二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【オリキュア】メモリアルプリキュア!
日時: 2017/08/01 23:00
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.54 )
日時: 2017/10/05 22:24
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」5

 屋根の上に出ると、目前に時見町の景色が見えた。
 しかし、建物や動植物など、全てが白黒に染まっていて、お世辞にも良い景色とは言えなかった。
 そして、町中を蠢き、破壊活動を行うワスレール達。
 奴等が何かを壊す度に、空間にヒビが入って、黒い光が宙に浮かぶ。

「あれは……」
「……メモリアリコ」

 リコルンの言葉に、私達は息を呑む。
 宙を舞う黒い光の粉が、メモリアなのか……。
 そういえば、記憶世界の戦いでも、たまに似たようなものを見る。
 普段の戦いでも、少量のメモリアは奪われている、ということか。

「……ふむ。あのワスレール達をかいくぐり、尚且つこの現象の正体に気付き、ここまで来るとは……」

 その時、背後からそんな声が聴こえ、私達は振り向いた。
 見ると、そこには観察するようにこちらを見る男の姿があった。
 燕尾服に、黄色と黒の髪……紫音さんに負けないくらい、整った顔。
 年齢も……紫音さんと同じくらいかな?

「貴方は……!?」
「フフッ。何かを知るのは、勝者の特権ですよ?」

 男の言葉に、私達は唇を噛みしめた。
 その時、彼の背後に、時計塔の上に見えた巨大な針の一部が見えた。
 もしあの時計がワスレールを出しているのなら……重なっている針をどうにかずらせば……!

「パースト……!」
「おっと。させると思いますか?」

 男はそう言って間に立つ。
 その時、私の腕からリコルンが離れ、男に向かって飛んでいく。
 やがて、男の顔に貼り付いた。

「リコルン!」
「この、小動物め!」
「アデッソ! パースト! 今の内に!」

 リコルンの言葉に、私達はすぐに屋根を駆けあがっていく。
 同時に飛びつき、それぞれ、時計の長針と短針にしがみついた。

「ど、どうする!? 動かしてもビクともしないよ!?」
「諦めたらダメだよ! なんとかするんだ……!」

 私の言葉に、パーストは驚いたように目を見開いた。
 それを見ながら、私は長針の方を抱きしめる力を強くした。

「絶対に、諦めない……! 瑞樹ちゃんと一緒にまた、この時計塔に来るために!」

 そう言った時、体から僅かに力が抜けるような感触がした。
 同時に、長針が微かに光った。

「ッ……! そうだね! いつか、杏をこの時計塔に案内するために!」

 パーストがそう言った時、短針が僅かに強く光った。
 私達は顔を見合わせ頷き合い、それぞれが抱えている針に力を込めた。
 すると、どんどん光が強くなって、目の前が真っ白になる。

「これは……!」
「今一番ッ……輝けぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 そう叫んだ瞬間、一際強い光が瞬いた。
 直後、その光が弾け、時計塔を中心にするように時見町は色を取り戻していく。
 すると、目の前に先ほどの時計の長針を小さくしたようなものが舞っていたので、私は咄嗟にそれを握り締めた。
 同じようにパーストも何かを握り締めるのを確認しながら、私達は時計塔の屋根に体を打ち付けた。

「ぷはッ……なに!?」

 ちょうど顔に貼り付いていたリコルンを剥ぎ取った男は、時計の針が消えたのを見て、目を見開いた。
 私はすぐに立ち上がり、「リコルン!」とリコルンを呼んだ。
 すると、リコルンは「アデッソ〜!」と叫んで、私の胸に飛び込んでくるので、しっかり抱きとめる。

