二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

綴られし日々-作者とキャラの日常-
日時: 2022/11/28 20:05
名前: 柊 (ID: y98v9vkI)

ついに手を出してしまいました、日常系…!!

注意事項
・クロスオーバー
・クロスオーバーCPあり
・キャラ×オリキャラ、オリキャラ×キャラもあるかもしれない
・当方独自設定あり。矛盾することもあるかもしれない
・キャラ崩壊あり
・キャラの裸族化、不憫化などもあり
・作者が夢女子でもあるので夢っぽい要素(キャラ←←作者)が出てくる。テンションがおかしくなったら大変なことになるので注意
・時々シリアスもあり
・時々キャラ掴めてないかもしれない
・荒らしなどはご遠慮ください。

※スマブラに関して
原作をプレイしていないキャラクターが多々いるためキャラの設定が公式設定と矛盾する可能性大(一応調べます…)

こんな感じの注意事項で『大丈夫だ、問題ない』な方はどうぞお楽しみください!
そうでない方は注意してくださいませ。

タグ
スマブラ、刀剣乱舞、艦これ、アズールレーン、フラワーナイトガール、戦艦少女R、文豪とアルケミスト、しんけん!!、夢王国と眠れる100人の王子様、茜さすセカイでキミと詠う、オトメ勇者、フードファンタジー 、Fate/Grand Order、ポケットモンスター、ボーカロイド、Identity_V、ダンガンロンパシリーズ、School Days

目次
『始まりの158』 >>1-3
『魔法少女騒動〜少女とは言ってない〜』 >>6-9
『小さなお宿-前編-』 >>15-20
『小さなお宿-後編-』 >>21-28
『甘くて美味しい果実』 >>29-35
『うちの長曽祢さんがこんなにも可愛い!!〜ただの主張だ気にするな〜』 >>36-40
『虎と春』 >>46-57
『たまにはきちんと歓迎会を!』>>58-63
『信頼した結果-1-』 >>69-75
『信頼した結果-2-』 >>79-85
『信頼した結果-3-』 >>86-92
一振り目と二振り目の呼び方一覧 >>93
『桜よ、彼女を攫わないで』 >>94-96
『バグにも種類がありまして!?』 >>97-101
『恋に落ちないなんてできなくて』 >>105-111
『練習、裸族講座!』 >>112-116
『悪魔の城は崩れない』 >>121-126
『悪魔の城は崩れ始める』 >>136-140 ※140はおまけになります
『悪魔の城は崩壊す』 >>148-155
∟闇の御子の情報 >>156
『VS闇の御子』 >>160-163
∟厄除けの宝玉の情報 >>164
『赤ずきん☆ラグナス』 >>167-171 ※天悪さんとのコラボ!
『赤い花騎士と銀の騎士』 >>178-179
『私が教えるよ』 >>182-184
『コピペSS』 >>185-186
『癒しとカオスと歓迎会』 >>190-197
『六月の花嫁たち』 >>202-209
『七夕は奇跡に染まり』 >>214-217 ※天悪さんとのコラボ!
『お嬢様()な交流会』 >>221-224 ※天悪さん、琴葉姫さんとのコラボ!
『緊急特番()!刀剣乱舞の大盤振る舞い』 >>229-233
『忍び寄るは光の信者』 >>239-244
『南の島、砂浜騒動!?』 >>248-252
『子どもビーチは危険がいっぱい!〜王様は保護者〜』 >>259-263
『私たちは、きっと。』 >>270-274
『解き明かせ、真実! 1』 >>281-286 ※286はおまけです
『解き明かせ、真実! 2』 >>291-297
『解き明かせ、真実! 3』 >>300-304
『VS神殺しの蟲』 >>307-313
∟神殺しの蟲情報 >>314
『出会いは夢の中にて(第一印象は考えないものとする)』 >>317-321
『ちびノブのお仕事!』 >>324-328
『【柊「空を見上げて『バカな…早すぎる…』ってつぶやいたら」】 >>334-335
『新年は新ジャンルと共に!』 >>340-346
『甘い束縛』 >>352-353
『メンヘラマネジメント』 >>356-358
『にっかりファンタジーUDON』 >>362
『コピペSS、おかわり!』 >>363-365
『手を振り解かれ、手を取って。』 >>369-374
『それぞれの決意と忠義』 >>378-383
『扉問答』 >>390-394
∟ねこじぞーの情報 >>395
『水無月祭の出会い』 >>401-403
『コピペSS、もういっちょ!』 >>408-410
『Real or Dream』 >>411-417
『幼児化☆パニック!』 >>422-428
『似てない二人』 >>434-436
『凄惨なる宴』 >>441-446
『雪の別離わかれ>>449-452
『年末だ!コピペSS!』 >>453-455
『新たな邂逅』 >>458-462
『決戦前〜医師の罪〜』 >>465-468
『決戦前〜泥棒の偽善〜』 >>469-471
『決戦前〜弁護士の覚悟〜』 >>474-477
※477はおまけです
『決戦前〜庭師の想い〜』 >>480-483
『エイプリルフールで嘘予告SS』 >>486
『決戦前〜学生組の会議!〜』 >>487-489
『レオ・ベイカー奪還戦・1』 >>497-500
『レオ・ベイカー奪還戦・2』 >>504-507
『レオ・ベイカー奪還戦・終』 >>511-514
『やっとできるね! 歓迎会』 >>517-522
『異世界にて、恋に出会う』 >>525-527
『コピペSS、いつつめ!』 >>530-532
『オリキャラご紹介その1』 >>535
『いっそ『大嫌いだ』と思えたら』 >>536-543
※543はおまけです
『困りごとはきっかけ』 >>546-548
『本気になったのはどちらだったのか』 >>549-550

