最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第184次元 幼馴染との一夜
「何で俺が……」
「んにゃぁー……レト、レートっ」
「……何だよ」
「えっへへー……何でもないよっ」
普段以上に長く、深い溜息をつくレトヴェール。
酔ってしまったキールアを背負い、そそくさ自室へ向かう。
暗くなった廊下を渡り、冷たいドアノブに手をかける。
ちらっとキールアの方を向くが、相変わらず可愛らしい顔で微笑んでいた。
「いいか、今回だけだぞ……ったく、調子狂う」
「やったぁーっ、でも、小さい頃はよく一緒に寝てくれたよ?」
「昔は昔だっつうの、俺達何歳だよ、おい」
14歳という歳でありながら男女が同じベッドで寝るなど……班長が知ったらレトヴェールは生きられないだろう。
キールアはレトの寝っ転がったベッドの中へもそもそ進入すると、布団の端を掴んでえへへ、とレトに笑いかける。
「…………」
「……ん?」
もう寝てしまったのか、キールアの無邪気な声が聞こえなくなった。
ふいに後ろを振り向くと、キールアが可愛らしい寝顔で息を立て、眠っていた。
その顔に思わず心臓をどくり、と跳ね上がらせたレトは慌てふためき、ばっ!!っと顔を隠す。
その時、レトは自分の腰に何か違和感を感じる。
後ろから手が伸びてきて、がっしりと自分の体に抱きつくようにして包み込まれた。
「な……え、ちょ!?」
「あたし、何かに抱きついてないと寝れない主義なんだけど……」
「ば、ばかッ!!///、それ、マジでやば―――――っ!!」
言い終わる事なく、キールアはレトを離さずまた寝入る。
流石にこれは拙い……とレトは何度も頭の中でその言葉をこだまする。
先程より余計に心臓が高鳴り続ける。
後ろを向けば無防備な酔った幼馴染。
それでいて髪の毛が解かれているので、いつもとは全然違う雰囲気だった。
正面からまともに見られる状況ではない。
(う゛……、これは流石に拙すぎるって!!俺こういうのマジで苦手だからっ!!
ってか何なんだこの状況!?可笑しいだろどう考えたって!!
後ろ向いちゃいけないゲームか?いや、落ち着け俺。何も幼馴染にそこまで――――――)
……と、そこまで考えているうちに、ふいにもちらっと後ろへ向いてしまった。
無防備+酔った+髪解いた+幼馴染=レトにとって直球な姿が目の前に映る。
可愛らしい寝顔に耐える事ができなかったレトは、遂に鼻孔から真っ赤な液体を噴き出した。
その液体を必死に掌で止めようにも、自分の理性は止められない。
愛くるしい姿の幼馴染を見て……動揺しない訳がない。
(ちょ、待て、可笑しいって絶対!!俺にも拒否権はあった筈だぞこんちくしょーッ!!
止まれ、戻って来い俺の理性!!俺は次元師なんだよ、こんなんで負けられねぇってばッ!!
ってかふざけんなよ、元はと言えば1番悪いのはお前だろバカ野郎!!覚えとけよこのサド作者ァァァーーッ!!!)
と叫ばれましても。
レトは鼻元にティッシュという名の白く、軟らかな拭き取り物を手に取ると、真っ先に鼻血を拭う。
後ろから抱きつかれているせいで自分の体までも勝手に反応してしまい、何度も悶える。
そんな状況がその後、何時間と及んだ。
朝になるまでごみ箱の中に血を拭ったティッシュが山程入っていた事も誰も知らない。
……つくづく可愛そうな主人公だと思う。
「キャァ――――――ッ!!?///」
レトヴェールの朝の目覚ましは、時計ではなかった。
大きな声と共に起き上がったレトは目を擦り、歪んだ視界の先にいる少女を見る。
少女はその華奢な体を震わせて、いかにも怒ってますという表情でレトを睨んでいた。
「な、なななんでれ、レトとああたしが一緒に寝てたのよ!!!///」
「あぁ……戻ったのか、お前」
「質問に答えて!!、ちゃんと説明しなさいよ!!!」
「お前が一緒に寝ようっつったんだろ」
「い、言ってないわよ、そ……そんな事っ!!」
「……だから、言ったんだって」
「~~ッ!!///、こんの……最低ドスケベ変態野郎ォォ―――――ッ!!!」
そう言ってレトの顔面狙って枕を投げ飛ばし、半泣き、半照れ状態で部屋から走り去っていった。
何故自分に非がある。何故怒られる。何故枕を投げつけられる。
幾つもの疑問がレトの脳内をぐるぐると回り、また肩を落として溜息を漏らした。
「俺が何したっていうんだよ…………」
激しく落ち込みながらも、レトはさっさと隊服に着替えて部屋から出る。
どうしてもキールアの部屋の横を通りたくなかったレトは遠回りして、食堂へと向かった。
広い食堂が目の前に広がる……が、始めに入ってくるのは皿が何枚も積み重なった机だ。
何枚もという単位ではない。その人物の姿が皿に隠れてしまう程、上へ上へと積み重なっているのだから。
「……よ、ロク。朝から見事な大喰らいっぷりを見せてくれるな」
「ふぁい?、あぁ、レトおはよー。……あ」
「……」
「……昨日、どうだったの?」
「どうもなってねぇよ、寧ろ俺が聞きたい」
「へぇー……、朝すっごい声が聞こえたけど?」
「あぁ……そだな」
最早魂まで抜けかけたレトは、曖昧な返事をする。
料理長の所まで言って適当に注文すると、レトはすたすたと席に戻る。
そこにはコールド副班が口元を緩ませながら待ち構えていた。
「よっ、レト。昨日キールアちゃんと一緒に寝たんだってなぁ。いやぁ、青春楽しんでるなぁ、お前ら」
「……なぁコールド副班」
「んー?」
「俺って最低ドスケベ変態野郎かな」
「…………」
返す言葉も見つからない、いや、レトが真顔で聞いてきたので返せなかったのかもしれないが。
面白いと思う反面、そんなレトを可愛そう、とも思っていた。
今此処でキールアに会えば確実に実験薬品をぶちかけられるのだから。
「あらレト君、昨日はハッピーな夜だったかな?」
「フィラ副班……、いえ、五分五分ですよ、ホント」
「あれ?そなの?」
透き通るような蒼い髪を揺らし、相変わらず蛇梅を肩に乗せて不思議そうにそう言った。
そして、あ、っとフィラ副班が素っ頓狂な声を上げる。
「これ、ロク出てみる気、ない?」
「これって……『SING A SONGコンテスト』?」
「うん、正確には『歌謡大会』ってとこかしら」
「……何それ」
「毎年この街で行われているのよ。いつもどこかの施設に参加募集が送られて、今年は蛇梅隊が誘われたのっ!!」
「へぇー……」
「それで、ミラルも出たいって言ってたんだけど……生憎仕事詰めなの、あの子」
「あ、そっか」
「それでロクに出てもらおうと思ったんだけど……いいかしら?」
酷く騒ぎ、広く風の伝う食堂の中、フィラ副班は顔の前で両手を重ねてロクに頼む。
ロクはその姿に口元を緩ませて微笑み、勿論、と自慢げに笑ってみせた。

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