「私達の勝ちだね! さぁ、名前を名乗ってもらおうか!」

 同じように立ち上がったパーストは、そう言って人差し指を男に向かって突き付けた。
 すると、男は悔しそうに顔をしかめ、自身の前髪をクシャッと握り締めた。

「……我が名はセフト。時を統べりし王、ボウキャーク様の下僕」
「ボウキャーク……?」

 私がそう聞いてみても、セフトはそれ以上何も言わずに、消えて行った。
 すると、体から力が抜けるような感覚がして、私達は屋根の上にへたり込んだ。

「……あ、見て。アデッソ」

 パーストは、笑顔でそう言って前方を指さした。
 彼女の指さす方向を見ると、そこには、大きく広がる時見町があった。

「うわぁ……!」
「屋根の上なんて、私達にしか見れない特等席だね」

 悪戯っぽく笑いながら言うパーストに、私は「そうだね」と返す。
 すると、だんだん勝利の喜びやら何やらが湧き上がってきて、気付いたら、私達は同時に吹き出した。
 笑い合っていると、クゥゥゥと情けない音が聴こえた。

「お腹すいたリコ……」

 リコルンの言葉が聴こえると同時に、私とパーストのお腹も同じように鳴った。
 咄嗟にお腹を押さえると、パーストはフフッと笑った。

「帰ろっか。ちょうど、ご飯の時間になりそうだし」
「ん……そうだね」

 私の返事にパーストは立ち上がり、手を差し出してきた。
 その手を右手で握り、私は立ち上がった。
 左手には、しっかりリコルンを抱いて。

「それじゃあ、行こうか」
「帰りは一気に近道して行こうね」

 パーストの言葉に頷いて、私達は同時に時計塔から飛び降りた。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.55 )
日時: 2017/10/03 23:01
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第9話「闇に染まった時見町!プリキュア新たなる力!」6

 外で変身を解き、私達は瑞樹ちゃんの家に戻った。
 すると、紅茶の良い匂いが漂って来た。

「おかえり。どうしたの? 気付いたらいないからビックリしたよ」

 そう言ってリビングから顔を出す紫音さん。
 彼の言葉に、私と瑞樹ちゃんは顔を見合わせた。

「まぁ、ちょっと野暮用」

 瑞樹ちゃんがそう言ってみせると、紫音さんは首を傾げた。
 とはいえ、それ以上は言及せずに、すぐに私達をリビングに案内してくれた。
 中に入ると、そこには、ホカホカと湯気を立てる紅茶と、美味しそうなドーナツが置いてあった。

「このドーナツは?」
「あぁ。元々二人にお土産で買って来ていたものだよ。さ、紅茶が冷めない内にどうぞ」

 紫音さんの言葉に、私達はソファに座った。
 ドーナツを手に取りながら、瑞樹ちゃんはニマニマと笑った。

「兄貴気が利くじゃん。サンキュー」
「ありがとうございます。ご馳走になります」

 私の言葉に、紫音さんは「いえいえ」と笑った。
 それから私達は同じドーナツを顔の前に持って来て、「いただきまーす!」と言って、齧り付いた。

−−−

<セフト視点>

 プリキュア……想像以上の強さだ。
 今回のワスレールを大量の出現させる作戦は、正直成功すると思っていた。
 実際、第一目的である、メモリアの大量回収は成功した。
 しかし……プリキュアを倒すという第二目的は、果たせなかった。

 俺は目を瞑り、プリキュアのメモリアを辿る。
 今日の接触で、奴等のメモリアにはマーカー済みだ。
 少なくとも、こちらから奴等の動向を探ることは可能。

 辿って……辿っていくと……そこは、一軒の民家だった。
 その中で、二人は菓子を頬張り、紅茶を嗜んでいた。
 俗に言うティータイムというものだろうか。
 ぼんやりとそれを観察していた時、気になるものを見つけ、俺はそれに集中した。

 それは……一人の青年だった。
 見た目的な年齢なら、恐らく俺と同い年くらいだから……高校二年生か?
 コイツはなぜ、プリキュアと一緒に……。

「兄貴〜。砂糖無い?」

 キュアパーストの言葉に、俺は僅かに息を呑んだ。
 兄貴……つまり、この男はキュアパーストの兄か?
 ふむ……身内を調べれば、少しはプリキュアのことを調べられるかもしれない。

「面白そうだな……」

 そう呟き、俺は一人ほくそ笑んだ。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.56 )
日時: 2017/10/04 20:25
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第10話「転校生は危険な香り?セフトと紫音の急接近!」1