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.379 )
日時: 2021/04/15 22:01
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: Dgyo6F5o)

「ふぅ……」
 ドクドクと早く鳴り続ける心臓。今のところ、一回も気付かれずに矢を当てることができている。視線の先でどこだ、出てこい、卑怯者、と大声を出す弟切草に少しだけ体を震わせるものの、首を振って静かにまた矢を構える。
 狙いを定め、放つ。矢が空を切る音が聞こえ、再び弟切草に当たった。
「(ナワーブ大丈夫かな)」
 彼が対峙しているのはきっと栗梅だ。彼女は何も装備していなかったところを見ると、術をメインに使うのかもしれない。
 再び弟切草に目を向ける。……ある意味では夢見がちな性格だと言うのが信じ難い。今回の試合を挑んできた理由はおそらく彼が『戦闘系審神者』を目指していることからだ。
 『戦闘系審神者』とは、二次創作などで刀剣たちに頼らない、頼れない、あるいは趣味で出陣をする審神者たちを指す。しかも大体、人間であるにも関わらず時間遡行軍相手に無双しているイメージは強い。知らんけど。
 が、少なからずこちらサイドでは審神者が出陣するのは禁じられている。審神者自身が健康であっても、審神者にくっ付いたウイルス等が出陣先で蔓延すれば意図せず歴史改変をしかねないためだ。そうなれば審神者は記憶を消され、二度と審神者になることはできず、気付かれないようにではあるが亡くなるまで監視が着くことになる。
 それ以前に、時間遡行軍は刀剣男士だけしか倒せない。一度だけ老年の審神者が審神者会議を襲撃してきた時間遡行軍を倒したと言う報告もあるが……それだって相手は短刀の丙で、一体がやっとなのだ。
 だから禁じられているはずなのにごく稀にそれに憧れ、とことんまで自分を虐め抜く審神者が出てくる。弟切草はその一人。
 が、相手が遡行軍や刀剣男士ならばどうとでもなるが、柊は一応普通の人間。柊にとっては体を鍛えている弟切草の相手は危険だ。だからこうしてナワーブの作戦通りに隠れながら相手を射ている。
 その時。けたたましい音が鳴り、そちらに目を向けた。
『審神者、栗梅脱落』
「……!!」
 ナワーブがやったのだ。思わずガッツポーズをしたくなるのを堪え、気を引き締める。ここで決着が付かずともダメージは出来うる限り与えておきたい。
 そう考えて、弟切草の方を振り返り……。
「みぃつけた」
「!!」
 飛び退こうとするものの、頭を掴まれて宙に持ち上げられる。
「散々こそこそやりやがって……ここからは俺の番だ……」
 微かに見えた弟切草を、黒いモヤが取り巻いていた。



















 時間は遡る。弟切草は体の調子を確かめていた。調子はかなり良い。だが……どうにも嫌な予感が拭えない。
 ここで勝たなければ、『自分が罪人として裁かれる』。そんな気がしていた。当たっているのだが。
「どうするか……」
「すみません、弟切草様」
「!?」
 声のした方を振り向けば、緑の髪の優男が微笑みながら立っていた。一体いつの間に、と問う間もなく、彼は胸に手を当てて口を開いた。
「初めまして。私は『ハルフォード』。この度、今回の試合のことを聞いて、貴方様に会いに参りました」
「俺に……?」
「ええ。……今回の件、私も心を痛めております。そこで、何か貴方様のお役に立てればと……こちらをどうぞ」
 渡されたのは一つの錠剤。見た目は何もおかしいところはない。
「これは何だ?」
「そちらは一時的に身体能力を向上させる薬です。とは言え、大きな副作用を抑える為に効き目は長く続きませんが、今回の試合のみであるならば役立てていただけるかと。見た目もそのようにごく普通の錠剤ですので、常服している薬だと言えば怪しまれることもありません。
どうぞ、お役立てください。
私は、貴方様の味方です」
 にこりと微笑むハルフォード。その微笑み、そして自分の味方だという発言に彼を信用した弟切草は礼を言って早速その薬を飲もうとする。
 しかし、それはハルフォードに止められてしまう。
「今は飲んではいけません。先ほども申しましたように、効き目は長く続きません。
ですので、ここぞと言うときに人の目を避けてお飲みください。そうすればたちまち貴方様が有利な立場となるでしょう」
「へえ……。すまないなハルフォードさん」
「いいえ。健闘をお祈りしていますよ、弟切草様」
 弟切草がその薬を懐にしまい、先程とは打って変わって軽い足取りで歩いていく。
 その後ろでハルフォードが冷たい笑みを浮かべていることにも気付かずに。
 薬を誰にも気付かれずに持ち込み、試合に臨んだ彼は柊に遠距離から矢で攻撃され、苛立っていた時にあのブザーが鳴った。……何故かまでは分からない。だが、『今しかない』と思ったのだ。
 弟切草は懐から薬を取り出し、それを一気に飲み干した。瞬間、ドクンと一際大きく脈打ったかと思えば体の底から力が湧いてくるのが分かった。ありとあらゆる力が研ぎ澄まされ、強化されていく。だからこそ、栗梅脱落の報を聞き、安堵していた柊を見つけられた。
 一気に近付く。やっと気付いた頃にはもう遅い。顔を掴み、持ち上げる。暴れているが大したことはない。無防備な腹に拳を突き立てる。
「っげほ!! がぁっ」
 そのまま地面に頭を叩きつけ、馬乗りになって拳を振り下ろし続けた。
 何故か短刀、秋田藤四郎は顕現されない。見捨てられたか。
 徐々に頭の中を快感が巡る。殴る。殴る。気持ちがいい。血が溢れていく。気持ちいい。気持ちいい。気持チいい。これは正義のおこな気持チガいイ。もっと、もっともっと殴りタい。嬲リたい。山姥切国広のタめ気持ちがイい。彼のためにころ気持ちいい。気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちイいキもちイいきもちいいキもチいい気モチいい気持ちいい気持ちイいいい気持ちい気持ち気持ち気持きもちききききもちもいきききききいいいいいいいいいちちちいもちいきもちがががががいいいいもちきもももももももももやまきもちいんばぎきもちいいいいいいいいくきもにひろいいちちちちちのためきもちいいにころ気もちいいいいいいいすきもももももちいいいいいいいいいい

