最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第204次元 2人の天使
最早凶器とも呼べる激しい音が鳴り響く。
それはレト、エン、サボコロの頭上のみで起こり、3人は苦しみながらもがいていた。
頭を抱え、必死に目を開ける。うっすらと見える視界の先にいるのは……狂い笑う堕天使の姿。
ドルギースは苦しむ3人を見て楽しそうに笑っていた。
「ふはははは!!!やっぱり人間はこうじゃないと……足掻いて苦しんで狂ってもらわないと……面白くないんだよねー?」
そう言ったドルも、実はぐっと腹部を抑えていた。
先程エンにやられた致命的一撃。次元技を腹部に喰らったドルも、そう長くは立っていられない。
レトは決死の思いで双斬を握り、ゆっくりでも腕を動かした。
如何すればこの攻撃を壊す事ができるのか、と考えて。
(無理だ……動く事さえ出来ないこの状況で……っ、次元技を使うなんて……とても無理、だ……っ!!)
頭が割れる。その激痛に耐えながらも尚、レトは頭を回転させる。
こんな時……義妹だったなら。
隣にもし、義妹がいたのなら。
躊躇いもなく、考える事もなく。
唯思った事を突っ走っていただろう。
2人で……そう、義理の絆で繋がった2人で。
(……無理やりにでも戦って、勝ち進んで。何度も何度も、2人で無茶したじゃねぇか……!!なのに……なのに……!!!)
義妹を失ったら、自分は無力なのだろうか。
義妹がいないと何もできないのだろうか。弱いままなのだろうか。
レトの思考に幾つもの疑問が過ぎる。そしてもう1度拳を握りしめる。
(違う……そうじゃない……!!俺は、勝ち進まなきゃいけないんだ……!!こんな……ところで――――――!!!)
レトの元力が高まっていく。それと同時に頭上に浮かんだ金色の輪に亀裂が入った。
ドルは驚愕する。何故だ!?っと大声を張り上げる。
「負けるわけにはいかねぇんだよ――――――――――!!!!」
天に向かってレトがそう吠えた時、金色の輪は完全に砕け散った。
それと同時に頭を襲っていた激音が消え、ふっと眩暈が起こる。
エンもサボコロもこの状況に驚きを隠さず、じっとレトの方へ視線を向けていた。
「レト……」
「お前、そんな力、どこに……!!」
(馬鹿な……!?あたしの術を……あんな大声だけで……!!?)
負けられない気持ちがあった、としか言えなかった。
どうしても譲れない思いが……レトの源になった、としか。
「負けちゃいけねぇって……思ったんだ」
「……レト……」
「俺はロクに会うんだ。戦場で必ず戦う為に……。……それにさ」
「……?」
「此処で負けちゃぁ……俺、ロクの義兄失格だから」
地上最強と言っても良かった。
ロクの実力を。
唯それは……越す事も追いつく事もできない存在で。
ちっぽけな自分は、努力して歯を食いしばってついていかなければならなかった。
レトはずっと、そう考えていた。
ロクの義兄が務まるのは……きっと。
“人族代表”の名だけだから。
「くそ……ッ!!他の錠を使うしか……!!」
「……掛かってこいよ“純白の堕天使”」
負けなど認めない。
両者の譲れない闘いに、エンとサボコロは息を呑んだ。
迷いを一切殺し、消滅させたレトに、果たして堕天使は勝てるのか。
「黒白月陽……――――――、第十五の錠!!『純白ノ精霊』!!!」
堕天使の背後に現れたのは……女神を思わせる“天使”だった。
ドルギースという名には似合わない、悲哀な天使。
服装、口調、術――――――、持てる全てを交換し、互いに成り済ましていた千年間。
ドルは完璧な“メルギース”を演じていた。
一般の人達にも、兵士達にも気付かれない恐ろしい計画。
然し、誤魔化す事が絶対にできないモノがある。
それを人々は……“心”と伝えてきた。
容姿や口調、独自の術を変える事はできても、心は変えられない。
それをレトは知っていた。
身近にいた、義妹のお陰で。
もし今自分の隣にいたら、きっとドルも涙を流して謝ったのに。
ロクがいれば、きっと心を救う事ができたかもしれないのに。
そんな包容力を持つ事ができないレトに出来るのは……唯1つ。
正面からぶつかって、自分の無力さを痛感させる事だけだった。
精霊がレトを襲う。
そんな状況を目の当たりにしてエンとサボコロと……木に隠れていたキールアも身を乗り出してレトの名を叫ぶ。
決して届かない訳じゃない。でもレトはすっと顔を上げた。
そしてゆっくりと双斬を構えて、こう言った。
「――――――――――――――――ありがとな」
と。
それを誰に言ったのかは……きっと分かる。
ドルに向かって言ったかもしれないが……そうじゃない。
ドルよりもっともっと遠くにいる、あの少女に向かって言ったのだ。
義妹の事を思い浮かべるだけで、ふっと心が軽くなった。
そしてレトは双斬を思い切り振り下ろした。
「……どうだ?悔しいか?」
ドルギースは膝をついて、俯いていた。
レトはまるで小さな子供を宥めるような口調で言う。
ドルは無反応。泣いているのか怒っているのか違うのか……全く表情が掴めなかった。
「悔しい……訳じゃない……けど」
「……ん?」
「もしあんたがあたしの兄だったら……きっと、もっと早く心が軽くなったのに」
ドルには、分かってしまった。
レトには義妹がいて、その子の事を強く想っていて。
最後に放った言葉も義妹宛の言葉だと思うと……ドルは少し悔しかった。
「羨ましい……、あんたの義妹に会いたいくらいだよ」
「いつか会わせてやるよ……、戦争が終わって、平和になったら」
生きてるかどうかも分かんねぇけどなって。
レトは苦笑しながらも笑ってみせた。
その時……ほんのりだったが、
ドルも微笑んだような、そんな気がした。
「メルを苦しめたのも、住民を苦しめたのもあたし。……だから病死して良かったって思ってる」
「病死したのに……何でお前らまだ生きてんの?」
「不死なんだよ、本当はね」
方翼だけを生やして、2人で1人として生きてきた2人は不死だった。
だけど歴史上死んでいて、暫く“別次元”の世界で暮らしていたとか。
そしてある日そこにいた“ある人物”に泉を護るよう義務づけられ、現在に至る。
「ドル……ごめんなさい」
後方から、メルの優しい声が聞こえた。
それは天使でも何でもなくて。
姉の、優しい声だった。
「私が無理にでもドルを愛していたら……今頃こんなにもめなかったのに……」
「……違う、そうじゃない。でも分かんないの……どうしたらいいのか……、分かんないんだよ……!!」
「……私がついてる、ドル」
「……!!」
「私……貴方の姉だから、貴方を護る義務がある」
だから、分かんないだなんて言わないで?
メルの瞳はそう訴えていた。
“不を齎す子”として人間から恐れられてきた妹を、
この時初めて……メルはぎゅっと抱き締めた。
千年間もずっと想い続けていたのに……抱き締める事もできなくて。
そして今日、メルは妹へ気持ちを告げる。
「……ありがとう、ドル」
隣にいてくれてありがとう……メルはそう呟いた。
レト達4人もその場でうんと頷き合って、笑い合う。
対称的は2人が、初めて心を通わせた。
初めて互いを“姉妹”だと思った。
そしてもう2度と……離れる事はないと確信し、
メルは泣き崩れるドルを温かく抱き締めて……もう1度“ありがとう”と囁いた。

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