最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第175次元 運命を背負いし橙の少女Ⅵ
「へぇー……、両次元とはなぁ……やるじゃねぇか、てめぇら」
「まぁ俺達だってだてに次元師やってねぇからな」
雷がバチバチと反発し合うその剣をレトヴェールは両手でしっかりと握る。
レトは軽く男を睨みつけると、剣を握り直した。
「――――――行くぞッ!!」
レトは右手で握った雷斬を派手に横に振るい、孤を描く雷を飛ばした。
男は片手をズボンのポケットに突っ込んで飄々と立ち、雷が襲うと同時に軽々しく避けた。
そして雷を避けると、持っていた鋸を軸がブレる程に震わせた。
「……ッ!?」
「く……、ひゃひゃひゃひゃ……、さっきの雷と変わんないですよぉー……?……糞餓鬼共がァァッ!!!」
そして紅蓮に燃えるその瞳を輝かせ、レトに向かって鋸を振り回す。
正確な場所は当ててこない、ただ無我夢中にレトの心臓を狙う。
「……―――くっ!!」
「おいおいおい……、倒せるんだろー?この女を救うんだろー?……こんなんで負けてちゃぁ……かっこ悪いよなぁ?」
「うっせぇな、舌噛むぞっ!!」
男が鋸を水平に振るのと同時、レトは飛びあがり、宙返りをして着地する。
そして改めて雷斬を握り締めた。
「雷斬りィィィーーーッ!!!!」
先程とは比べ物にならない程の大きな雷の孤を描き、それを男目掛けて飛ばした。
その驚異的なスピードについていけず、男との衝突直後に大きな爆音が鳴り響く。
「ぐ……くぁ……ああぁ……ッ!!」
男は喉元を抑え、必死に呼吸を整え出した。
苦しい、という感情だけが男を苦しめ、戒めた。
「……次元師にはなぁ、普通の人間にはないもんがあんだよ」
「……」
「だから神族に立ち向かう事ができる、神族に打ち勝つ為の鍵になる――――――、それが次元師なんだよ」
男は爆発により負傷した腕や足を抑え、無言のまま聞いていた。
次元師を馬鹿にした罪は消えぬ、消させはしないと、そうレトの瞳が訴えていた。
「……そうかぁ……そうなの、かぁあ……」
「……?」
「そうだよなァァ―――――――ッ!!!!」
今まで以上の狂いを見せた男は高らかに笑い、裏返そうな声を上げて鋸をレトの腹部に突き刺した。
激しい衝撃と苦痛に襲われ、多量の血を口から吐き出すレトの頭は少しだけくらりと揺らいだ。
「ぐぼぁあッ!!?」
「レト―――ッ!!!」
「くくくくく……面白いねぇ……、愉快だねぇ……、最高だねぇぇッ!!!」
レトの腹部に突き刺した大きな鋸を引っこ抜き、男はまたしても狂い笑う。
腹部から鋸を抜かれた激痛にまでも襲われたレトは必死の思いで呼吸をし、息を整えていた。
うっすらと浮かぶ目の前の景色が歪み、ロクの叫ぶ声も遠くなる。
レトは次第に意識が薄れ、瞼をゆっくりと閉じて倒れ伏せた。
「レ、ト……?」
「油断は禁物だぜぇ……少年よ?」
「……」
益々加速していくロクの鼓動。
十次元発動の為、失われた元力は多大。
にも関わらず、ロクは立ち上がった。
目の前にいる義兄への――――――、強き想いで。
「……そ……っか……」
「……あぁ?」
「……貴方、殺されたいんだね?」
「何言ってんだよ……、俺はな―――――――」
瞬間、
ロクの黄緑色の瞳が―――――――、淡く、鈍く、光る。
「雷砲――――――――――――――――ッ!!!!」
今此処で元力を使えば死んでいたかもしれないのに。
放たれた雷の一閃は、見事男を捉えた。
その輪郭がブレる程、その体が焼き切られる程、
一瞬の一撃は悪しき者を貫いた。
跡形も残らない、灰になった男はさらさら…とまるでこの景色に溶けるかのように、去った。
「ぐ……ぐぁ……」
流石に反動が大きいのか、ロクは吐血する。
赤黒いその液体を忌々しく見つめ、ぐったりと項垂れた。
息が荒い上に、鋭い痛みが体中を駆け巡る。
「セル……ナ……」
ロクは不意に、近くで怯えていた少女に目を向けた。
小刻みに震える肩を必死に抑えて、セルナは顔を伏せていた。
「ごめんなさい……でも、もう、私から離れて……っ!!」
セルナはまるでロクを怖がるように目に沢山の滴を浮かべて、そう言った。
だがロクは躊躇う事もせず、そっとセルナに近づこうとした。
が。
「……」
(……あ……、れ……?)
ロクは一瞬、セルナに向けて伸ばした右手をぴくり、と動かした。
耳に響くのは…何かの音。
小さくて聞こえにくいのは確かだが、正確に聞こえてくる間隔のとれた音。
時計の秒針のような音が、ロクの耳を通ったのだ。
だが見回す限りではこの部屋に時計は置いていない。
時計型通信機は念の為音を伏せてあるし、
通ってきた道、部屋…何処を探そうにも時計はなかった。
では…この刻まれた秒針の音は一体。
「……離れて……下さい……」
「セルナ……この音……」
「私……、わ……私……っ!!!」
既に泣き崩れてしまったセルナ。
その言動に…ロクは不信感を抱く。
そして…遂にセルナはその正体を口にした。
「私は……もうすぐ爆発します……――――――――――ッ!!!!」
時が止まってしまったかのように静まり帰る。
レトヴェール・エポールは血に塗れて起きてこない。
ロクアンズ・エポールもまた、次元技発動の反動により動く事はできない。
セルナ・マリーヌは怯えながら、泣きながら顔を伏せる。
声も出ない、手も動かない。
それでもロクは…セルナに歩み寄る。
「ロク……さ……っ」
目の前の少女に叩き付けられた残酷な運命。
もしそれを…自分の力で薙ぎ払う事が出来るのならば。
この命など――――――、惜しくない。
「セルナ」
「……」
「ごめんね?」
「……え……」
「きっとあたしは貴方を傷つける……、痛い思いをさせるかもしれない」
ロクアンズはただ、そう謝って、
「でも―――――――、絶対助けるよ」
いつもと同じ笑顔で、いつもと変わらぬ声で、
目の前の少女を救ってみせると…心から誓いを見せた。

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