 弟切草は気付くはずもない。柊が咄嗟に庇うように、短刀を抱きしめたことを。短刀がカタカタと音を立てていることも、気付くはずがなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.380 )
日時: 2021/04/15 22:12
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: Dgyo6F5o)

「どこだ……? どこにいる……?」
 ナワーブは警戒を怠らずに辺りを見回していた。しかし、二人の姿は見当たらない。そろそろ栗梅が気絶している場所まで戻ってきてしまうのに、見当たらないのはおかしい。
 すると。けたたましい音が再び響いた。まさかと思い、そちらに目を向けた。
『審神者、柊脱落』
「!!」
 見つかって迎撃されたのか。だが、そう簡単に脱落しないように試合前に『レンタルスキル』で目を中心に強化しておくように言っておいたし、それを目の前で見ている。(なお事前に強化しておいたのは試合中に強化して反則だと言われないようにである。別に試合前に強化しても反則ではないので)
 だとすると予想以上に力を持っていたと言うことか、と考え、つい舌打ちをする。ここからはさらに警戒しなくてはならない。背後を取るか取られるか、だ。
「イひ、あひゃひゃ」
「?」
 突然聞こえた、明らかにおかしな笑い声に振り向く。気絶していたはずの栗梅が目を思い切り見開いてどこかを見ながらゲラゲラ笑っている姿があった。
「なんだ……?」
「ひ、ヒひ、あひゃ、アヒャひゃひャ」
 あまりの気味の悪さに思わず後ずさる。
 それとほぼ同時だった。
『……警告!! 警告!! 審神者弟切草、審神者柊への攻撃、いいえ、暴行を直ちにやめなさい!! 警告!! 警告!!』
「なっ!?」
『審神者弟切草、式への攻撃、破壊を確認。審神者弟切草、失格。よって……』
 瞬間。音声を流していたスピーカーに鋭利な枝が勢いよく突き刺さる。今ので結界も壊れたのか爆発音がして、悲鳴が聞こえてきた。
 混乱したがすぐにモニターを見る。そちらには各々の式の映像が流れてきているはず。
 ……なんだ、あれは。
 中央の開けた場所に柊と弟切草はいた。しかし柊はぐったりとしており、顔は赤く腫れ上がり、肩まで血が飛んでいる。メガネは無くなっているがあの様子では粉々になってしまっていることだろう。服も所々破け、上着なんてもはや使い物にならない。柊の手には短刀が握られているが明らかに使おうとしたのではなく、守ろうとしているのが分かった。
 弟切草は……明らかに何かしている。筋肉は試合前の何倍にも膨れ上がり、身体中に血管が浮き出ている。目は血走り、口元は三日月のように歪んでいて、もはや正気ではなさそうだ。その上、体を黒いモヤが包み込んでいた。
 助けに行かなくては。そう思って駆け出したナワーブだが、思い切り何かにぶつかった。鼻を抑えながらそれを触れば、薄らと見える程度の透明な壁が行く先を遮っている。
「い、ヒ、あひひヒひヒヒヒひ」
 振り向く。よく見ればこの壁は栗梅を中心に張られている。
「おい! この壁を消せ!!」
「あハ、あははハハはハはヒはヒひひヒは」
「聞いてるのか!? おい!!」
「アはハハハハははハヒひひひヒひヒひひひヒヒひヒヒひひヒヒヒヒひヒ」
「くそっ……!! 完全に飛んでやがる……!!」
 何があったというのか。さすがにこんな風になるまで攻撃を加えた覚えはないし、頭に攻撃した覚えも、何なら気絶した際に抱えて頭をぶつけない程度の配慮はした。
 またモニターを見る。弟切草は未だ意識を失っている柊へ近づいて行った。
『審神者全員に告グ!! こノ女は山姥切国広を冷遇し、山姥切長義を優遇し、あまつサえ山姥切長義を誘拐した女だ!!
よッて!! この女ハ、死刑とするゥウウウ!!』
「!?」
『山姥切国広を冷遇する輩はシ刑!! 死ケい!! コの女を見せしメニして、山姥切国広を冷遇すルことがどれほど罪深いか、しかと目に焼キ付けろ!!』
 そう言って弟切草は『秋田藤四郎』を奪う。鞘から抜き、その刃を柊の心臓に向けた。
 『秋田藤四郎』はそれを拒むようにカタカタと震えているものの、その程度で抵抗なんてできやしなかった。
「やめろっ」
 届かないと分かっていても、叫んだ。
 あの秋田に、主殺しをさせるなんて。させたくない。
「やめろ!」
 ゆっくりと振り上げられる。震えは大きくなっていたけれど、その刃先はブレない。
「やめろ!!」
 刃が、下される。
「やめろぉおおおおおおお!!」














