最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第192次元 決死の想い



 「……誕生日会?」
 「ええ、ロクの誕生日を、皆で祝うんですっ!!」
 「んで、いつ?」
 「いつって……当日の12月25日、明日に決まってるじゃないですかぁッ!!」
 「そ、そうか」
 「朝から昼にかけて用意して、その後にサプライズで1日中パーティやるんですっ!!」
 「まぁロクはいつも12時くらいに起きるからな……」
 「日頃の感謝を込めて、今年こそやるんですっ!!」
 
 軽くガネストに攻められ、そして半分強制です、とでも言うかのようにレトに頼み込んでいた。
 蛇梅隊の隊員達は皆快く賛成をし、今買い出しに行っているところだろう。
 何ていったって、明日が当日なのだから。
 
 「サプライズ……ねぇ」 
 「レトも手伝って下さい、一応義兄じゃないですか」
 「おい待て、一応ってなんだよ一応って」
 「だっていつもレトはこういうのパスっていうし……」
 「あのなぁ……」
 
 レトは深い溜息をつきながらも、協力する事をガネストに誓った。
 可愛らしい顔で喜ぶガネストに引っ張られて、レトは電光石火の如くパーティ会場へと向かう。
 そこでは明日の為に色々と準備をしている人達がいる。

 そう、この中には誰1人ロクを嫌う者など、いないのだ。

 「ロク……喜びますよね」
 「ああ、そうだな」

 大きな看板を用意して、そこに大きく【HAPPY BIRTH DAY】と書いてあった。
 蛇梅隊の隊員達が1つになって、一生懸命に準備をしている。
 テーブルの用意、造花の位置、飾りつけにも凝っていて、これは本気で凄い、とレトも感嘆の声を上げる。
 皆が皆、ロクへの気持ち1つで一生懸命になっている。
 レトは、明日のロクの表情を期待するだけで口元が緩んでいた。
 
 「すっげぇーよ……ホント」

 神族としての力が目覚め、2人の神族を倒してから1年が経とうとする。
 皆の表情はとても綺麗で、輝いていて、それが神の為とはとても思えない。
 レトは笑みを零して自分も手伝う為に会場の中へと入っていった。


 この時まだ、誰も知らなかった。

 ロクの本当の気持ちも、胸に秘めた想いさえ。



 

 「明日は雨かな……」

 部屋の中で、ロクはベッドで膝を抱えて座っていた。
 今日は部屋から出たくない、とロクの表情が自然にそう物語る。
 雲行きの怪しい空を見つめて、また顔を落とす。
 迷っちゃダメだ、悩んだって変わらないのだから。

 ロクの気持ちはもう既に、心に決まっていた。

 


 

 12月25日。天気、雨。
 朝から酷く降り注ぐ雨を見て、ロクの気持ちは更に憂鬱だった。
 だが、そんな事はどうでもいい。
 例え雨に打たれても、それでも気持ちは何1つ変わらない。

 「……決めたようだね、フェリー」
 「……」

 ロクはもう1度自分の部屋を見回す。
 ただ一言、ありがとう、と小さく呟いた。誰にも聞こえない、囁くような小さな声で。
 そして、神と共に窓から飛び降りた。

 
 
 「あれ……?」

 早朝から準備を進めていたレトは、会場の窓の外を眺めていた。
 曇っていて良く見えなかったが、きちんと分かるものが映る。

 「ロ、ク……?」
 
 レトの小さな声に、誰もが振り返る。
 そしてレトの見つめていた窓の外へと、一斉に視線を向けた。
 
 「おいおい、どういう事だよ……」
 「朝から出かけるなん……」

 レトの声は、そこで途切れる。
 隣にいた、奇妙な少年を見つけたから。
 ロクの隣で、何かを話している。

 「俺……行ってくる――――――――!!!」
 「お、おい、ちょ……!?……あぁーッ!!ったくもう――――――ッ!!」

 レトに続いて、サボコロも駆け出した。
 2人に驚いた蛇梅隊の隊員達は、準備を放って後に続いた。

 大きな門の前まで来ると、レトは豪快にその扉を開ける。
 鋭い雨が瞬間にレトを襲う……が、レトは動じる事なくロクの後姿を見つける。
 あの黄緑色の髪を高く結い上げて、――――――、右目が開いている。
 あれは紛れも無く、“神族としてのロク”だった。

