二次創作小説(新・総合)
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- 【オリキュア】メモリアルプリキュア!
- 日時: 2017/08/01 23:00
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
初めましてかこんにちは!愛です!
本日からはメモリアルプリキュアというオリキュア小説を書きたいと思っています。
基本テンションとノリに任せて書くのでグダグダすると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それでは、よろしくお願いします。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.89 )
- 日時: 2017/11/13 22:01
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第14話「メモリアの秘密!?プリキュア新たなる力!」5
「今をかがや……」
名乗ろうとした瞬間、目の前を巨大な爪が舞う。
直後、名乗りをしようとしたアデッソの体が吹き飛び、地面を弾んで飛んでいく。
「アデッソッ!」
咄嗟に叫ぶ。
アデッソはそれに立ち上がろうとするが、何度も立ち上がろうとしては地面に倒れ込むのを繰り返す。
それを見ていた時、寒気がするほどの殺気が私を射抜いた。
あぁ……私、馬鹿だ……。
こんな化け物相手に……隙を見せるから……。
「パーストッ!」
悲鳴にも似たアデッソの甲高い声。
しかし、それを認識する頃には私の体はすでに吹き飛び、高速で景色は流れていく。
何か、柔らかいものにぶつかった。アデッソだ。
アデッソを巻き込みながら私は吹き飛び、地面に倒れ伏した状態で停止した。
顔を上げると、そこには荒い呼吸を繰り返しながら佇むデロベの姿があった。
焦点の合わない虚ろな目に、私とアデッソを映す。
地面に付きそうなほど長く鋭い爪は、彼が呼吸をして肩を動かす度に、アスファルトを削る。
なんて力……でも、なぜだろう……。
「デロベ……今一番、苦しそう……」
アデッソの言葉に私は頷き、真っ直ぐデロベを見る。
ただ二回、私達を吹き飛ばすために腕を振るっただけ。
それだけで、デロベの呼吸は荒くなり、目つきもおかしい。
「まさか……あの姿であるだけで、生命力を引きずってるんじゃ……」
ついそう声にすると、アデッソは驚いたように目を見開く。
でも、そうとしか思えない。
このまま時間を待てば、勝手に自滅するかもしれない。
しかし……―――
「グルァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
―――……そうなる前に勝負をつけようとするに決まっている。
突進してきたデロベを慌てて避け、私達はデロベが突っ込んだ方向を睨んだ。
すると、デロベはすぐにこちらに振り向き、またもや突進してくる。
長い爪が、太い剛腕が、私の体を捕らえる。
「パーストッ!」
アデッソの声が聴こえる。
しかし、それに返事をする隙など無く、私の体は吹き飛ばされ、建物に背中をぶつけた。
霞む視界の中、強引に顔を上げると……そこには、デロベに体を掴まれているアデッソの姿があった。
「ッ……! アデッソぉぉぉぉぉッ!」
私は叫び、空色の針を取り出し、ラブメモリーウォッチにはめ込む。
強い光を放ち高速で回転し、やがて、空色の短剣を出す。
すぐにそれを握り、私はデロベに切りかかろうとした。
しかし、そこでデロベがアデッソの首筋に長い爪を突き付けているのを見て、私は止めた。
「パースト……!」
震えたアデッソの声。
でも、どうすれば良いんだ。
このままでは攻撃できないし、下手に動いたらアデッソが……!
アデッソはそれに気づいたのか、悲しそうに目を伏せた。
「……私、パーストの力になりたいのに……弱いから……」
「アデッソ……アンタ何言って……」
「私なんか……いなければ良かったのに……!」
「馬鹿なこと言うなッ!」
このままではまずい。
私には、リコルンやロブメモワールのようにその人のメモリアを見る能力なんて無い。
でも、分かる。このままではアデッソのメモリアが濁ってしまう。
アデッソのメモリアは、全てを終わらせる切り札と言っても過言ではない。
だから……ここで濁らせるわけにはいかないッ!
……違う。違うだろ……?