 乾いた音がする。
『ぐっ……!』
『なッ……!?』
 柊が、何とかその手を止めていた。まだ痛みなどで意識も朦朧としているだろうに、主殺しをさせまいと必死に。
『っふ、ぐぅうう……!!』
『こ、の!!』
 どれだけ耐えていても、力に差はあった。徐々にその刃は心臓に近付いていく。
『っ、は、ぐっ……!! 秋、田っ、藤四郎!!』
 桜が舞う。光が溢れる。その光に思わず弟切草もたじろいだらしい。
 瞬間、ゴッと鈍い音がして、弟切草は吹っ飛ばされた。光が収まれば、そこにはいつもでは想像が付かないほど鋭い目で弟切草を睨む秋田がいた。
『っは、っはぁっ』
『主君……』
『……ごめんね、今まで呼ばなくて。ここから、任せていい?』
『……主君の御命令とあらば!! でも、後でっ、お説教、なんですからね!!』
 秋田が顕現したことに胸を撫で下ろす。だがいつまでもこうしてはいられない。こうなった以上、政府も試合の決着よりも事態の収拾させる方が先だろうから助力が期待できる。
 それでも、当事者であるナワーブがここでのんびりとなんてしていられるはずがない。どうにかこの壁を突破しないといけない。
「あの」
「……ん?」
「そこのおかた」
 再度振り向いた。そこにいたのは、今剣。が、服装は極めていない彼の戦装束だった。彼の手には、札が一枚。
「ぼくは、このかたのとうけん、今剣といいます。……このおふだをやぶってください。そうすれば、あなたはここからでられます」
「は?」
「……ぼくは、ぎりぎりまであるじさまをみまもってまいりました。もちろん、山姥切国広さんになるべくふたんのかからぬように。
ですが……あのおとこがのんだくすりのせいで、じゃきにあてられたあるじさまは、もう……もどらないとおもいます。
……どうか、かのじょのもとへいってあげてください」
「……お前……」
「ぼくは、このままあるじさまを……みちをたがえたまま、おわらせたくはありません。
どうか、かのじょのもとへ。そして、しょうりし、あるじさまを……ばっしてあげてください。そして……きょうようするわけではありませんが、よくかんがえて、ゆるせたら、ゆるしてあげてください」
「……」
「だめなあるじさまです。ひとのはなしはききませんし、そのくせじぶんのかんがえはただしいなんておもっちゃうひとです。
だから、ほんまるのほとんどのかたなはあるじさまをみはなしています。だけど……だけど、ぼくは……あるじさまが、だいすきなんです。
ぼくは、山姥切国広さんも、あるじさまも、だいすきで、だいすきでっ……」
 今剣は、とうとう涙を溢す。ナワーブは黙って聞いていた。
「ぼくは、あるじさまがだいすきなのに、きらわれるのがこわくてなにもいえませんでした。
ぼくは、山姥切国広さんもだいすきなのに、まもることができませんでした。
ほんとうは、ほんとうはぼくがいちばんわるいんです! あるじさまがいちばんはじめに『たんとう』したぼくがなにかいえば、なにかかわったかもしれないのに! きらわれても、いわなくちゃいけなかったのに……!
だから、だからせめて、あるじさまをばっしてもらえるようにおてつだいします、こんどこそ、あるじさまのために、山姥切国広さんのために、なりたいから……。
どうか、このおふだをやぶってください。これはぼくたちとうけんではやぶくことができないんです」
 今剣から、お札を渡される。少しそれを見て、ああ、と声を溢した。
「……恩に着る」
 ビリ、と破かれれば壁はパリン、と残酷なほど綺麗な音を立てて壊れた。
 一刻も早く着かなくてはならない。一応付けておいてよかったと思いながら、肘当てを使って森を駆け抜けた。
 後ろで、優しく微笑みながらがんばって、と言った今剣は、未だゲラゲラ笑い続ける栗梅にそっと寄り添った。
 ……極めなかったのは、彼女に真に忠誠を誓えなかったわけじゃない。噂で聞いた、修行先の話を聞いて。怖くなって。
 それを、つい今剣は栗梅に話してしまったのだ。けれど栗梅は怒るどころか、優しく頭を撫でてくれた。
『嫌なら、行かなくったっていいよ』
 その一言に申し訳なさもあったけれど、安心して、そして嬉しくて。あんなに態度が急変してしまった彼女を見ても嫌えなかった。憎めなかった。他の刀たちのように、見放すことができなかった。
「あるじさま、ぼくは、あなたについていきますからね」
 例え彼女がこの先元に戻らなくとも、元に戻れても、自分だけは彼女の命尽きるまで側にいるつもりだ。引き離されるなら全力で食らいついてやるまでだ。
 それが修行へ行かなかった、自分ができる忠誠の示し方。……彼女への愛情の示し方。
「だから、あんしんしてくださいね……」
 穏やかな声色で言いながら、栗梅を抱きしめ、頭を撫でる今剣。ゲラゲラ笑うのは変わらなかったが、栗梅の目からは一筋の雫が溢れていた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.381 )
日時: 2021/04/15 22:17
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: Dgyo6F5o)

