二次創作小説(新・総合)

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【オリキュア】メモリアルプリキュア!
日時: 2017/08/01 23:00
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.49 )
日時: 2017/09/30 20:43
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第8話「月光に響くヤキモチピアノ?奏でろ友情のワルツ!」6

 記憶世界から抜け出すと、そこは保健室だった。
 恐らく、誰かが地面に倒れるこの男子生徒を保健室に運んだのだのだろう。
 ベッドを囲うカーテンをちょっとだけ開いて顔を出し、誰もいないことを確認して瑞樹ちゃんと共に外に抜け出した。

「なんか緊張したねぇ」

 暢気な口調で言う瑞樹ちゃんに、私も「そうだね」と言って笑った。
 それから二人で階段を上って三階に行き、廊下に置いたままの鞄を手にする。
 さて帰ろうか、ということになった時、私はとあることに気付き、立ち止まった。

「吹奏楽部……もう練習終わったんだ」
「ん?」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんも立ち止まる。
 だって、ロブメモワールとの戦いまで聴こえていた吹奏楽部の演奏が、今は全く聴こえないから。

「あー……もうそんな時間か」

 瑞樹ちゃんはそう言いながら後頭部の辺りを掻く。
 それから私の方を見て、ニッと笑った。

「ちょっとピアノ、弾いていこうか」
「……うんっ!」

 瑞樹ちゃんの言葉に私は頷き、彼女の手を握った。
 それから二人で中に入り、ピアノの前に座る。

「それで、何教えてほしいの? 杏が私の演奏で聴いたことあるのは……ベートーベンの運命とか?」
「あぁいや、そういうのじゃなくて……」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんはキョトンとした表情をする。
 彼女の様子に、私は笑って、瑞樹ちゃんの手を握る力を強くした。

「……瑞樹ちゃんの好きな曲が……良いな」
「私の、好きな……?」

 聞き返してくる瑞樹ちゃんに、私は頷いた。

「うん。瑞樹ちゃんが一番好きな曲。それ教えてもらって、いつか……二人で弾いてみたい」
「……そっか」

 瑞樹ちゃんはそう言って目を伏せる。
 窓から差し込む夕日が彼女の顔を照らしているからか、頬がほんのり赤い。
 それから彼女はソッと指を鍵盤に置き、フゥ、と息をつき、私の顔を見て微笑んだ。

「……私さ、昔から、喜怒哀楽によって、弾く曲が変わるんだ」
「弾く曲?」
「なんて言うんだろう……無意識に、その時その曲を弾くのが一番合ってるっていうか……」
「へぇ〜。どんな曲があるの?」
「うーん……例えば、悲しいことがあった時とか、辛い時は月光っていう曲。怒ってたり、気持ちがなんか、ムカムカする時は、運命」
「じゃあ、あの時怒ってたの!?」
「誰かさんがあの生意気モデルの話ばっかりするんだもん」

 瑞樹ちゃんの言葉に、私は押し黙る。
 まぁ、少し浮かれすぎていたか……。

「……まぁ、あの時の杏、結構可愛かったけど」

 ボソッと呟く瑞樹ちゃん。
 それに、私はなんだか気恥ずかしくなって、目をそらしてしまった。

「そ、それで……嬉しい時は、何弾くの?」
「えっ……あ、そっか」

 瑞樹ちゃんはそう言うと私の手を離させて、鍵盤に指を添える。
 そして、私の方を見て、微笑んだ。

「ショパンの、子犬のワルツ」

 そう言って、彼女の両手は鍵盤の上で踊り出す。
 指が舞い、華麗な音を奏でて行く。
 音楽室に響く甘美なメロディに、私はついうっとりした。

「なんか、可愛い曲だね」
「ね。……でも、結構早い曲だし、杏にはまだ難しいんじゃないかな。もっと簡単な曲から……」
「やだ。これ弾く!」

 咄嗟にそう遮ると、瑞樹ちゃんはポカンとした顔をした。
 それと同時に、演奏が止まる。
 私は両手に拳をつくり、続ける。

「だって、これ弾いてる時の瑞樹ちゃん、すごく楽しそうなんだもん。……瑞樹ちゃんが楽しいって思える時間を一緒に共有できるなんて、すごく幸せだよ」
「杏……私も杏と楽しいこと、たくさんしたい」