 「お、い……―――――――――ロク!!!!」

 レトの声に反応したロクは、動じる事なく振り返る。
 開いた右目の視線が不気味にレトに突き刺さり、自然に恐ろしいという感情が込み上げてくる。
 レトに続いてやってきた皆が、ぞろぞろとレトの後ろに立っていた。
 そして、ロクに近づくように1歩1歩、ゆっくりと激しい雨の中を歩く。

 「何してんだよロク、今日は雨だから部屋にいた方が―――――」
 「……関係ないでしょ」
 「……!!?」
 
 ロクにしてはあり得ない程酷く低く、冷たく鋭い言葉がレトの言葉を遮った。
 この現状が理解できなかったサボコロは、思わずロクの目の前へ体を進めた。
 
 「おいロクてめ……!!」
 「よせ、サボコロ」
 「だけどよ、エン!!」
 「……―――――――――やぁ、哀れな蛇梅隊の皆さん?」

 エンがサボコロの体を抑えると、隣にいた少年……いや、ゴッドがそう言い放った。
 如何にも楽しそうな笑みを浮かべて、愉快にそう語りかける。

 「あぁ?」
 「貴様……何者だ」
 「何者って……神族のゴッドだ」
 「……!!?」
 「し、んぞ……く……」
 「僕達に休息はないんだ―――――――――、行こうかフェリー」
 
 ゴッドがロクの肩に手を回した瞬間、
 サボコロはまたもその背中に向かって叫んだ。

 「おい待てよ!!!ロクを何処に連れていくつもりだてめぇッ!!!」 
 「フェリーは神族だ。僕が如何しようか、僕の勝手だ」
 「って、めぇ―――――――ッ!!!」

 サボコロの怒りの限度は既に最高位に達し、遂には周りに炎を纏う。
 待てッ!!と言ったエンの声も聞かないで、サボコロはゴッドに襲いかかる。

 「炎げ――――――――ッ!!!」
 「……―――――――――――――、雷砲」
 
 刹那。
 金色の一閃がサボコロの横を通り過ぎ、後ろの方で莫大な爆音が鳴り響く。
 サボコロが次元技を唱えるのと、同時の筈だったのに。
 サボコロの真横を過ぎた雷砲は、地面に大きな傷を刻みつけ、そこから煙までたっていた。
 秒速13,7㎞の速さを誇る雷砲を―――――――、仲間に対して、放ったのだ。

 「……う、そだ……ろ……」
 「分かっただろう?フェリーはもう君達を仲間だとは思っていない。……じゃあーね」
 「おい……ロク、ロク!!」

 薄い黄土色のそのマントをふわりと翻し、ロクはゴッドと共に歩み出した。
 表情は何1つ変わらない。雨に打たれていても、仲間を裏切ったとしても。
 仲間を護る為に、仲間の為、だけに。

 「ロク――――――、なぁロクアンズ――――――――ッ!!!」
 
 後ろから駆け出したレトはロクの細い腕を掴んだ。
 確かに震えている、ロクの左手。
 だがロクはバッ!!っとレトの手を振り払い、

 「……わらない、で……!!」
 
 「……!!」

 「もう、あたしに……―――――関わらないで……――――――ッ!!!!」

 ただ、懸命に心を押し殺して、そう言った。
 ロクの虚ろな瞳から流れていたのが雨なのか、涙だったのか、
 その時は……お互いに気がつかなかった。

 ただ流れる雨の音だけが、レト達の耳を過ぎる。

 最後のあのロクの顔。
 あれは正真正銘の……ロクの素顔だった、のに。

 義兄のレトは、何も言えなかった。
 義妹のロクに、何も言えなかった。

 ロクの気持ちも、自分の想いも。

 何一つとして理解ができなかった……――――――――――。