最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第181次元 想う気持ち



 「おらおらおらァ―――ッ!!!」 
 「……―――ッ!!」
 
 此処は最早戦場と化していた。
 たった1人の神たる少女の為だけに、この場所に――――14人の次元師が集まってしまったのだから。
 そしてこの場で、14人もの次元師は己の次元技を存分に、全力を出し切り振るう。
 
 「おいエン、お前へこたれてねぇーか?」
 「何だと?お前その首射抜いてやろうか?」
 「……相変わらず冗談効かねぇんだな、おい」
 「余所見するなよ、ド阿呆―――――ッ!!」
 「了解だぜ――――、炎撃ィィ―――――――ッ!!!」

 烈火の如く舞う火花の中に佇むサボコロとエン。
 舞い上がる炎、それを掻き消し射抜かれる一閃の刃。
 仲が良いのか悪いのか…、どういうコンビなんだとレトは呆然と立ち尽くす。
 他にもあまり見る事のないガネストの蒼き双銃裁き、見る者を虜にしてしまうルイルの製菓。
 ラミアの透明で、全てを飲み込む水術と、ティリの見事なる霊操の数々。
 ミルの見るも無残で残酷な殺人劇、リルダの驚異的原子爆弾の絶大な爆風も吹き荒れる。
 シェルは見事なる剣術で兵士を圧倒し、シャラルは己の氷柱で兵士を信じられない速度で固まらせ、倒していく。
 そして…、セルナの次元技はというと。

 「久しぶりのこの姿だな……、たっぷり遊んでやろうじゃねぇの―――――ッ!!!」
 
 (―――――――――――――!!!?、正確真逆ですかァァァーーッ!!!?)

 可愛らしいあの瞳が今じゃ逞しい、凛とした眼差しに変わっていて、若干釣り目になっている。
 腰に手を当てて、まるで少年のような口調で騒いでいた。

 「……、おらよ―――ッ!!!」
 「……―――!!?」
 
 セルナはその細い足であり得ない程の力を発揮し、兵士を頭上に上げ、自らも飛躍し、兵士と隣合わせになった。
 そして…。

 「流星落としィィィ――――――ッ!!!!」
  
 ガァァァァンッ!!っと、鎧にも関わらず、先程同様足で斜め下方面へ、衝撃と共に兵士を叩き落す。
 その速さは最早電光石火の如く。
 地面へと落ち、その近くにいた兵士諸共衝突し合い、その衝撃で爆風まで巻き起こった。

 「身体能力増加の次元技か……」

 そう、セルナの次元技はたった1つ、『強加』だけだ。
 セルナ自身の人格をまるで別人のようにし、次元級毎に身体能力を上げていく次元技。
 先程のように脚を強化させる事は勿論、体の至る所を強くする事ができる。
 
 「く……っ!!何故……、あり得ない―――――!!!」

 たった1人、血が滲む程の強さで拳を握る人物がいた。
 この景色が信じられない…とでもいうように。

 「何故だ……、神族は我らの敵―――――――、剣闘族に歯向かう気か貴様らァァッ!!!」

 目が充血しているのが良く分かる、この現状を前にして落ち着いていられる訳にはいかない。
 そして、戦う事のできないキールアは仲間の傷を癒し終わると、す…っと立ち、剣闘族に金色の瞳を向ける。

 「シーホリーの娘か……ッ!!」
 「残念ね、剣闘族」
 「……なんだ、と……―――!?」
 「ロクは確かに神族よ、でも裏切ってなんかいない。ロクがいつ、何処で人間を傷つけたというの―――――!!!」

 ロクを貶されて、自分の家族を無実の罪で殺されて、彼女が許す筈もなかった。
 熱い砂を踏み締めて、キールアは男に歩み寄った。
 1歩1歩…まるで追い詰めるように、歩み寄った。

 「ロクは誰も傷つけてない、殺してない!!……なのに、あんた達剣闘族は――――」
 「――――!!!?」
 「あんた達みたいな人殺しの方が――――――――、よっぽど悪人よッ!!!!」

 人殺し…たった1つのキーワードで、男はたじろいだ。
 兵士も大分数が少なくなってきた頃…、男は漸く口を開いて少女に反抗する。
 
 「人殺しだと!!?貴様の先祖がやった事を―――――、忘れた訳ではあるまいな!!!」
 「……!?」
 「街の人口の半分以上を死へと誘った最低の悪人の末裔―――――、キールア・シーホリー!!!」
 「そ、れは……っ」
 「所詮はお前も一緒だ……、人殺しなんだよ――――!!!」
  
 キールアの瞳に弱みの色が掛かった時、キールアの背後から、金髪の少年の声が聞こえてくる。
  
 「……ちげぇよ」

 (―――――!!?)

 僅かに瞳に溜まっていた滴を、振り返る勢いと共に振り落としたキールアの肩は、震えを止まらせていた。
 少年は傷ついた体を懸命に動かし、キールアを庇うようにして右手を広げ、剣闘族の男の前で立ちはだかった。

 「……なんだと?」
 「キールアは人殺しじゃない。それに、それは千年前の話だろうが」
 「それがどうした?人殺しの末裔なんぞ―――――」
 「そいつがやった事なんだよ、キールアは何もやってねぇっつってんだろ―――!!!」
 「……!!」
 「ロクを殺す序にキールアも殺るってか?欲張りだなぁ、おい」
 「……く……っ!!」
 「どうする?今此処にいる、ロクを覗いた―――――――15人の次元師があんたを襲うぜ?」
  
 少年が後ろをちらっと振り向くと、殆ど全員が首を縦に振り、頷いた。
 此処にいる全員の意見は一致。否定する者もない。
 追い詰められた剣闘族の男は額に多量の汗を流していた。

 「お……、覚えておけロクアンズ・エポール――――――――――」
 「……!!?」
 「――――――――――――――――――、神に生まれてきてしまった以上、幸せなど続かないと!!!!」

 剣闘族の男は纏っていた黒いマントで身を隠すと、まるで景色に溶けてしまったかのように姿を消した。
 丁度3000以上もの兵士と戦っていた仲間達も全員を倒し終えたのか、清清しい顔で3人の元へ寄ってきた。

 「よっ、かっこつけてくれんじゃねぇかレトヴェール君?」
 「あのなぁ……」
 「久しぶりに善戦した気がするな」
 「大丈夫?ロクちゃん?怪我ないのー?」
 「あ……うん」

 つい2,3日月程前まで冷たい視線を日々喰らっていたロク。
 でも、違う。
 冷たい目線じゃない、突き放した口調じゃない。

 暖かな瞳が今、ロクに向けられてる――――――――。
 
 「ねぇ……ロク」
 「……?」
 「重たいものを背負うなら、ロクだけじゃダメだよ」
 「……」
 「皆で、ここにいる全員でロクの背負った神族とか妖精とか……そういうもの、全部分けようよ?」
 「……キールア……、そうだね……、ありがとう――――――」

 暖かな瞳が、此処にある。
 暖かな世界が―――、此処にある。

 神なんて、妖精なんてどうでもいい。
 大事なのはたった1つ。

 仲間を想う気持ちだけ―――――――。