「がぁああああアアアアあァぁアアアア!」
「くっ!!」
 秋田は苦戦を強いられていた。力が強すぎるのもあるが、正気は完全に無くした弟切草の攻撃は大振りであり、無意識の手加減すらなくなっている。その上、攻撃が当たっても痛みを痛みと感じられなくなったのか全く怯むことなく攻撃してくる。
 周りを見ればクレーターがいくつも出来ている。弟切草が空振り、地面に当たった攻撃の跡だ。当たれば例え高レベルの極短刀と言えど一発で重傷は免れない。柊を先に避難させて良かった。
 避けられてはいるものの、避け切れなくなった場合が厄介だと考えていると弟切草が唸り、近くの木を抱え、そのまま木を引き抜いた。
「えっ!?」
「アアアアあぁァアあ!!」
 思い切り木を投げてくる。慌てて避ければ他の木を薙ぎ倒して客席側の壁に突き刺さり、審神者たちの悲鳴が上がる。そんなこと、もはや気にしていない弟切草はまた木を引き抜き、秋田へ投げてきた。
 悲鳴、轟音、そんな中微かに聞こえたのは政府役人の避難誘導の声だった。
「秋田!!」
「ナワーブさん! ご無事で何よりです……!!」
「ああ、だがあいつ……」
「っ!!」
 またも木が投げられる。秋田は飛び退き、ナワーブはその場で咄嗟に後ろに倒れ、手を着く、ブリッジの体勢で避けていた。
「っぶねえな……!!」
 体勢を変えて二人が改めて向き合う。も言葉は何の意味も成さず、ただただ本能のまま暴れる。弟切草は今や人型をした化け物と化していた。
「力は化け物並、知能はないが痛みは感じないために怯むことはなし、か。にしてもあのモヤ……」
「はい、おそらくはダーズの物かと」
「冷遇審神者ってのは、ダーズと繋がってるのか?」
「それは……無いと思います。僕が見える限りになりますが、彼にそれらしき縁はありませんでした。……一本だけ怪しいものはありましたが、あまりに薄すぎて、僕では……」
「そうか。……どうしたもんか」
「あの、実は……あのモヤ、少しずつ薄くなっていってるんです」
「何だって?」
「その度に彼の様子もおかしくなっていってますが……もしかしたら、あのモヤが消えるまで耐え切れば」
「勝機はある、ってことか。……あの男がどうなるかは別としても」
 ナワーブの言葉に秋田は頷く。本当なら助けたい気持ちも少しはあるけれど、それ以上に怒りの方が大きかった。
 二人がゆっくり考える暇など弟切草が与えてくれるはずがない。素早い二人に対し、弟切草は木を始めとし、そこかしこに落ちている石なども投げてくる。木も相当の脅威だが、石も弾丸かと錯覚するほどの威力。枝一本ですら、槍でも投げられたのかと思うほどだ。
 ふと、ナワーブが一つ気が付く。妙に自分の方に飛んでくる石や枝が多いような……。
 そこで彼は何度か大きく秋田から離れてみる。すると投げられる物は、確かに自分の方が多い。……これは使えるかもしれない。
「秋田」
「はいっ」
「俺が囮になる」
「え!?」
「あいつ、知能がもうないと思っていたがどうやらそこそこ残っているらしい。俺の方に多く投げられている。
こっちは二人、その上、そろそろ援軍も到着するはず。そうなればどれだけ力があっても不利なのはあいつだ。
片方は刀剣男士、片方は人間。先に潰せるのは当然人間。だから先に俺を潰したがっている。それに俺がいなければ、あいつらもここまで事を大きくするつもりはなかった。見せしめのつもりがあったんだろうがその恨みもあるんじゃないのか」
「で、ですがそんな危険な役目を! それに、いつモヤが消えるかも分からないのに!」
「問題ないさ。……お前は、隙を見て動きを封じられそうな場所を攻撃してくれ。頼んだぞ」
 秋田の返事を聞く前に駆け出す。弟切草の目がこちらに向けられていることを確認して叫んだ。
「俺はこっちだ、木偶でくの棒!!」
 そう叫べば弟切草の意識は完全にこちらへ逸れた。先ほどとは比べ物にならない量の物が投げられる。
 一つずつ確実に避け、わざと近づけば拳が振り上げられる。それを、残っている肘当てを使って距離を取りつつ避けた。
 秋田も弟切草の動きを止めるべく、的確に攻撃を繰り出す。とは言え、近づけばさすがに気付かれる。だから、遠くから投石兵を使い、足を重点的に狙っていく。
 なのに弟切草の動きは止まらない。それどころか強くなっている。モヤこそ薄れているが、本当にそれで終わるのかと考えてしまう。
「ぐっ!!」
「ナワーブさん!!」
 ナワーブの左肩に石が当たる。左腕がだらりと下がり、彼は左肩を抑えた。
「く、そっ」
「ガぁアアアあアああアア!!」
 今度は枝。注意が逸れていたナワーブの右足にそれは突き刺さった。
 ナワーブが膝をつく。未だその目は弟切草を睨んでいるが、どうにかすることもできない。秋田がナワーブの前に立とうと駆け出した瞬間、ふと、耳に何か聞こえてきた。
「〜……♪」
「……? 鼻歌……?」
 軽やかな鼻歌が、微かに聞こえる。しかしここには自分たち以外誰もいない。だが聞き間違えでもない。一体何だと言うのだろう。
「! これは……」
 ナワーブが何かに気付いたように辺りを見渡す。そんな間にも弟切草はナワーブに近づいて行く。その手を伸ばして。
「そんなにメインディッシュを御所望ですか?」
「!?」
 この声は。その名前をつい叫ぶよりも先に、『霧の刃』が弟切草を斬りつけた。
「ぎィイイいイイイイいいイイイイいいイイイ!!」
「おや、痛覚がタイミング悪く戻ってきてしまったようですねぇ。聴き心地最悪な悲鳴ですがあげないよりはいい。是非とも、その耳障りな悲鳴を聞かせてください」
「リッパーさん!?」
 リッパーが、そこに立っていた。先ほど聞こえたのは彼がよく鼻歌で歌う『白鳥の湖』だったのか。
「がぁ、アあああアあアア!!」
 リッパーに弟切草が殴りかかるもひらりひらりと避けていく。その内、また彼の姿は消えてしまった。
「さあ、私はどこにいるでしょう? 当てることができれば一発くらい殴らせて差し上げますよ。
まあ、とは言え」
 再び霧の刃が弟切草を襲う。今度は足を狙われ、倒れた。
「反撃しないとは言ってませんので、恨まないでください。
にしても馬鹿ですねぇ。例え痛みを感じなかろうがダメージは蓄積するに決まってるでしょう。それに気付けなかった時点で……ああ失敬。気付けるような頭も無くなっていましたね」
「う、うが、あ……」
「さて、後の仕上げは彼らに任せますかね」
 リッパーがその場を去っていく。そして、変わるように出てきたのは……極めた山姥切国広だ。
 彼は倒れたままの弟切草を、悲しそうな目で見つめていた。
「主」
「ぎ、ぃ、ぐに、ひろ゛……」
「俺を思ってくれたことは、感謝する」
 鯉口を切り、すらりと本体を鞘から抜き出す。一歩一歩、弟切草に近づいて行く。それに嫌な予感がしたらしい弟切草は這いずりながらも逃げようとしている。
「だが。本当に俺を思ってくれるなら。
俺の話を聞いてほしかった。俺の言葉をきちんと理解してほしかった。南泉一文字まで巻き込んで、折らないでほしかった。……本歌である山姥切長義という刀を、冷遇するなんて愚かな行為は、しないでほしかった。
せめて、政府で罪を償ってくれ。これが俺の、あんたへ対する最後の忠義だ」
 本体が、弟切草の肩を貫く。すると彼は今までよりも大きな悲鳴を上げ、同時に薄くなっていたモヤが完全に消える。
 弟切草が気絶し、肩から本体を抜くと山姥切国広はナワーブと秋田に近付き、頭を下げた。
「今回の件、俺の主がすまなかった。
俺たちが主を止め切れなかったことも原因だ。だが、主への減刑はあえて求めない。むしろ、きっちりと罰してやってほしい。
……本当に、申し訳なかった」
「お前が、謝ることじゃないだろ」
「それでも……俺たちが止められていれば、俺たちの本丸内での問題で済んだ。南泉一文字の犠牲も出して、こんなことになって……。
あの女性審神者にも謝っておかねばならない」
「いるよ、ここに」
 全員がそちらを向く。未だにボロボロなままの柊はこちらに歩み寄ってきていた。
「主君!」
「お前、なんで」
「事態が完全に終息したっぽいからね。ちょっと戻ってきた。
……山姥切国広。もし私にも申し訳ないと思っているならそれは不要。ただしこちらも減刑などを嘆願はしない。それでいい?」
「ああ。当たり前だ」
「ん。あと……正直、こいつにかなり腹立ってるから、一発入れていい?」
「えっ」
「あ、俺も一発入れたい」
「えっ……あー……まあ、いいんじゃないか?」
 山姥切国広の一言により、よし、と言ったナワーブは何とか弟切草に近寄り、その額に手刀を思い切り落とした。ゴッとなかなか良い音が鳴り、気絶していた弟切草も思わず呻いていた。
「次、柊な」
「うぃー。……まあさ。私も完全に油断してたから悪いとは思うけどそれとこれとは別だから。
だからさ」
 足が上がる。そして、その足は弟切草を思い切り踏み付けた。正確に言えば、『弟切草の弟切草』である。
「○※%☆¥&□◆@!!?!?!?!?!?」
「うわ……」
「ひぇ」
「主君!?」
 あまりの光景にナワーブと山姥切国広はドン引き、秋田は驚愕しかできなかった。……観客の男審神者たちも、自分の息子(意味深)を抑えたり顔を青ざめさせていた。
「お前の遺伝子根絶やしておくね」
「そこは勘弁してやってくれ、俺たちも痛い」
「ちぇ〜」
 流石に目を覚ました弟切草が悶絶している間に政府役人たちが彼を捕縛、栗梅と今剣も連れて行かれ、ナワーブはせめて今剣だけでも、幸せになってほしいと願うことしかできなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.382 )
日時: 2021/04/15 22:25
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: Dgyo6F5o)

