
そんな覚悟と共に、私は早速弾き始めた。
しばらく弾いていると、途中で失敗して、不協和音が響いた。
「あっ……」
「おや」
私が声を漏らすと、兄貴はふと顔をあげ、私の元に近づいて来る。
そして、私が見ていた楽譜を持って、ジッとしばし見つめる。
「失敗したのはここか」
「毎回そこで失敗しちゃうんだよ……なんでかなぁ」
「まぁ、ここはかなり複雑だからね。まぁ、次行ってみれば良いよ」
兄貴の言葉に頷いた時、インターホンの音が鳴った。
一瞬立ち上がろうとしたが、すぐに兄貴が歩いて行ったので、私は座り直してピアノを弾き始める。
楽譜通りに、鍵盤を叩く。
重々しいメロディがリビングに響き、自然と体が揺れて……―――。
「瑞樹ちゃん!」
その時名前を呼ばれ、醜い不協和音が響く。
咄嗟に見ると、そこには、リコルンを抱いてこちらに駆け寄って来る杏の姿があった。
さらに驚いたことに、その後ろから兄貴と一緒に芹谷さん? も歩いて来る。
「杏、来てくれたの?」
「うんっ! あ、そういえば、さっきそこで芹谷さんに会って……」
「風斗、で良いよ」
そう言って微笑むせr……風斗さん。
彼の言葉に、後ろから歩いてきていた兄貴がため息をついた。
「杏奈ちゃんは分かるけど、なんで風斗までここに?」
「ヘヘッ。紫音に会いたかったから、来ちゃった」
悪戯っぽく笑いながら言う風斗さんに、紫音は困ったような表情をした。
そんな二人のやり取りを見ていると、杏が私の隣に座った。
「ずっと弾いてたの? ピアノ」
「あー……まーね」
「だと思った。だから、ハイ、お土産」
そう言って、近所のドーナツ屋さんの箱を差し出して微笑む杏。
天使がいる。中々弾けないストレスが私の中からスーッと消えていくのが分かった。
箱を受け取り開けて見ると、入っているドーナツは四種類だった。
プレーン、チョコ、ストロベリーに抹茶。
私は抹茶を取り出し、早速一口食べた。
「うまッ!」
そう感想を漏らすと、杏がクスクスと笑った。
ぬいぐるみのフリをしているリコルンは何も反応は無いが、どことなく羨ましそうな目で私を見ている気がする。
兄貴と風斗さんは……っと、二人で話しているな。
二人がこちらに向いていないのを確認して、私はドーナツを少しだけ千切り、リコルンの口に入れてあげた。
ドーナツを食べたリコルンは嬉しそうな顔をした。
「美味しいリコ!」
感極まったからか、そんな声を出した。
私と杏で慌ててリコルンの口を塞ぎ、兄貴達に視線を向けた。
「瑞樹……今の声は……?」
聞かれてたー!
焦った私は、咄嗟にリコルンの体を両手で掴み、顔の高さまで持ち上げる。
「どっ……ドーナツ美味しいリコ〜」
裏声でそう言いつつ、リコルンの手を振る。
兄貴は「リコ……?」と首を傾げ、風斗さんは可笑しそうにクスクスと笑った。
「紫音の妹ちゃんって面白いね!」
どうやら受けたようだ。
ホッと息をついた時、風斗さんがスタスタとこちらに歩いてきて、顔を近づけて来た。
「……!?」
「だから、もっと君のこと知りたいな」
そう言って微笑む風斗さん。
そうですね、と返事をしようとした時、風斗さんの襟首を掴んで兄貴が引き離した。
「人の妹をたぶらかそうとするな」
「たぶらかすなんて人聞きの悪い。ただ、瑞樹ちゃんとも仲良くしたいだけだよ」
そう言ってクスクスと笑う風斗さんに、兄貴は呆れたようにため息をついた。
不思議そうな感じだけど、悪い人では無い、のかな?
そう思っていると、風斗さんは私の方を見て、フッと微笑んだ。
「そういえば、瑞樹ちゃんはピアノコンクールに出るんだって?」
「あ、ハイ。今もその練習中で」
「へぇ〜。練習は順調?」
「うーん……微妙ですかねぇ……同じ場所でいつも失敗しちゃって」
「へぇ」
感心したように言う風斗さんに、私は少し目を伏せた。
なんか、杏や兄貴ならまだしも、出会ったばかりの風斗さんに愚痴るのはなんか違ったかな〜。
「……は……ないか……」
その時、風斗さんが何か呟くのが聴こえた。
顔を上げると、風斗さんとちょうど目が合った。
彼は不思議そうな感じで笑い、首を傾げた。
「あの……今、何か言いましたか?」
「え?」
なんとなく聞いてみると、聞き返された。
……空耳、かな?
ていうか、少し休憩が長すぎるか。
私はドーナツの残りを箱に戻し、ピアノに向き直り、また練習を再開した。
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