 瑞樹ちゃんは、そう言って私の手を握る。
 私もそれに彼女の手を握り返し、笑って見せた。

「難しくても良いよ。時間はたっぷりあるんだもん。一緒に頑張ろ?」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんはしばらく視線を彷徨わせた後で、コクッと頷いた。

「そうだね。……でも、指導には手抜いたりしないからね?」
「うぅ……精進します」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんは明るく笑った。
 それに釣られて、私も笑った。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.50 )
日時: 2017/10/01 17:37
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」1

 土曜日の昼間。瑞樹ちゃんの家。
 白い日差しが差し込む部屋の中、不協和音を響かせながら、私の指が止まる。
 そんな私の様子に、瑞樹ちゃんはため息をついた。

「だから難しいって言ったのに……まずは簡単な曲から始めた方が良かったんじゃない?」
「……ううん。頑張る」
「杏奈は頑張り屋さんリコ〜」

 リコルンの言葉に、瑞樹ちゃんが「そういう問題じゃなくて……」と否定する。
 すると、ピアノがあるこのリビングの扉が開くので、私は慌ててリコルンの口を手で押さえ、膝の上に置く。
 中に入って来たのは、瑞樹ちゃんのお兄さんである紫音さんだった。

「紫音さん!」
「二人とも、ピアノの練習は順調かい?」

 そう言って、紫音さんは優しく微笑む。
 相変わらず顔が整っていて、カッコイイなぁ……。
 見惚れていると、隣で瑞樹ちゃんが「コホン」とわざとらしく咳をするので、私は慌てて姿勢を正した。

「全然。杏ってば、同じところで何度もミスするんだもん」
「だってぇ……」
「あはは。子犬のワルツは中々難易度が高いからね。僕もたまに失敗したりするよ」

 紫音さんのフォローに、私は少しだけ胸が軽くなった。
 彼でも失敗するんじゃ、私が失敗してもしょうがないか。

「ダメだよ甘やかしたら。杏が言いだしたんだもの。折角なら、完璧に弾かせないと」

 しかし、瑞樹ちゃんはそれを許してくれそうにない。
 そんな彼女の様子に、紫音さんはクスクスと笑った。

「でも、ずっと弾いていたら疲れるだろう? ちょうど僕も飲みたかったことだし、紅茶でも淹れてあげるよ」
「良いんですか!?」
「良いよ良いよ」

 紫音さんはそう言って軽く手を振ると、台所に消えて行く。
 その様子に見惚れていると、瑞樹ちゃんが楽譜をパラパラとめくった。

「それじゃあ、紅茶が出来るまでの間、もう少し練習しようか」
「えぇっ……休憩は?」
「兄貴が紅茶淹れて来てくれたら」

 悪戯っぽく笑いながら言う瑞樹ちゃんに、私は呻き声をあげた。
 そんな私に、膝の上に隠しているリコルンが小さな声で「頑張るリコッ」って言って来たんだ。


−−−

 暗く淀んだ空気の中で、ボロボロになって戻って来たラオベンが膝をつく。

「あらあら。プリキュアにこっぴどくやられたみたいね」
「と言っても、しょうがないか。今度のプリキュアは二人みたいだからな」

 茶化すように言うシッパーレを嗜めるように、デロべが言う。
 二人の言葉に、ラオベンが舌打ちをした。

「だからって、このままでは我等の悲願は……この世界の全ての人間からメモリアを奪えば、きっとあのお方が……!」
「おやおや。どうやら苦戦しているようですねぇ」

 どこからか聴こえた声に、三人は辺りを見渡す。
 その時、ちょうど三人全員からの距離が等しくなる一点に、一人の青年が着地した。

「お前は……!」
「貴方にお前呼ばわりされる覚えは無いのですが?」

 青年がそう言うと、ラオベンはクッと息を漏らして口を閉ざした。
 黄色の髪に、黒いメッシュが入ったような髪。
 白い肌に、燕尾服のようなものを身につけた青年は、三人の顔をそれぞれ見てから、クスッと笑った。

