最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第052次元 敗北



 「アニル!!」

 牢屋が一瞬揺れ、その場はしんと静まり返った。
 アニルの声が聞こえない。
 アニルは死んだのか。

 「嘘……、アニル……?」
 「これくらい、楽勝♪」
 「ミル……」
 「すげぇよ、お前」
 「へへ」

 ミルが頬を赤く染め、笑顔になった。

 が、次の瞬間。

 「何が、楽勝なの?」
 「―――――――――え?」

 ミルの耳元で、誰かが囁いた。
 ミルの腹は、大きく鋭い爪のようなもので貫かれていた。
 ミルの腹から血が流れ、そして、ミルは血を吐きながら倒れた。

 「み……ミル……?」
 「ミルーーーー!!」
 「え……」

 グリンとロクとレトが見たもの。
 それは、ミルの後ろで不快に笑う動物の神、アニルだった。
 アニルは傷一つしていなかった。
 月のような形に裂けた口を開き、笑っていた。

 「何だよ、つまんないなぁ。もっと楽しめるかと思ったのに」
 「え……、み、ミル!!」
 「千年前と一緒だな。なぁ、幸罰を操る次元師さん」
 「アニル……、お前、なんてこと!!」
 「千年前の戦争でも、幸罰はすごい力を発揮した」
 「千年前の……、戦争……?」
 「そうさ。あの戦争で最後まで残っていたのが、幸罰の使い手だよ」
 
 アニルが語った千年前の戦争。
 ミルは倒れ、アニルはそのミルを踏みつけた。

 「!!」
 「お前らの負けだよ、次元師さん」
 「ふざけんな!!俺はまだ戦え……」
 
 レトが咳き込み始めた。
 血を吐きそうなその痛み、立ち上がる事もできない。

 「ち……、くしょう……」
 「そこの、ロクアンズも怖いだろう?」
 「あ、たし……」
 「お前、ロクアンズ・エポールか」
 「そ、そうだけど……?」
 「あのフィードラス・エポールの娘だろ」
 「あたしとその人は血が繋がってない」
 「……ふぅん……」
 
 アニルが細い目でロクをまじまじと見つめた。
 アニルはため息をついた。

 「まぁいいや。今度会う時はもっと強くなっててよ、ロクアンズ、レトヴェール」
 「その時は、容赦なく殺すから」

 アニルとグリンは、その場から一瞬で消えた。
 この洞窟で取り残されたレトとロクとミル。そしてキールア。
 ロクは、力が抜けたのか地面に膝をついた。

 (負けた……、俺達は、負けたんだ……!!)

 悔しさのあまりレトが涙目になっていた。
 今まで、敗北を経験しなかったレトとロクが、初めて負けた。
 最悪最強の神、アニルとグリンに。