何勘違いしているんだ……。
私が心配すべきところは、そんなことじゃない。
メモリアのことなんて、リコルンとかに任せていればいい。
私が支えられることは、そんな小難しいことじゃない。
私に出来ることは……ただ……―――
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.90 )
- 日時: 2017/11/14 22:43
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第14話「メモリアの秘密!?プリキュア新たなる力!」6
<杏奈視点>
なんで……こんなことになったんだろう……。
私はただ、私の故郷で、瑞樹ちゃんや歩美ちゃん達が仲良くなれたら良いなって……思っただけ。
大好きな皆と笑い合えたら、それだけで幸せだから。
でも、笑い合うどころか、私達と一緒にいたことで歩美ちゃん達はメモリアを奪われた。
私が弱いから、デロベに掴まり、人質にされている。
そのせいで、パーストは攻撃出来ないでいる。
このままじゃ、二人ともやられてしまう……。
どうすればいい……どう、すれば……。
「……アデッソ」
その時、パーストの声がした。
振り向くと、そこには、真剣な眼差しで私を見るパーストの姿があった。
「ぱぁ……すと……?」
「アデッソ……ううん、杏……アンタは、どうしたいの?」
「へ……?」
つい聞き返す。
すると、パーストは優しく笑い、続けた。
「私や、あゆみん達のことは置いといてさ。杏は……何がしたいの?」
「私は……」
声が掠れる。
私がしたいこと……そんなもの、最初から決まっている。
「私はただ……皆と笑い合いたい。皆と……ごく普通の日常が送りたいッ!」
そう言った瞬間、私の中で何かが弾け、目の前に今までの思い出が広がった。
楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと。
全部が全部、大事な記憶だった。
平凡な、どこにでもあるような記憶。
それがどこか……温かい。
そして、私が叫んだ直後から、やけに目の前が明るい。
見ると、ラブメモリーウォッチが激しい光を放っているのが分かる。
私はなんとか腕をデロベの爪の隙間から出し、震える腕でラブメモリーウォッチを構える。
目の前が朦朧とする。視界が霞む。しかし、ラブメモリーウォッチの光が、やけに明るく目の前を照らす。
喉が掠れ、自分の呼吸が耳に付く。鼓動の音が脳に響く。
しかし、なんとかラブメモリーウォッチを構え……桃色の針をはめ込んだ。
次の瞬間、さらにラブメモリーウォッチの光が強くなる。
目の前が真っ白に染まり、やがて……アデッソソードが飛び出す。
私はすぐにアデッソソードを握り締め、デロベの腕に突き刺した。
「ガァァアッ!」
デロベはすぐに私から腕を離した。
フラつきながら地面に着地する私に、パーストが駆け寄ってくる。
私は、それにアデッソソードを握り直しながら、口を開いた。
「パースト……私、デロベを倒したい。それで、ロブメモワールも倒して……ごく普通の生活をしたい」
私の言葉に、眩しそうに目を細めていたパーストは表情を緩めた。
そして、手に持っていたパーストソードを私の胸の前に突き出してくる。
「それでこそ杏。……私もだよ」
「瑞樹ちゃん……!」
私の言葉に、パーストはニヒッと笑う。
そして、腕を押さえるデロベを見て「私もだよ」と言った。
「私も……あんな奴等さっさと倒して、杏や皆と一緒に笑い合いたい」
「瑞樹ちゃん……」
私達は顔を見合わせ……同時に笑った。
そして、手を繋ぐ。
すると、まるで共鳴するかのようにパーストのラブメモリーウォッチも光り出す。
「これは……」
「なんだろう、これ……」
私達が不思議そうに顔を見合わせていると、突然、アデッソソードとパーストソードも光り出す。
どうすれば良いのだろう……そう思っていた時、脳裏に、今から何をすればいいのかが浮かんだ。
「とにかくやるしかないよ!」
「そう、だね……うん。やってみよう!」
頷き合い、私達はすぐに二本の剣を構えた。
そして、それぞれの柄の部分をぶつけ合う。
次の瞬間、剣が輝き始める。
私達はすぐにそれぞれラブメモリーウォッチから針を外し、もう一方の剣の柄にはめ込み、指で弾く。
すると、針は高速で回転し、輝きを増す。
「今を輝け!」
「過去を束ねろ!」