 大演練会場通路。秋田とナワーブ、リッパーに先に行ってほしいと頼んだ柊は顔を俯かせながらよろよろと歩いていた。素直に聞いてくれてよかった。
「主」
「!!」
 勢いよく顔を上げる。そこに居たのは、戦装束を着た長曽祢だった。
「え、長曽祢さん……? ど、どうかしましたか? あ、あのー、今いつも以上にブサイクだから、あまり見て欲しくないと言いますか……あはは……」
「……」
 長曽祢がこちらへ歩み寄ってくる。
「あのっ、も、もしかして、怒って、ます? あ、の、できれば、できれば、お説教は、後で聞くので、い、今は、ちょっと」
「……」
「っ、な、長曽祢さ、やだ……こ、来ないでっ!!」
 思わずそう叫ぶ。それと、抱きしめられたのはほぼ同時だった。
「っ、や……!!」
「よく耐えた」
「え……」
「だがな。もう堪えなくていいんだ。……怖かったろう?」
「っ……」
 体が震える。
 弟切草に見つかり、地面に叩きつけられ、殴られ……このままでは秋田が折られると思った。だから、秋田を呼ばないで守った。大切な刀だったから。
 殺されると思った。そして何より……容赦なく振われる拳と痛みが怖かった。嫌だと叫びたかった。やめてと叫びたかった。許してと、叫びたかった。
 その恐怖が忘れられなくて、こっそり一人で泣くつもりだった。
「あんな大男に殴られて、痛かったろうに。本当は今すぐにでも医者に診せてやりたいんだがまだ嫌だろう?
……おれとあんたの体格差だ。その上、羽織もある。
あんたを見ることなんて、できないさ」
「っう、うぅぅ……!」
「おれはあんたの虎徹。長曽祢虎徹。主に危害など加えないから、安心していいんだ」
「っ、こわ、か、った、こわかった、よぉ……ながそね、さ、こわかった……!!」
「よしよし……よく頑張ったな……」
 声を押し殺して涙を流す。長曽祢が頭を撫でてくれる手が、心地よかった。






















