最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第156次元 データ
「うっひゃぁー……」
あまりの光景にレトは感嘆の声を上げた。
辺りは真っ暗で、太い管が床、壁、天井にまで延々と続いていた。
コンピューターや情報データの装置まで……あらゆる物が壊され、形を保っていなかった。
バカ広いこの研究所に入り込んでから約10分。
誰にも会わず……また何の音も聞こえなかった。
「どうなってんだよ……」
「扉が開いてたという事は、誰かいるのには間違いなさそうだ……」
「でも何の音も聞こえねぇーぞー?」
「薄気味悪いし……お化け出そうー……」
「今時何言ってんだよ」
「だってだって~~っ!!!」
レトの背中に縋り付いてキールアは辺りを見回す。
お化けなど非現実的な物を、未だに信じているらしいが。
それでも科学術の1つ……次元技を司る者なのだろうか。
「あれ……こっちの扉開かねぇぞー?」
「こっちもだ」
「んじゃ……この扉っつう事か?」
レト達の前に佇むのは、大きく真っ赤な扉。
その禍々しさに平常心を奪われそうになるが、
4人は顔を頷き合わせて、冷たい扉の表面に手をついた。
「「「「せーのっ!!」」」」
流石4人の力だけあって、軽く呆気もなく開いてしまった。
その先には広い部屋が広がっていたが、
やはり研究所だけあり、周りはごちゃごちゃだった。
そこで、誰かの靴音が耳に入った。
「皆、隠れろ!!」
小声で話すレトの指示により、皆は近くの機械の裏に隠れた。
歩いてきたのは……白衣を来た中年の男。
中年と言ってもただのおじさんで、黒ブチの眼鏡にいかにも汚そうな靴を履いていた。
ここの研究所の主だという事が、はっきりと分かった。
「……“ML368”……、来てるかぁ?」
何とも厭らしい声で、この男は言う。
口から出た“ML368”というのは誰かの名前だろうか。
もう1度靴音が鳴り響く。
だがそこにいたのは―――――。
((((―――――ッ!!?))))
「……はい、既に到着しております」
桃色のミディアムヘアで、見覚えのある隊服を羽織り、
いつもとは違う威厳の強さを感じさせる、
幸福と処罰を与える少女。
「おぉ……流石だML368」
「それで、データの集計ですが……」
淡々と話を始めるミル・アシュランは、まるで別人のようだった。
いつもは明るい元気な瞳が壊れた人形のようで、
いつもは可愛らしい性格がまるで機械のようで。
全く違う別人を演じていた。
(ミル……どうして……っ)
誰もがこの時疑問を抱く。
確かにミルを追ってきたのだが、
こんなに変わり果てた姿は普段のミルからは想像もできない。
ミルは何かの情報データを白衣の男に淡々と述べていた。
戸惑いもせず、躊躇いもせずに。
全てを報告し終えると、ミルは手に持っていた紙を静かに下ろした。
「……以上です」
これは本当にミル・アシュランの声なのだろうか。
冷たく、感情も感じさせぬ声のトーンはやや低く、“恐怖”を覚えさせられる。
男はふむふむと頷きながら聞いていたが、話が終わるとふぅっと安堵の溜め息をついた。
「……どうやら本物の情報みたいだね。ご苦労、ご苦労」
「……博士」
「なんだい?」
「まだ……あの“データ”は渡してくれないのですか?」
「まだまだ……これからだよ?」
「……ですが……っ」
「――――また、犠牲者を増やす?」
男の禍々しい殺気にミルは一瞬体を震わせた。
とてもあの笑顔からは殺気など感じなかったのに。
するとミルと男は2人で別の部屋に移動してしまった。
何かを話し合うみたいだ。
その行動に、4人の気持ちは固まった。
全員で顔を頷き合わせ、ようやく決める。
この問題を、最後まで求めてみよう、と。

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