<杏奈視点>

「結局さぁ、この針は一体何なんだろうね」

 月曜日の朝。学校に行く道を歩きながら、瑞樹ちゃんはそう言った。
 彼女の言葉に、私は首を傾げながら「さぁ?」と言った。
 ちなみに、瑞樹ちゃんの針というのは……土曜日にセフトと名乗る男が出した針を壊した際に出て来た、小さな長針と短針のことだ。
 瑞樹ちゃんの方の短針は空色をしていて、太陽の光を反射してキラキラ光っている。
 私の持つ長針は桃色で、花の色にどこか似ている気がした。

「リコルンにも分からないみたいだし……よく分かんないね」
「そだねー……ま、気長に行くしかないか」

 そう言って瑞樹ちゃんは空色の短針を胸ポケットにしまい、軽く伸びをした。
 しかし、月曜日というものは、なんだか憂鬱だ。
 きっとこの憂鬱感というものは、全人類共通のものなのだと思う。
 そうぼんやり考えていた時、角から出て来た人影にぶつかってしまった。

「わッ……」

 少しよろめくと、瑞樹ちゃんに支えられた。
 なんとか姿勢を正し、顔を上げると、そこには綺麗な金髪の男の人が立っていた。

「ごめん。前をよく見ていなくて……怪我はない?」

 そう言って顔を覗き込んでくる。
 その顔立ちはすごく整っていて、しばらく見惚れてしまいそうになる。

「あ、いえ……大丈夫です」
「本当? 良かった」

 そう言って微笑むだけで、かなり絵になる。
 実際、私達の横を通り過ぎて行く人達は、皆彼に見惚れている様子だったし。
 私もついしばらく見惚れていると、瑞樹ちゃんがわざとらしく咳をするので、慌てて姿勢を正した。

「いえ、私もちゃんと前を見ていなかったので……気にしないでください」
「そう……分かった。それじゃあ、俺はこの辺で」

 また縁があったら会おう、と言いながら、彼は歩いて行く。
 その後ろ姿を見ていると、瑞樹ちゃんは唐突に「あっ」と声を漏らした。

「……? 瑞樹ちゃんどうしたの?」
「いや、あの制服、兄貴と同じ学校の人だなぁって」
「え、本当?」

 私の言葉に、瑞樹ちゃんは頷いた。
 そしてポリポリと頬を掻きながら続ける。

「兄貴の知り合いかなぁ?」
「どうだろうね〜」

 そう暢気に会話しつつも、私達は学校に向かって歩き出した。


<紫音視点>

「よっ、紫音」

 下駄箱の前に立ちスニーカーを脱いでいると、友人である太田 博人がそう挨拶をしてくる。
 それに、僕は脱いだばかりのスニーカーを持ち上げながら、「おはよう、博人」と返した。
 博人は俺の隣に立ち、同じように靴を脱ぎながら「そういえば」と口を開く。

「今日さ、転校生が来るらしいぜ」
「へぇ〜」

 そう生返事をすると、博人が不機嫌そうな顔をした。

「へぇ〜……って、興味ねぇのかよ?」
「別に興味無いかなぁ。だって、ただ単純に、一人クラスメイトが増えるだけでしょ?」

 僕の言葉に、博人は「つまんねーの」と返す。
 と言っても、僕からしたら転校生如きで一喜一憂するのもどうかと思うけれど。
 別に転校生だから友達になるってわけでもないし。
 強いて言うなら、感じのいい人だと良いかな。
 そう思いながら下駄箱の蓋? を開けると、中に封筒が一つ入っていた。
 これは……。

「んあ? またラブレター?」
「またって……そんな頻繁には貰ってないでしょ」

 そう言いながら封筒を取り出し、上靴という名目のスリッパを履いて、僕は息をつく。
 綺麗な封筒。丁寧に封筒を留めているシールを剥がして便箋を取り出して見ると、そこには丸っこい文字の羅列があった。
 一目見た時から好きでした。貴方のピアノの音に惚れました。か……。
 名前を見ると、話したことのない女子生徒。