「これはこれは三幹部の皆さま。まぁまぁ、そんな風にかしこまらないで」
「なんで貴方がここに来たの? ……セフト」

 シッパーレがそう聞くと、セフトはフフッと不敵な笑みを浮かべた。

「いえ、最近メモリアの集まりが悪いと思いましてね。あの三幹部の皆さまに何かあったのかと思うと、心配で夜も眠れず……」
「御託は良い。それで? 何の用だ?」

 デロべが苛立った様子でそう言って見せると、セフトは「連れないですねぇ」と言いながらヘラヘラと笑った。

「……折角私がプリキュアとやらを倒して見せたというのに、またもや現れたようですね。それも、次は二人」
「「「……」」」
「フフッ。この世の中、何が起こるか分かりませんね」

 ニコニコと笑いながら、口に手を当てて笑うセフト。
 彼の言葉に、三人は何も答えない。
 しばらく笑った後、セフトは三人に背を向ける。

「そろそろヴォルール様の我慢の限界のようです。なので、少しメモリアの回収と……上手くいけば、プリキュアも倒したいと思っています」
「なっ……どうやって!?」

 ラオベンの言葉に、セフトはニヤリと笑うと、口に人差し指を当てて「内緒」と答えた。
 そして、彼の体はどこかに消えて行った。

−−−

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.51 )
日時: 2017/10/01 20:23
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」2

「ふむ……ここが日本ですか……」

 時計塔の屋根の頂上に立ったセフトは、そう呟いて辺りを見渡した。
 笑い合う人々。楽しそうに買い物をする人や、道路を走る小さな子供たち。
 たくさんの笑顔で溢れる様子に、セフトはフッと影のある笑みを浮かべた。

「では、その楽しい思い出、全て消し去ってあげましょう!」

 そう言って、セフトは右手を空に掲げた。
 その瞬間、彼の頭上に超巨大な時計の針が現れる。
 突然空に現れた巨大時計に、町の人間達の視線は注がれる。
 その針は刻一刻と時を刻み、やがて……長針と短針が重なる。

 その瞬間、世界が全て白黒に染まり、時見町に存在する全ての生命体が動作を停止させた。

「さぁ、貴方達の底力、見せてもらいますよ。プリキュア」

−−−

<杏奈視点>

「……ん?」

 突然、鍵盤が音を出さなくなる。
 それどころか、何度叩いても、ピクリとも動かなくなったのだ。

「杏? どしたの?」
「いや……鍵盤が、全然動かなくて」
「は? そんなわけ……」

 そう言いながら瑞樹ちゃんは鍵盤を両手で叩く。
 しかし、カチカチと爪が当たる音だけで、鍵盤自体はピクリと動かない。

「何これ……」
「なんか、様子が変リコ?」

 リコルンの言葉に、私は顔を上げた。
 よく見ると、部屋が全て白黒に染まり、まるで……ワスレールが現れた時の、記憶世界のようだった。
 私はリコルンを抱き上げて、椅子から立ち上がる。

「やっぱり、なんか変だよ。瑞樹ちゃん」
「そうだね……あ、そうだ。兄貴!」

 瑞樹ちゃんはそう言って立ち上がり、台所に走っていく。
 扉を開けて中を見ると、そこには紫音さんがいた。
 ティーポットからカップに紅茶を移す作業の途中のようで、白いティーポットから紅茶が流れ出ている。

 しかし、白黒に染まった紅茶は、とてもじゃないけれど紅くは見えない。
 そしてその紅茶は、ティーカップの底にぶつかってしぶきを上げながら、停止している。
 その紅茶と同じように、紫音さんも停止したままで、こうして私達が入ってきたにも関わらず、一言も話さずにティーカップをジッと見ているのだ。

