最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第209次元 突破!!
残り時間、僅か3秒。
そんなギリギリな状態で、けろっとした顔をつくった少年は現れた。
「れ、れ……!?」
「レト――――――!!?」
もう、絶対に現れないと思っていた筈なのに。
レトヴェール・エポールは、満面の笑みを浮かべて微笑んだ。
「お、め……っ」
「よくもまぁ……ギリギリで現れたな、レト」
「心配したんだよーっ!!」
3人共怒ってはいるものの、確かに喜びも表情がそこにはあった。
スイタラは再度時計の蓋を閉じると、溜息を吐いてそれをポケットにしまう。
「えー、では。前半のチームは2チームの合格となりますったら。
リーダーが持ってるレストに合格記録を残すんで、リーダーの人は貸して下さいったら」
(……2チーム?)
レトは、ちらっと別の方向に顔を向ける。
そこにいたのは、見た事がない4人の次元師だった。
「なぁーんだ、突破したのって案外少ないじゃぁーん?」
「うるさいですよ。騒いでたら迷惑なのですムシェル。そうですよね?ファイちゃん」
「……私は……別に……」
「……うるさいぞ、お前ら」
一番背が高いノリにのってそうな女性は、ムシェル・レーナイン。
ですます口調のアホ毛たってる林檎みたいな少女が、ルルネ・ファースト。
口数の少ない薄水色のサイドポニーの少女、ファイ。
そして最後のルルネと変わらない身長の、ベージュ色の髪の毛の短髪少年の名が、リフォル・アーミスト。
警戒すべきその4人は、和気藹々と話をしていた。
然し侮る事はできない。第二次予選を突破したチームなのだから。
蛇梅隊チームは少しその4人を警戒しながらも、スイタラの指示によってさっさと会場へと戻った。
だが1ヶ月も感覚がなかったせいで、少し曖昧に狂いながら歩く。
そこらへんの木にぶつかったり、花の匂いがつん、と鼻に詰まったり。
まぁ、無理もないのだろうが。
「え……待機ィィ!!?」
レトは、自身の持っていたレストの画面を見て、あまりの驚きに固まった。
そう、これから2週間は部屋、もしくは会場で待機という指令が出た。
どうやらまだ第二次予選が終わっていないらしい。
「えーっと……“まだ後半チームの試験が終わっていない為、2週間の待機を指令する”……だってさ」
「そういえば後半の人達は、2週間遅れて洞窟に入ったんだってね……」
「そうなのか!?だから前半の奴等は待機って事かぁー」
「……ま、この2週間でBチームの運命も決まるという事になるな」
あと2週間で、本戦が始まる。
ここまで勝ち抜いてきた次元師達の一騎打ちが始まる……と、そう思うだけで思わず喉元がごくりと鳴る。
「お?エン何処に行くんだ?」
「鍛錬場が地下にあるという話を聞いたからな。訛らなんように少しでも鍛えておく」
「おぉー、じゃあ俺も行こうかなー」
「手合わせ願おうか?レト」
「ちょ……っ!?お、お俺は!!?」
「……悪いサボコロ。忘れてた」
サボコロはそんな素っ気無いレトの表情に苛ついたのか、エンも纏めて追いかけ始めた。
キールアたった1人を取り残して、男共3人は走る。
無理もないのは分かっていた。
長期待機を指令されたレト達は、唯ミル達Bチームの試験突破を待つ事しかできなかったのだから。
……そして、2週間後。
本部から、2チームの試験突破という知らせが届いた。
そこには……見事Bチームの名前が並んでいる。
「僕達も突破しましたよ、二次予選」
「あの暗闇もう嫌だぁーっ!!」
「俺は日々あんな感じだから別にどうって事なかったけどな」
「……あんたはいつも寂しい環境にいるって事?」
「……おいこら幽霊女」
「何よ顔面少女」
未だティリとラミアがピリピリと喧嘩の雰囲気をつくっていたが、見事突破を果たした4人。
今現在、4人はAチームの部屋にいた。
「これで俺達全員で最終決戦へ行ける訳なんだな」
「もしかしたら僕達、決勝で当たるかもしれませんね」
「決勝!?レトと戦う事になったらあたしぜーったい負けちゃうーっ!!!」
「……俺達だって候補なんだから手抜くなよミル」
「決勝で当たる……かぁ……そうなると嬉しいよね」
「そうかぁ?逆にこえー……」
「そうだな。実際俺達は互いに戦った事がない」
蛇梅隊は、誰であっても仲間同士。
副班だって班員だって……戦い合う為に存在するではない。
共に戦い、親睦を深める事で強さに繋げていく。
だからこその蛇梅隊本部である。
「……という事で、8人全員本戦に進出しました」
『……そうか、良く頑張ったな。本戦でも気を抜くなよ」
「勿論ですよ」
レトは、廊下に設置されていた大型の通信機で班長に報告を終えた後、大きな欠伸をした。
気が抜けたのか、安心したのか。
本人は悪い気もしないまま……廊下を突き進む。
(あ、あれ……)
レトは、咄嗟に隠れた。
レトの視線の先にいたのは、4人の次元師の姿。
あの時……同じ前半にいて、且つ合格したチーム。
「本戦進出したのって、たった4チームらしいじゃん??」
「そうなのですか?今回は少ないのですね」
「ホントーっ、しかも蛇梅隊っていう団体の奴等が2チームも参加してるっていうじゃん?」
「まぁな」
「そこの蛇梅隊でも有名な、レトヴェール・エポールってやつ……神族の義妹がいるって話知ってる?」
レトの心臓が、突然に跳ねた。
咄嗟に胸を掴んで苦しむが、そんなレトに気付きもせずムシェルは話を進める。
「……あぁ、その話か」
「在り得ないよねー?まず別種族で兄妹とか信じらんないし??」
「神族って事は……今度の戦争に現れるって事ですよね?」
「まぁあたし達みたいに強い次元師ならそんな奴ちょちょいのちょーいだろうけどーっ?」
レトは、思わず身を乗り出そうとした。
然しその腕を誰かに止められてしまう。
「キー、ル……!?」
少女はふるふると首を横に振って、レトを引っ張って静かにその場から離れた。
自室の前まで来ると、キールアは周りを確認してレトの腕をそっと離す。
「……レト、ああいう人達には実践で教えてあげるべきだよ……」
「そう……だよな。でも俺、許せなかった……っ」
レトは、自分の髪の毛をぐしゃりと掻いた。
そして壁に寄り掛かって、その勢いで床に座り込む。
「俺は別にいい……でも」
「……分かってる。ロクをバカにされた事……頭にきてるんでしょ?」
「……うん」
「大丈夫っ!!絶対勝とうね!!……って言っても、あたしは足手纏いになっちゃうんだけど……」
「いや、ありがとな、キールア」
レトは、立ち上がって、キールアの頭を撫でた。
そして清清しい表情のまま部屋の中に入る。
キールアはそんなレトの後姿を追うように……自身もまた続いて部屋に入る。
2人で何してんだよー、っともの凄い勢いで冷やかされた事は……言わずとも分かるだろう。

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