 あぁ、これで……何度目になるんだろう。
 顔や、名声だけで、上辺だけの告白をする人。
 僕は何も言わずに封筒を鞄にしまう。

「誰だった? 可愛い子?」
「いや……話したことも無い子だから、分からないよ」
「ちぇー」

 不満げに言う博人に苦笑しながら、僕は心の中で何度目かになるため息をついた。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.57 )
日時: 2017/10/04 23:06
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第10話「転校生は危険な香り?セフトと紫音の急接近!」2

「それじゃあ、今日は転校生が来てくれています」

 先生の言葉に、教室が僅かにざわつく。
 博人のおかげでそれを知っていた僕は、特に気にすることなく、窓の外の景色を眺めた。
 学校は……つまらない。
 特に面白いと思えることがない。
 まだ家にいれば、妹が突然気持ちを昂らせながらピアノを弾いていたり、その友達が下手くそな子犬のワルツを披露してくれたりと、中々愉快なものを見せてくれるのだが……。
 そう思っていた時、教室の扉が開くので、僕は眼球を動かしてそれを見た。

「では、今日からこのクラスの仲間になる芹谷 風斗(せりだに ふうと)君です」
「芹谷 風斗です。今日からよろしく」

 そう言って笑みを浮かべたのは、綺麗な金髪の男子生徒だ。
 かなり整った顔立ちに、女子生徒達が顔を赤らめている。
 結局は、顔が良ければ全て良し、か……。

「それじゃあ芹谷君の席は……前原君の隣で良い?」
「へ……?」

 突然名前を呼ばれ、僕はつい呆けた。
 その間に芹谷君は僕の隣の席まで来て、椅子に座った。

「フフッ。今日からよろしくね、えっと……前原君?」
「あ、あぁ……」

 笑顔でそう言われ、僕はそう返事をすることしか出来なかった。

 それから芹谷君との学校生活が始まった。
 と言っても、彼は転校初日から人気者で、色々な生徒―――主に女子―――から話しかけられていた。
 気さくな性格で、男子からの人気も中々高い。
 おまけに、午前中だけ見た感じ、成績優秀で運動神経も抜群だ。

 正直言って……胡散臭い。
 人間臭くないというか、完璧すぎる気がするのだ。
 顔も性格も良い人間なんて、存在するわけがない……と僕は思う。
 博人に前にそれを言ったら、顔も性格も良いお前が言うなと一蹴されたが。
 僕の性格は良くないと思うけど。

「っと……」

 そんな風に考え事をしていた時、廊下で女子生徒がノートを運んでいて、落としてしまっているのを見つけた。
 僕は慌ててそこに駆け寄り、拾ってやる。

「ハイ、大丈夫?」
「えっ、あっ……ありがとうございます」

 落としたことによる羞恥心か、顔を赤らめる女子生徒。
 しかし、それでも笑顔を浮かべているので、まぁ良いか。
 そう思い顔を綻ばせつつ、残りのノートを拾って渡す。
 重いだろうから半分持って行こうかと思ったが、拒絶された。
 フラフラと覚束ない足取りで歩いて行く後ろ姿を見送ってから、僕は音楽室に向かった。

 完璧な転校生と違って、僕には……ピアノしか無いから。
 しかし、そのピアノも、妹に抜かれつつある。
 最近瑞樹がピアノをまた弾き始めた。
 彼女の演奏は好きだが、兄として、抜かれるわけにはいかない。
 とにかく時間がある時は練習したかったので、先生に頼み込んで、昼休憩だけ鍵を貸してもらったのだ。

 鍵を開けて中に入ると、奥の壁にある音楽家達の肖像画が僕を見ていた。
 小学生の頃だと、よく七不思議とかあったっけ。
 そんな風に不思議に思いながら扉を閉めて、早速ピアノの前に座る。
 指をポキポキと鳴らして、ひとまず子犬のワルツを弾いてみた。