「あ……兄貴……?」
「……とにかく、外に出てみよう。もしかしたら、ここだけじゃないかもしれない」

 私の言葉に瑞樹ちゃんは頷く。
 彼女を連れて外に飛び出すと、外も瑞樹ちゃんの家と同じような状態で、白黒に染まっていた。
 おまけに、家の前の道を歩いて来るおばさんや、空を飛ぶ鳥達。
 全てが停止していて、全くと言っていいほどに音がしないのだ。
 聴こえてくるのは……自分の心臓の音だけ。

「杏……これ……」
「うん……まるで、記憶世界にいるみたい」

 そう思っていた時、上空に亀裂が入る。
 まるで……ワスレールが現れる時のような。
 私と瑞樹ちゃんは背中合わせに立ち、それをひたすら見つめた。

「リコォ……」

 怯えた声を漏らすリコルンを、私は強く抱きしめる。
 次の瞬間、亀裂が一斉に破裂して、ワスレールが落下してきた。

「瑞樹ちゃん!」
「分かってる!」
「「プリキュア! メモリアルコンバージョンッ!」」

 考えるのは後。
 今はただ……戦うだけ。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.52 )
日時: 2017/10/02 20:35
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」3

「今を輝く、一つの光! キュアアデッソ!」
「過去を束ねる、一つの夢! キュアパースト!」
「「取り戻せ! 愛のメモリー!」」
「「メモリアルプリキュア!」」

 そう叫ぶと同時に、亀裂が全て破裂し、中から大量のワスレールが出てくる。

「リコルン! しっかり掴まってて!」
「了解リコ!」

 リコルンがそう言って私の腕にしがみつくのと同時に、私とパーストは手を繋ぎ、後ろに跳んだ。
 次々とワスレールが着地していくのを眺めながら、私はパーストに視線を向けた。

「パースト! どうする!?」
「どうするって……一匹ずつ浄化するのは時間掛かるし……」

 そう言って顔をしかめるパースト。
 一匹ずつ浄化なんてしていたら、プリキュアが何人いても足りない。
 せめてこの状況の元凶を見つけなければ。

「一体、何が原因なの……!?」

 そう言いつつ、私は顔を上げた。
 すると、ちょうど視界に入った時計塔の頂上に、ワスレールが出てくる時に現れる、巨大な時計の針があるのが見えた。

「まさか、あれが……」
「アデッソッ!」

 パーストに名前を呼ばれ、私は我に返る。
 見ると、目の前にワスレールが迫って来ていた。
 すぐにパーストに腕を引かれ、その場を離れる。
 しかし、どこに行っても、町中にワスレールが溢れていて、逃げ道なんて無いように思える。

「くっそぉ、次から次へと……!」
「ねぇ、パースト!」
「何!?」
「もしかしたらの話なんだけど……!」

 そこまで行った時、横の通りからワスレールが二体現れた。
 咄嗟に、私は一体に回し蹴りを、パーストがもう一体にエルボーを放ち、目の前から排除する。
 走りながら、私は続ける。

「これ、この時見町が記憶世界と同化しているのかも!」
「は!?」
「私にもよく分からないけど、多分……少なくともこの時見町が、記憶世界と同じシステムになってるんだよ」