 ある審神者は焦りながらある審神者を探していた。柊。今回、『加害者とされていたはずの』審神者だ。
 だがそれは間違いであったことが証明され、今回の誹謗中傷に関わった者は程度により増減されるが全員処罰を受けると言う。この審神者は、あろうことか歪んだ正義感半分、面白半分で話を広め、その上で誹謗中傷に加え、思いついた話をでっち上げていたのである。弟切草と栗梅ほどではないにしろ、相当重い罰が与えられるのは目に見えていた。
 だから先に彼女に謝罪し、自分だけでも減刑してもらうように頼むために探しているのだ。
「そこの審神者くん」
「? は、はい……」
「少し、よろしいかナ?」
 一人の老紳士。彼に言われるがまま着いて行ったのが、間違いだった。
 あっという間に彼は密室に連れ込まれ、彼にまるで棺桶のような巨大な銃を突き付けられた。
「っひ、ひぃっ……!!」
「今、彼女は大切なメンタルケア中なのでね。キミのような愚か者に邪魔されると迷惑なんだヨ」
「お、愚か者、って、俺は、俺は謝りたくて」
「謝りたい? 『自分が助かりたい』の間違いではないかネ?」
「っ!!」
 的確に考えを言い当てられ、目を見開く。老紳士は呆れたような目を向けてくる。
「本当に悪いと思っているならば、メンタルケア中、と聞いたら日を改めるか諦めるかするべきだろう。それに突然押しかけて謝罪されても彼女には何が何だか分からない。
せめて担当を通じてアポを取ってからだろうに。それをしないということは『何らかの罰が与えられることが決定して慌てている』としか思えないんだヨ」
「っでも!」
「それにキミと同じようなことを考えている輩はたくさんいて、一人一人彼女が対応する義務があるとでも?」
「えっ……?」



 ある場所では。
「お前の謝罪なんて、信じてやらねえよ。俺の大切な御侍を傷つけたんだ、罰くらい大人しく受けろ!」
 食霊のハンバーガーが。
 またある場所では。
「貴方のその謝罪に、どれほど誠意があるのですか? 少なからず私には、誠意など一切見えませんが」
 花騎士のツバキが。
 ありとあらゆる場所で、柊サイドのメンバーが『助かりたい』という願いだけで動く審神者たちを捕らえ、足止めしていたのだ。
「キミたちはもう終わりだ。あとは大人しく、罰を受けるんだネェ」
 老紳士……新宿のアーチャーの悪どい笑顔に、審神者は絶望するしかなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.383 )
日時: 2022/04/21 21:31
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n/98eUHM)

 それから、数日後。時の政府の病院内にて。
「さあ主、口を開けようか」
「……お前なんでそんな嬉々としてんの???」
「何の話だろうね?」
 めちゃくちゃいい笑顔でナワーブに粥の入った匙を向けている山姥切長義。その側には何と、栗梅の本丸にいた山姥切国広までいる。彼は彼で特別に用意してもらったおかわりの粥を持ってそわそわしていた。
 どうにもあの後、それぞれの本丸に監査が入り、刀剣男士たちは保護となってそれぞれの道へ行ったらしく、その中の一振りである山姥切国広はナワーブに引き取られることを選んだ。
 と、言うのも悩んでいた山姥切国広に山姥切長義が面会し、『政府も引取先の希望があれば蔑ろにはしない。ところで俺の主になる人なんだがかなりいい人でね。あー、嬉しすぎてちょっとテンションおかしくなりそうだよあーあんな人を一振占めとか本当に勿体ないなぁ!!』とわりと露骨な誘導をした結果、あの本歌がそこまで言う人間なら、と引取先として希望したらしい。
 この山姥切国広は途中から言葉を伝えることを諦めてしまい、無口な個体となってしまった。会話はあまりしない代わりに、表情が豊かな個体である。また、こちらは末っ子気質が強い個体のようで山姥切長義もナワーブも彼を甘やかし気味だ。
「というか、別に食えないわけじゃないぞ。折れたのは左肩だし」
「無理は禁物だよ。それに、持つものこそ与えなくてはね」
「いやお前それしたいだけだろ」
「……俺も食べさせたい」
「もう少し待ってくれ国広の」
「……本歌ばかり、ずるい」
「あと一口だから。ほら、国広のが待ってるから主」
「あー、分かった分かった」
 渋々口を開いて食べさせられる。咀嚼している間に山姥切長義と山姥切国広は入れ替わって、山姥切国広はそわそわとしていた。
 飲み込めばすぐさま彼が匙を差し出してきた。目がキラキラと輝いている。とてもではないが断りきれない。
 たまに見舞いでウィリアム(第五)たちが来て調子はどうだとか、お前早く復帰してくれめちゃくちゃハンターに殴られるとか他愛ない話をして。
 退院した後は審神者になるが、ナワーブの霊力は通常の審神者よりも少ない。恐らく二振りから四振りまでが顕現できる限界だとも言われた。訓練次第では霊力も増やせるが、それにはかなりの時間がかかる。そこで彼は普通の審神者ではなく、政府直属の特殊な任務に当たる審神者となることが決定している。(とは言え、既に熟練の審神者たちがいるため、ナワーブにはあまり仕事は回ってこないらしい)
 審神者になった直後はいろいろ書類とかで忙殺されるだろうが、とりあえず今は体を休めることにした。
「にしても、あの役人め……主になんて審神者名を与えるんだ」
「……」
 ふと思い出したらしい二振りはむすりと顔をむくれさせた。
 ナワーブの審神者名……『猟犬』。嫌味を含めた笑みでピッタリだろうと嗤ったあの役人はどうやら弟切草、あるいは栗梅の担当だったらしい。どちらも解雇され、彼には汚点となったその腹いせに、そんな審神者名を付けたのだろう。
 今にも怒鳴りそうな二振りよりも先に、ナワーブが分かったと返してしまったから、二振りも何も言えなくなってしまったのだが。
「主も主だ。何故あんな名を」
「いいだろ、別に。そんなに望まれてるならなってやるまでだ」
 そこで言葉を切り、ちろりと唇を舐めてニヤリと笑った。
「主人の手を噛むくらいの、獰猛な猟犬にな」
 どうやら、あの役人は『獰猛な猟犬』を見誤っていたらしい。まあ、どうなろうが関係はないのだが。
