 最近、瑞樹や杏奈ちゃんが家でたくさん弾いているから、頭の中をいつも流れているのだ。
 最早、一種の洗脳だ。
 とはいえ、この曲は僕も好きなので、嫌な気はしない。
 軽やかな、明るいメロディ。
 指が鍵盤の上で跳ねて、心地よいメロディが響く。
 自分で奏でているにも関わらず、綺麗なメロディに酔いしれていた時、失敗した。

 そういえば、ここ、よく杏奈ちゃんも間違えていたな。
 素人と同じ所でミスをするとは……僕もまだまだだな。
 そう思っていた時、拍手が聴こえた。

「……!」

 咄嗟に顔を上げると、そこには……転校生の、芹谷君が立っていた。

Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.58 )
日時: 2017/10/05 20:34
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第10話「転校生は危険な香り?セフトと紫音の急接近!」3

「芹谷君……」

 つい名前を呼ぶと、芹谷君はハッとした表情をしてから、恥ずかしそうにヘラッと笑った。

「あはは、ごめんね。邪魔するつもりは無かったんだけど、つい……」
「わざわざ音楽室まで、何の用?」

 僕の言葉に、芹谷君は「ん〜」と言って顎に手を当ててしばし熟考。
 やがて、ニマニマと笑いながら、「ちょっと散歩」と言った。

「散歩?」
「そ。ホラ、転校してきたばかりだし、この校舎のことをもっと知っておこうと思って」

 そう言って肩を竦める芹谷君。
 外人のようなその動作も、顔の良い彼がすると、なんだか様になっている気がした。

「校舎案内……人気者の君なら、声掛けてくれる人も多かったんじゃないの?」
「人気者だなんて……まぁ、声は掛けられたよ。全部断ったけど」

 なんで、と聞こうとした時、彼は続けた。

「自分の目で、自分の足で……自分の感性を使って見たかったんだ。その方が、新しい発見があると思って」

 そう言って僕の隣まで歩いてきて、椅子に腰かける。
 おもむろに右手を伸ばし、一つの鍵盤を指で押した。
 トーン……と、綺麗な音がする。

「ホラ、実際にこうして、君の素晴らしい演奏という発見が出来た」
「……そう」

 苦笑混じりにそう言って見ると、芹谷君は頷き、微笑んだ。
 それから両手の指を鍵盤の上に置き、弾き始める。
 一瞬、ピアノを弾けるのか、と驚いたが、それは何の曲でもなかった。
 ただ、滅茶苦茶にピアノが音を鳴らしているにすぎない。
 醜い不協和音が、音楽室にひたすら響く。

「……見てのとおり、僕はピアノは弾けないんだ」

 そう言って笑う芹谷君。
 よく分からない状況に面食らっていると、彼はクスクスと笑った。

「だからね、俺は君が羨ましいよ。あんなに真っ直ぐで、素敵な演奏が出来る君が」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 つい口から、そんな言葉が出た。
 いや、つい出た割には、強がっていたかもしれない。
 正直言うと、物凄く嬉しい。
 完璧だと思っている芹谷君から、小さい頃から頑張ってきたピアノを褒めてもらえたのだから。
 しかし、なんとかにやけるのを堪えながら、僕は言葉の続きを待つ。

「ははっ……それに、折角隣の席なんだし、俺はもっと前原君と仲良くなりたいな」
「僕と?」
「うん。ダメかな?」

 そう言って顔を覗き込んでくる芹谷君。
 僕はそれに、咄嗟に首を横に振った。

「ダメなわけないじゃないか。勿論、良いよ」
「やった!」

 拳をつくり、嬉しそうに笑う芹谷君。
 ……へぇ、こんな風に笑うのか。
 普段、他の生徒に向ける笑顔とは少し違って見えて、なんだか新鮮だった。

「あ、そうだ……仲良くなったばかりで何だけど……」

 芹谷君の言葉に、僕は首を傾げた。
 すると、彼は少し視線を逸らしてから、僕を見て、一瞬、陰鬱な笑みを浮かべた。
 しかし、すぐに普通の笑顔になり、言った。

「今日、前原君の家に遊びに行っても良い?」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。