「「全てを司る思い出よ! 記憶を刻み、未来を照らせ!」」
そう叫んでから、ぶつけ合った柄の部分を中心に円を描くように剣を上に向かって回転し、時間で言うところの十二時の位置で重ねる。
すると、剣が輝きを増していく。私達は背中合わせになる形で剣を構え、もう一方の手を強く握り合う。
「「プリキュアッ! メモーリアイルミネイトッ!」
そう叫びながら、剣を前に向かって倒した。
すると、剣の光が一層強くなり、デロベに向かって極太の輝きが射出された。
その光は瞬く間にデロベを包み込み、静かに消していく。
私達はすぐに剣を交差するように構え、それぞれ互いの剣の針の回転を止めた。
すると、デロベの体は光の屑となり、消えて行った。
「倒した……の……?」
「ん……多分」
パーストの言葉に、私は足から力が抜けるような感覚に襲われた。
その場にへたり込み、ぼんやりと虚空を眺める。
すると、パーストも隣に座った。
「……お疲れ様、杏」
「ありがとう……瑞樹ちゃん」
私達はそう言って笑い合い、拳をコツン、とぶつけ合った。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.91 )
- 日時: 2017/11/16 22:19
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第14話「メモリアの秘密!?プリキュア新たなる力!」7
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<セフト視点>
メモリアの入れ物中に入っていく光の粉を見て、俺は息をつく。
デロベの奴……やられたか……。
しかも、よりによってプリキュアをさらに成長させて死ぬなんて……使えない奴だ。
いや、まだ良いか。こうしてメモリアの量を増幅してくれたのだから。
しかし、プリキュアの戦力を増やしたのは痛手だ。
プラスマイナスで考えれば、マイナスと言って良いだろう。
さて……どうしよう。
ラオベンとシッパーレを、デロベのようにメモリアを還元させてもいいだろう。
しかし、それでもボウキャーク様のメモリアは溜まらない。
プリキュアの目が光っている以上、そう簡単に人の記憶世界を破壊し尽くすことは出来ないだろう。
……一応、手段は無くもない。
ただ、あの方法を使うには期間がかかる。
おまけに、あの時と違って今のプリキュアは二人だ。
あの頃よりも時間と手間がかかるだろう。
だが、ボウキャーク様の直属の部下は、何も俺一人じゃない。
今奴等は、前の異世界支配の際にその世界にいたプリキュアに重傷を負わされたせいで眠っている。
時間はかかるだろうが……いつかは目を覚ます。
奴等がいれば、せめて今以上に効率よくメモリアを集めてくれるハズだ。
だから、今俺に出来ることは、奴等が目を覚ますタイミングを見計らいつつ、残りの幹部二人を抹殺。
そして、紫音を使いプリキュアの弱点を探る。
……楽な仕事だ。
---
<瑞樹視点>
「それじゃあ、今回は色々ありがとう! またね!」
杏がそう言って手を振ると、あゆみん達も笑顔で手を振り返してくる。
結局こうっぺは杏との距離を縮めることは出来ず。
まぁ、うん。次があるさ。
「私も、今回は色々お世話になった。また遊びに来たいな」
「瑞樹も杏奈も、いつでも来なよ! 待ってるよ!」
そう言って、きょうちゃんが自分の胸を強く叩く。
ホント、優しい人達ばかりだ。
杏の家族も皆良い人ばかりみたいだし……こういう環境から、純粋なメモリアとやらは生まれたのかもしれない。
もうそろそろ電車が来る時間になったので、私達は券売機で切符を買い、改札口を抜けてホームに向かう。
「瑞樹ちゃんっ」
ホームに下りる階段を下りていた時、杏が声を掛けてくる。
私がそれに「うん?」と返事をすると、杏は嬉しそうにはにかんだ。
「また来ようね」
「……うん」
私は、そう返事をして、笑い返す。
すると、杏は「えへへっ」と笑って、トントンと軽いステップで階段を下りて行く。
……大好きだよ、杏。
その、純粋な笑顔が。
穢れを知らない、その瞳が。
だから……守りたい。
貴方のその純粋なメモリアとやらを。
「瑞樹ちゃん、何ボーッとしてるの?」
その時、杏にそう声を掛けられ、私は我に返る。
いつの間にか立ち止まってしまったようだ。
杏の顔を見ると、彼女は私の顔を見て明るく笑った。
「早くいないと、電車来るよ? 行こ?」