 そう言った時、目の前に三体のワスレールが現れる。
 走りとジャンプでなんとか躱しながら、パーストは口を開く。

「じゃあどうすんの!? 全部のワスレールを倒すなんて無理だよ!」
「私だってそんなこと分かってる! だから、あれ……」

 そう言いながら私が指さした方向に、パーストは視線を向ける。
 時計塔の頂上にある、巨大な時計の針。

「あれ、記憶世界にあるやつじゃ……」
「うん。だから、あれをなんとかすることができれば、きっと……」

 私の言葉に、パーストは周りに蠢くワスレールと時計塔の頂上にある針を交互に見る。
 しばらくそれを繰り返してから、コクッと頷いた。

「分かった……でも、どうする?」
「とにかく、時計塔の頂上まで行ってみよう。そうしたら、何か分かるハズ」

 私の言葉に、パーストは「そうだね」と言って頷いた。
 そして二人で繋いでいる手を握り合う力を強くした。

「アデッソ……」

 その時、私の腕に掴まっているリコルンが不安そうに声を発した。
 私はそれに微笑んで、リコルンの頭を撫でた。

「大丈夫だよ、リコルン」
「……時見町までメモリー王国みたいにしたらダメリコ」

 その言葉に、私は頷いた。
 そして、パーストに視線を向けた。

「それじゃあ行くよ……パースト!」
「うん!」

 その掛け声と共に、私達は一歩踏み出した。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.53 )
日時: 2017/10/03 17:46
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」4

 ワスレールを躱し、時計塔の根元まで行くと、私達は後ろを振り向いた。
 どうやらワスレール軍団は撒いたようで、かなり遠くに見えていた。

「あとは頂上に上るだけ……でも……」

 パーストの言葉に、私も時計塔を見上げる。
 かなりの高さがある。
 少なくとも、外側の壁からは無理。
 そうなると消去法で、内側の階段を上がるしかない。

「パースト」
「分かってる」

 私の言葉にパーストはそう答える。
 それから二人で時計塔の中に入り、階段を上っていく。
 プリキュアの力で身体能力は強化されているため、二段飛ばしでも全速力と同じくらいの速度で上がることが出来る。

「そういえば、アデッソは時計塔に来るのは、初めてだっけ?」
「あ、いや……星華ちゃんと来たことある」
「……そう」

 星華ちゃんの名前を出したからか、曖昧な表情で目を伏せる。
 何か弁解しようと考えていると、すぐにパーストは笑みを浮かべ、顔を上げた。

「楽しかった?」
「……うん」

 私が頷くと、パーストは笑って「それは良かった」と言った。
 そこで、私はとあることに気付き、立ち止まった。

「あれ? どしたの?」
「いや……そういえば、私とパーストで来るのは初めてだなって」
「えっ……あっ」

 パーストは私の言葉に、目を丸くして私を見た。
 こんなことをしている場合ではないことは分かっている。
 でも、つい言いたくなったんだ。

「この時計塔、時見町の名物なんでしょう?」
「う、うん……」
「初めては、勢いで星華ちゃんと来ちゃったけど……パーストとの初めては、もっとちゃんと来たかったなって」

 私の言葉に、パーストはクスッと笑い、私の手を取る。
 速足で階段を上りながら、彼女は口を開いた。

「じゃあ、さっさとこんなこと終わらせて、またいつか一緒に来ようよ!」
「え、でも……」
「今はパーストとアデッソとして、でしょ!? また今度……瑞樹と杏奈として、一緒に!」

 瑞樹ちゃんの言葉に、私は頭の中でその言葉を反芻させる。
 しばらくして、その言葉の意味を理解し、私は咄嗟に頷いた。

「うんっ! その時は、こんな風に慌ただしくない状態で!」

 そこまで言った時、階段が途切れる。
 しかし、私達はもう、迷わなかった。
 すぐに頭上にある歯車などに手を掛けては、上に行く。

「そうだね! その時は、こんな白黒に染まった世界じゃなくて、普通に綺麗な時見町を見ようよ!」
「うんっ! 星華ちゃんの時は、のんびり景色見れなかったから……初めてここからゆっくり時見町を見る相手は、瑞樹ちゃんが良い!」
「私も! 杏奈の初めての相手を、たくさん私で埋めたい!」

 そこまで行った時、天井が見える。
 屋根の頂点に見える、小さな天窓。
 確か、設計ミスで出来た窓だと聞く。
 今はそれが……ありがたい!

「「せーのっ!」」

 私達は同時に叫び、天窓を開けて飛び出した。


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