最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第206次元 盲目の洞窟
第一次予選を突破し、第二次予選を迎えたレト達“蛇梅隊Aチーム”。
朝から支度をしていた丁度その時、レトの小型バックにつけたレストが、ピピピピピッ、と音を鳴らす。
「なんだ?」
「第二次予選の内容だ」
バックから取り外し、画面をじっと見つめる4人。
そこに書かれていたのは……。
「“盲目の洞窟を抜け、不惑を会得せよ”……?」
「……はぁーッ!?」
サボコロは声を張り上げた。表情からして嫌だと言うことが分かる。
続いてレトも顔を多少歪める。4人とも嫌ならしいが。
「意味わかんないし……ふ、ふわくって?」
「惑わない心……って事じゃねぇーか?」
「つまりその洞窟と関係があるって訳か」
「ふむ、元力は使わなさそうだな」
キールアはほっと安堵の溜息をつく。
前回の堕天使との戦いで元力を失っていたキールアにとっては、とても幸運な予選内容だった。
そんなこんなで、会場を後にしたレト達4人。
外に出て、Bチームに出会ったレト達は合流したまま8人で洞窟へと向かう。
洞窟……というからに周りは木々だらけで、鳥が羽ばたく様子も見られた。
そこには第一次予選を勝ち抜いてきたチームが集まり、審査官へと目を向けている。
審査官であろうその少年は、くるりと後ろを振り向く。
「えー僕がこの第二次予選の説明を行う、スイタラと言いますったら。あぁ、名前が変とか言うのは禁止なのったら」
名前より喋り方だろ、と心の中で何人が突っ込んだかは知らない。
スイタラという少年はレト達より年下に見えた。
きっちりと揃えられた淡い水色の髪の毛はその性格を表し、喋り方も……また、人柄を詳しく伝える。
そんなスイタラは、洞窟の奥を指差した。
「まずは説明からなのったら。奥へ案内するったら」
此処からではないのか、という疑問を抱く参加者達。
だが、それを聞く間もなくスイタラは進んでいく。
岩についた蝋燭を頼りに、レト達や他の参加者は進んでいく。
ついた先は……若干広い空間だった。
「えーと……第二次予選参加者チームはひーふーみー……12チームったらね」
丁度良い、と呟いたスイタラの声は誰の耳にも届かなかった。
確認を終えたスイタラはこちらに振り向き、えー、と言葉を続ける。
「ごほん、あぁーそれでは、只今より、第二次予選を開始するったら!!まずはくじを引いてほしいったら!!」
洞窟の穴は奥に6つある。まずはくじを引いて前半と後半に別れるらしい。
赤が出たら前半、青が出たら後半。
蛇梅隊Aチームのリーダーであるレトは恐る恐る引く。
出たのは、赤の色。
「俺達、前半だ」
「前半か……まぁ、先も後も関係はないがな」
ふっと笑ったエンの声を掻き消すように、スイタラは大声を張り上げる。
「えーではー、前半の参加者はどれでもいいので取り敢えず洞窟の前に立って下さいったらっ」
レト達は適当に、左から2番目の洞窟を選んだ。
どこも一緒で、選ぶ必要は殆どないが。
「制限日程は丸1ヶ月、食料は無しでも良いように洞窟の前に置いてある饅頭を食べて下さいったら」
洞窟の前にあったのは、至って普通の饅頭だった。
レトは、はむっと饅頭を食べてみる。
美味しいとも言えず、拙いとも言えない饅頭ならしい。
「それは1ヶ月間、人間の空腹を抑える饅頭ですったら。然し1ヶ月経てば急激に空腹が募ってくるったら。
つまり1ヶ月が限度ったら。制限日程に間に合わなければ失格に伴い死ぬ恐れもあるったら」
スイタラは淡々と言う。然し、次元師の表情は一変しない。
誰もが覚悟を持って此処までやってきた。今更逃げる奴もいないだろう。
「……では、開始ったらっ!!」
参加者は一斉に食べ始め、口に含みながらも洞窟の中へと消えていった。
ミル達Bチームは後半で、じっとレト達の背中を見つめる。
唯、無事と突破を祈って。
暗い闇に呑み込まれるように、レト達4人は進んで行く。
奥へ……奥へ。1歩ずつ確実に進んで行く。
入ってから始めに声を上げたのは、サボコロだった。
「おいおい……なんか普通じゃねぇーか?」
「盲目って言ってたけど……まだ明るいしな」
「うん……一体何を試すものなんだろー……この二次予選って」
薄暗い洞窟の中を、ゆっくりと歩いている途中だった。
段々と……辺りが暗くなるのが分かってくる。
思わずぴたりと動きを止めた4人だったが、また歩き始めた。
「もう何も見えないよ……だ、大丈夫かなぁ?」
「心配すんな。この洞窟は一本道。進むだけで辿り着く」
「で、でもよ……っ」
「視界を奪われただけで惑うなサボコロ。見えずとも進むだけだ。容易な事だろう」
冷静なエンの言葉を聞いて、サボコロは黙り込んだ。
然し、前には何も見えない。周りにいる筈の仲間の姿さえ見えなくなっていた。
(……あれからどれくらい歩いたんだ?)
レトは疑問を抱く。
あれから何時間も進んだ。然し何ら変哲の無い状態が続く。
レトは気になって口を開いた。が然し。
<<あれ……?俺、今喋ってんのか……?>>
一瞬の錯覚だった。
自分の声が、聞こえない。
<<おい……おい皆!!いるよなぁ!?>>
レトは声を張り上げたつもりだった。然し声は聞こえない。
自分は声を発しているのかも分からず、唯耳に触れる。
(別に耳が悪い訳じゃない……じゃあ何で……って……あれ?)
耳に触れた筈だったのに。
確かに手を伸ばした。自分の耳元に。
然し、感触がない。
(如何いう事……だよ……!!)
とりあえず腕を振り回そうとした。
だがそんな気すらしない。
足を動かして歩いているような気もする。
だがその感覚がない。
自分が本当に歩いているのか如何かさえ……掴めない状況だった。
それはレトだけでなく、一緒になって歩いている筈の他3人にとっても同じだった。
始めに視覚を奪われ、聴覚、触覚を奪われる。
遂には洞窟の独特な土の匂いさえ……感じられなくなった。
先程貰った饅頭の残りを多分噛んだ。然し味はない。
つまり、この洞窟に入って“五感”を奪われる事がはっきりと分かってしまった。
目の前が見えず、何も聴けず、触れられず、嗅げず……味わえず。
自分は本当にそこに存在し、生きているのかさえ。
それさえ狂わされる程、この洞窟は人間の本能を奪い取っていた。
唯“意識”だけを頼りに、1ヶ月間歩き続けろ。
それがこの第二次予選の本当の目的だった。

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