最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第165次元 白銀の少女Ⅴ



 「ハル~っ!!こっちこっちーっ!!」
 「待ってーっ、ミルーっ!!」

 今だから思い出す、これまでの記憶。
 この9年間の鮮明なところまで、きちんと覚えてるんだ。

 朝から晩までボロボロになって廊下を駆け回り遊んだ鬼ごっこ。
 1人1人の力を合わせて作り上げた大きなクリスマスツリー。
 時には爆発まで起こした誕生日ケーキ作り。
 何度も繰り返した喧嘩と仲直り。

 春には皆で一緒に外の桜を眺めながら花見をしたし、
 夏には夜に368人全員で室内花火をやった。
 秋には大きな部屋を借りて運動会もやったし、
 冬には大々的にクリスマスをした。
 
 1年を通して、何度も何度も、
 あたし達はかけがえのない時間を過ごした―――――。
 
 9年間……1度だって“不満”を抱えた事はなかった。
 せっかく人を信じられるようになって、
 絶えない幸せに浸ってたのに。

 

 「何だぁ……?その生意気な顔はぁ?」
  
 「ふざけないで……こんな事やっていいとでも思ってるの!?」

 「思ってるよ?当たり前じゃない―――」

 
 あたしはグッ!!と博士の胸倉を掴んだ。
 許せなくて。
 どうしようもなく、許せなくて―――――。

 
 「そんな事するくらいなら元力も十一次元もいらない―――――――ッ!!!!」

 「そう言うなって……、どうしてもっていうなら方法もなくないけど?」

 「……!!」

 「その代わり、君が最後まで協力してくれたら――――の話だけど」

 「ハルや他の皆の為なら……あたしはどうなったって構わない」

 「……威勢がいいなぁ。んじゃあ、まず言うとだな」

 「……?」

 「お前の体内には1つのプログラムが入ってる。それは……言わば必要な容量を押さえ込む為の道具さ」

 「必要な……容量……」

 「それを取り除くには削除データを送り込む必要がある。もし言う通りにしてくれるならやるけどな?」

 あたしはその言葉を聞いて、
 一切迷ったりはしなかった。

 「……いいですよ。本当に削除データをくれるのなら、協力します」

 「良い子だなぁ……ML368。―――じゃあ、今から言う事に従ってくれ」

 あたしはこくんと頷いた。
 ハルや皆の努力は犠牲にしたくない。
 でも――――――こんなデータは使いたくないから。

 「お前……ロクアンズ・エポールは知ってるな?」

 「ロクアンズ……エポールですか?」

 「あぁ……今どこの国でも有名なエポール兄妹の義妹の方だ。その人物のデータが今、必要なのだよ」

 「何故ですか……?普通の少女だと聞きましたが……」

 「我々科学者は今、その人物に着目している。……その子には何か秘密があるんではないかと」

 「……何故?」

 「ロクアンズ・エポールの元力の数値は――――――――普通の人間を超越している」

 「……!?」

 「それは普通の次元師の約3,2倍……。絶大な元力だ」

 「3,2……!?」

 「だから何としてもその少女のデータが必要なのだ……分かるか?」

 「待って下さいっ!!一体どうやって……」

 「ロクアンズ・エポールは兄と共に総合次元師収集所蛇梅隊本部に入隊した。そこに潜り込めばいい」

 「潜り込むって……あたしが、ですか?」

 「そうだ……お前は次元師だからな」

 それが、あたしが蛇梅隊に入った理由だった。
 誰にもバレないように、誰にも悟られないように、
 あたしはただ笑顔を作って入隊したんだ―――――。
 まぁ、その前にレトに出会ったのは偶然だったけど。
 
 「……じゃあ、期待してるよ?ML368」

 「あ……――――――――っ」

 あたしの小さな声を掻き消して、博士は颯爽と去っていった。
 その後姿を何より恨めしく思い、あたしはハルや皆の笑顔を思いだす。

 その時、ふと……頬に温かい何かを感じた。

 
 目の前にいる皆の姿。
 昨日まで、あんなに綺麗に、あんなに楽しそうに笑ってて、
 この日を……今日を、

 あれほど楽しみにしてたのに―――――――。

 
 「ひ……っク……う……っ……うわぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 
 泣くしかなかった。
 悲しむしかなかった。
 
 見たくない、信じたくない。
 ついさっきまで・・あんなに笑顔だったのに――――――っ。


 「ヒック……ごめ……ね……ッグズ……ヒッ……ごめんね……?」


 謝っても目を覚ます訳じゃない。
 謝っても戻ってくる訳じゃない、のに。

 
 あたしはこの日、何度も皆の名前を呼んだ。
 何度も何度も、忘れぬように、
 まるで自分の罪を償うかのように、  
 涙でぐしゃぐしゃになった髪や服なんか気にしない。
 どうしても―――――名前を呼んでいたかった。

 振り返ってくれるって……ずっと信じてた。


 
 あたしの次元技は、幸福と処罰。


 どうして……あたしに幸福を与えて……後に処罰を下したりしたんだろうか。


 どうせこんな結末を生むくらいなら、

 いっそ―――――処罰で終わらせて欲しかった。


  
 あたしが本当に求めた幸せは、
 
 こんなにも儚くて、脆い。


 簡単に散っていく夢と、

 簡単に埋もれてく現実。


 あたしはその中を――――――――――まるで這うように彷徨い続けた。