 同じく。いくつかある隔離病棟、その一つである隔離病棟Bの一室。そこで弟切草は拘束されていた。
 弟切草の体にはいくつものチューブが繋がれており、そこから薬や栄養剤が注入されていた。あの後、薬を飲んだ副作用かどうかまでは分からないが、体が一切動かなくなっていたのだ。
「ちくしょう、ちくしょう、あの審神者め、クソがっ……」
 血走った目で常にぶつぶつと恨み言を吐いては眠り、ふと目覚めてはまた恨み言を吐く。そんなことを繰り返していた。
「ご機嫌よう、弟切草様」
「!? お、前」
 弟切草の目の前に、一人の男が現れる。ハルフォード。あの時、弟切草に薬を渡してきた男。ハルフォードの傍らには、黒い髪に猫の耳が生えた少年が立っていた。
 ハルフォードは歪んだ笑みを浮かべたまま、
弟切草を見下ろしている。
「なんで」
「ええ。あの薬の代償を頂きに参りました」
「!? 代償……聞いてないぞっ!!」
「おやぁ? そうでしたっけ?」
「お前っ……騙しやがったな、ハルフォード!!」
「……ハルフォード? それは誰でしょうか」
「は……!?」
「『クリフォード』様、ご自分で名乗られた偽名です」
「ああ、そうでしたね黒猫。まあ……あんなものを無償で手に入れられるなど、そんな話あるはずないでしょう? ふふふ……」
「てめえっ……!!」
 暴れようにも拘束されて何もできない。一体、代償とはなんだと言うのか。
 ハルフォード、もとい、クリフォードは黒猫と呼んだ少年からランタンを受け取る。その時……髪の隙間からちらりと見えたのは、人間ではあり得ない尖った耳だった。
「!?」
 それに気付かずクリフォードはランタンの蓋を開けた。
「さあ、弟切草様。代償は必ず頂かねばなりません。代償……『貴方様の存在及び魂』を、【ダーズ様】に捧げなさい」
「なっ、たま、し……い……!?」
「ああほら、見てください。貴方の手……ふふ、透けてきてます」
 言われて手を見る。……透けている。いいや、消えている!!
「ひっ……!? い、嫌だ、助けてくれっ、いやだ、嫌だ、い、いっ、嫌だぁあああああああああああああああ!!」
















「あるじさまっ、ごはんのじかんですよー」
 未だに反応が薄い栗梅に、今剣は看護師から受け取った食事を見せる。匙で粥を掬い、あーん、と声をかけて栗梅に食べさせるものの、ほとんどは溢れてしまった。
「あ、こぼれちゃいましたね。いますぐふきますねっ」
 甲斐甲斐しく栗梅の世話をする今剣を、看護師たちは憐んでいた。けれど、彼は悲しみながらも前向きに彼女の世話を続けた。
 本当にたまにだけれど、少し反応を返してくれる時もあるから。それが何より嬉しかった。
 今日も少しでも食べてもらうため、今剣が食事を食べさせる。そんな時だった。ノックの音がしたのは。
「? はーい。あるじさま、ちょっとまっててくださいね!」
 今剣は匙を起き、引き戸を開ける。
「どちらさまですかー?」
「初めまして、今剣様。そして、さようなら」
「えっ?」
 瞬間。今剣の体から血が噴き出た。彼は何が起きたのか理解する間もなく、倒れてしまう。
「ご苦労です、黒猫」
「……勿体ない、お言葉」
「ふふ……それにしても、良い『お土産』ができました。この女はトマルにでも差し上げましょう。
でも……ローザの方が余程美しいのに。
トマルの女性の趣味は本当に分かりませんね。
さて、黒猫。その女性を持ちなさい」
「……承知、しました」
 黒猫が栗梅を抱え、クリフォードと共に病室を出て行く。
「……いあお、ううい……」
 栗梅の声は誰にも届かず。
 そこに残されたのは、血まみれの今剣と、呑気に湯気を揺らす食事だけだった。


 その日、隔離病棟から二人の審神者が消えた。

 弟切草。栗梅。特に栗梅の病室から重傷の今剣が見つかったことから、彼女は今剣を折ろうとして逃げたとされている。
 栗梅の今剣は、しばらくの間、目を覚ますことはなかった……。
コメントOK
※2022/04/21 一部変更


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。