そう言って、私の手を引く杏。
温かい優しさ。
熱くなる胸を押さえながら、私は「うんっ」と頷き、鞄を肩に掛け直した。
そして、速足で杏を追いかけた。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.92 )
- 日時: 2017/11/30 21:42
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第15話「母帰宅!? 奏でましょう感謝のメロディ!」1
<瑞樹視点>
「じゃあ、今日の練習はここまで」
私の言葉に、杏は「んんッ」と声を漏らしながら伸びをした。
それに私は苦笑しながら「お疲れ様」と労う。
「大分上達してきたじゃん。素人でこの上達速度は中々だと思うよ」
「本当?」
「うんっ。もしかしたら、杏の隠れた才能だったりして?」
「えへへっ……瑞樹ちゃんに褒められるとなんか照れるなぁ」
はにかみながら後頭部の辺りを掻く杏に苦笑しつつ、私は楽譜を片付ける。
杏はそんな私を微笑みながら見ていた。
少しして、「あっ」と彼女は声を漏らした。
「ん? どしたの?」
「え、あぁいや……そういえば、今日は母の日だなって」
杏の言葉に、私は数秒間を空けてから「あぁ」と間抜けな声で返答した。
今日は5月14日……母の日だ。
私の返答に、杏は少し苦笑しつつも、続ける。
「私は今日帰りにカーネーションを買って行こうと思ってるんだけど、瑞樹ちゃんはどうするのかなって」
「私……?」
「うんっ。もし瑞樹ちゃんも何か買うつもりなら、一緒にどうかなって」
結んだ髪先を指で弄りながら、そう言って杏ははにかむ。
母の日に、お母さんに何か……か……。
「……私は良いや」
「良いやって……え?」
「何もあげないの。……私のお母さん、海外で働いてるんだ」
私の言葉に、杏は大きく目を見開いた。
何か言おうと口をパクパクさせたり、オロオロと黒目を彷徨わせたりしていた。
「か、かかか海外!?」
「うん。海外」
ようやく絞り出した声に、私は肯定を示す。
すると、杏はポカンと口を開けて固まった。
あまりにも間抜けな表情だったので、私は無言で口を閉じさせた。
「え、えっと、具体的には何をしているの?」
相変わらず動揺を隠さぬ声色で聞いてくる杏。
それに私は苦笑してしまう。
「私のお母さんの話も良いけど、先に落ち着いたら?」
「う、うん……!」
私の言葉に、杏は頷いて胸に手を当てて深呼吸をする。
やがて落ち着くと、上目遣いで私を見た。
「それで、瑞樹ちゃんのママの話って……」
「あぁ、そうだったね。私のお母さんは……」
説明しようとした時、玄関から鍵を開ける音がした。
それに私達は動きを止め、耳を澄ました。
「……誰……?」
呟きつつ私は立ち上がり、リビングの扉に近づく。
ゆっくり開けて玄関の方に視線を向けると、扉を開けて入って来る人影があった。
それを見た瞬間、私は息を呑んだ。
「瑞樹ちゃん?」
背後から声がする。
肩を掴まれる感触から、杏が私の肩を掴んで、後ろから同じく玄関の方を見ていることを知る。
やがて入って来た人影を視認した時、杏が息を呑んだのが分かった。
「なッ……あの人って……前原律子さん!?」
「あら? 瑞樹ただいま。その子はお友達?」
「うん……おかえり、お母さん」
「えッ!?」
驚いたように声をあげる杏に、私はため息をついた。
さて……どこから説明しようか。
- Re: 【オリキュア】メモリアルプリキュア! ( No.93 )
- 日時: 2017/12/01 21:02
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
第15話「母帰宅!? 奏でましょう感謝のメロディ!」2
「まさか、瑞樹ちゃんのママがあの有名ピアニストである前原律子さんだなんて……」
「よくある苗字だからね~。あぁ、あと、普通におばさんとかで良いのよ? 瑞樹とは仲良くしてもらってるみたいだし」
「い、いえいえそんな! 律子さんをおばさん呼ばわりだなんて!」
お母さんと杏の会話を聞きながら、私は紅茶を啜る。
まぁ、確かに不意打ちではあったかもしれない。
お母さんが世界的に有名なピアニストであることは知っていた。
だが、まさか杏がここまで動揺するとは思っていなかったので、黙っていたのだ。
何より……まさか二人が出くわすなんて、思わなかった。
