最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第098次元 新副班長



 バン――――――ッッ!!!

 「……あ~、びっくりしちゃった?」

 食堂である広い部屋の奥底まで響いた巨大な音。
 それは食堂の入り口の大きな扉だった。
 普通、あの扉は開けっ放しなのだが、どうやらレトが通った時に閉じてしまったらしい。
 門のように大きい扉を、班長が片手で開けたらしい。
 レトは1つ欠伸をして班長に顔を向けた。
 
 「……なんですか、こんな朝っぱらから」
 「いやぁ、緊急事態なんだ」
 「あー、またメイド喫茶ですか?」
 「そうじゃないんだ。蛇梅隊にいる全員の次元師は第二班長室に食事後すぐに来るようにッ!!」
 「全……、員!?」
 「任務中の人は?」
 「それはあとで連絡する。まぁ多分全員いるだろ」
 「まぁ、いるけど……」
 「これは班長命令だ。すぐに来るように」

 いつもとは違う真剣な表情に皆が一瞬にして静まり返った。
 さっきまで五月蝿いほどに騒いでいた食堂が、真夜中のような親密な空気に包まれていた。

 「んじゃ行きますか」
 「そういえば第二班長室なんて行った事ないよねー」
 「あぁ、場所は知ってるけど」
 「「あのー……」」

 レトの後ろから小さな声が聞こえた。
 レトが振り向くと、そこにはミルとリルダが立っていた。
 
 「あぁ、何だ?」
 「第二班長室って……」
 「何処、ですか……?」

 (そういえばこいつら入って間もないから知らないのか……)

 レトはまた1つため息をついた。
 ミルは少し苦しそうな笑顔を見せて笑っている。

 「第二班長室は1階の一番左端の方にあってあんまり使う事のない部屋なんだ」
 「へぇー……、レトって行った事ある?」
 「ないな。ほとんど呼び出しは第一班長室だったし」
 「あ、ありがとうございます……」
 
 リルダは少し照れながらお辞儀をしてミルと歩いていた。
 その時、誰かがリルダをひょいと持ち上げた。
 リルダは後ろに振り向くと、パァっという風に微笑んだ。

 「何だリルダー?可愛いくせにこんなに軽いんじゃ戦えるもんも戦えないぞー?」
 「「ヴェイン副班ッ!!?」」

 レトとロクが一瞬にして驚いたのは新しい第五番隊の副班長。
 ヴェイン・ハーミットだった。
 外見はいかにもおっさんらしく、長身でしかも蛇梅隊の隊服を上から羽織っている。
 左目が銀色、腰まで伸びた黒髪を器用に一本の紐で結んでいる特長的な人だ。
 リルダがなにとなく気に入っていて、結構遊ばれている。
 その時、ヴェイン副班の背中をゴズッ!!というように肘で殴る少女も見えた。

 「ごふッ!?」
 「あらあらヴェイン。早くしないと班長さんに御無礼がかかってしまいますわよ?」

 ヴェインの背中に一撃を入れたのはヴェインの相棒、マリエッタと呼ばれる少女。
 笑顔が絶えぬ、とても可愛らしい少女なのにも関わらずこの光景。
 レトはどう突っ込んだらいいのか非常に迷っていた。
 とりあえず、

 「ヴェイン副班」
 「ん?」
 「見なかった事にしとくよ」

 と、親指を立てながら笑顔で走っていった。
 皆に見捨てられたヴェイン副班。 
 その悲しげな存在にロクも一言。

 「多分、性格の問題じゃないかなぁ?」
 「放っとけよッ!!というかそんなさらっと言うなッ!!」
 「あぁ……、そうですか」
 「あらあら。もうこんな時間です。行きましょう、ヴェイン」
 「……そう、だな」
 「っていうかヴェイン副班」
 「ん?」
 「マリエッタもついてくるの?」
 「あぁ、一応俺の次元技なんで」
 「えぇぇぇッ!!?」
 「あらあら。一応だなんて失礼ですよ?ヴェイン」

 マリエッタは懐から笑顔で太刀を抜き出した。
 その不適な表情は何とも言えず、マリエッタは逃げるヴェイン副班を追いかけた。

 「待てマリエッタッ!!悪かった!!悪かったってばぁぁあああぁッ!!」
 「あらあら。今の言葉が許されるとでも思うのですか?」
 
 以上に不思議な光景にとりあえず小さく拍手するロク。
 この人が第五番隊の副班なんだな、と心成しか落ち着いていた。
 
 後にマリエッタがヴェインを引きずってロクの横を過ぎ去っていった事は黙っておこう。