「杏ってば動揺しすぎ……ていうか、帰って来るなら一言くれれば良いのに」
「フフッ。折角帰るんだし、驚かせようと思ってね」
悪戯っぽく笑いながら言うお母さんの言葉に、私は苦笑混じりにため息をついた。
年齢は三十代後半だが、それを感じさせない童顔。
多分、この顔も杏が、前原律子を私の母だと思わなかった理由なのかもしれない。
無駄に若々しい顔立ちのせいで、二十代くらいに見えるから。
「そういうサプライズ、別にいらないから。……杏、紅茶がザブンザブンしてるけど」
「だ、だだだだだって……」
紅茶が入ったティーカップを片手に動揺を露わにする杏。
それを見て私はため息をつき、彼女の体の震えのせいでテーブルに零れた紅茶を拭く。
あと、これ以上動揺させてもいけないので、静かにテーブルにティーカップを置かせた。
「え、だって、律子さんって……す、すごく有名人じゃないですか……」
「まぁ、よくテレビとかに出たりしてるね」
「だ、だから、そんな……うぅ……芸能人に会うの初めてじゃないのに……」
そう言って首を垂れる杏の言葉に、私の頭の中に生意気モデルの顔が浮かんだ。
……そういえば、アイツも芸能人だっけ。
とはいえ、所詮有名な雑誌に出ているだけのモデルだ。
お母さんは、雑誌はもちろん、テレビでもよくインタビューを受けていたりする。
だから、杏が生意気モデルの時より緊張するのも無理はない。
一人で納得していた時、お母さんが徐に立ち上がり、リビングに置いているピアノに向かって歩き出した。
「……? お母さん?」
私の問いかけに応えず、お母さんはピアノの前に座った。
それから軽く伸びをして、鍵盤に指を乗せる。
そして奏でるは……パガニーニによる超絶技巧練習曲の、『鐘』。
指が高速で動き、音を刻み、奏でていく。
それに私達は言葉を失い、その音に耳を傾けていた。
「……ん。やっぱ、久々に実家のピアノは良いね」
そう言って鍵盤から手を離したお母さんは、汗を拭うような素振りを見せた。
それを見て、私はつい苦笑を零した。
「お母さん、外でずっとピアノ弾いてるのに、わざわざ家でも弾かなくても……」
「家で、娘に見守られながらピアノを弾くのはまた、一味違うのですよ」
ニマニマと笑いながら言うお母さんに呆れつつ、私はチラッと隣に立っている杏の顔を伺った。
彼女は……両目から涙を流しながら、震えていた。
「えっと……杏……?」
私が試しに顔の前で手を振ってみるが、反応が無い。
これは重症だ。頭を冷やしてあげなければ。
氷でも取りに行こうかと考えていた時、「ぅぁ……」と小さく声が零れるのが聴こえた。
「杏?」
「すごく……綺麗だった……私、初めて、律子さんの演奏生で聴いた……」
「ここまで喜んでもらえるとは……」
杏のあまりの過剰反応に、律子さんは若干引いた様子でそう呟いた。
私はそれに苦笑しつつ、紅茶を啜った。
「いや、ホント凄かったです……瑞樹ちゃんのピアノが上手なのって、お母さん譲りなんだねぇ……」
紅茶が気管に入った。
「ゲホッ!?」
「あら? 杏ちゃん、だっけ……瑞樹のピアノ、聴いたことあるの?」
「あ、ハイッ! ていうか、その……少し、ピアノを教えてもらっていて……」
恥ずかしそうに杏が言った言葉に、お母さんはにやけ顔を向けてくる。
つい目を逸らすと「なんだよ~」と抗議してきた。
「瑞樹、確かピアノ止めたって聞いてたけど……へぇ。ピアノ再開したの?」
「ま、まぁ……趣味の範囲だけど」
「でも杏ちゃんに教えてあげたりしてるんだ? 人に教える立場になるとは、見直したぞ~」
笑いながらそう言うお母さんに、私は何も答えられない。
するとお母さんは苦笑して、鍵盤を指で撫でた。
「じゃあさ、久しぶりにピアノ……」
「……やめておく」
私の言葉に、お母さんは「なんで!?」と抗議してきた。
しかし、上手く理由が答えられなくて、私は「別になんでもいいでしょ!?」と反論してしまった。
するとお母さんは口を噤み、目を伏せた。
「み、瑞樹ちゃん……流石に言いすぎなんじゃ……」
杏の言葉に、私は「でも……」と呟く。
その時視界の隅に、ピアノの前で様子を見ている母の姿があった。
「……杏には関係ないよ」
それだけ言って、私はリビングを後にした。
胸に、大きなトゲが刺さっているような感覚が残っていた。
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