最強次元師!!
作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw

第176次元 運命を背負いし橙の少女Ⅶ
「たす……、ける……?」
「うん、そうだよ……、でも、ちょっと我慢してほしい」
ロクアンズはそう言ってそっとセルナから離れ、持ってきていた白い布のような物でレトの応急処置を始めた。
そして通信機でキールアに来て欲しい、と一言告げると、そのまま切ってセルナの方へ戻った。
今から応戦に来るとなると、最低でも10分は掛かる。
それまでの間になんとかセルナを救い出さなければいけなかった。
「……セルナ、もう時間ないから落ち着いて話を聞いて欲しい」
「は、はい……」
「あと、何分持つ?」
「もう……何分という単位じゃないんです……55……、54……、もう1分きっちゃ、って……っ」
「……分かった、じゃあセルナ、じっと目を瞑って―――――多少痛いけど、我慢して」
「ロクさんは……な、何を……?」
「――――――――――――――貴方の体内にある爆弾を射抜く」
突き抜けたような、凛とした眼差しがセルナに向けられる。
光沢のない機械の瞳。
開く事のない、閉ざされた右目。
そのロクアンズという存在全てが―――――セルナの心をも射抜く。
「ねぇ……、どうして爆弾なんか?」
「わ、私が……逃げてたから……です」
「逃げてた?」
「は、はい……。それで怒って、逃げたら爆発させる……って……、それで……怖くて……っ」
「分かった……、爆弾の場所は何処?」
「胸の、下辺り……です……」
静まり返る部屋。
ロクが静かに目を閉じて機械音のする位置を把握すると、右手でそれを示すかのように、撃つ体勢に入る。
だが。
「あの……ロクさ……っ」
「ん?」
「気持ちは分かりますけど……でも」
「……」
「それではロクさんが死んでしまう――――――――っ!!」
セルナの叫んだ言葉は、ロクの脳裏を過ぎった。
これ程までに至近距離で雷砲を放つと、ロクにも被害が出てしまう。
かと言って遠距離だと…狙いが定めにくい。
「……大丈夫」
「……え……」
「あたしは死なない―――――――、死ぬ訳にはいかないから」
刻々と迫る時刻。
ロクはもう1度深呼吸をすると、右手を構えた。
途端、失敗するのではないか、誤ってセルナを殺してしまうのではないか。
そういう不安が、ロクの頭を過ぎる。
「大丈夫――――――――」
だがロクは、1つ冷や汗を掻いただけで、
戸惑いなど、しなかった。
「――――――――――――、きっと、また笑えるよね?」
一瞬、セルナの瞳にはロクの背後に別の人格が見えた。
笑っている女性。
とても美しい緑の髪をした――――――――――、それはもう、女神のような女性が。
「雷砲―――――――――――ッ!!!!」
細い光がセルナの胸を下辺りを突き抜ける。
瞬間、突き抜けた後の雷が部屋の壁を突き破って外へと出る。
大きな爆音が鳴り響き、外の明かりも漏れてきた。
突き抜けた位置は実に正確で、綺麗に小さな穴が開く。
たった少しの間だけ痛みを感じたが、セルナは安心をしたのか、倒れ伏せた。
(さっきの人……、ロクさん、じゃ……な、か……っ)
思い留めながらも、セルナは目を閉じて倒れてしまった。
反動が大きかったのか、飛び散った雷の破片がビリッっとロクの体を襲い、見事痺れてしまった。
あんな至近距離で雷砲を放つのだ、無理もない。
少し焼けた体を支え、ロクは援助を待つ。
(やば……、無茶苦茶痛いし……、疲れたし……、もう……――――)
そして、ロクがばたりと意識を失い倒れたのと同時、
髪の毛を2つに結わえた少女が、この3人に救いの手を差し伸べる。
真っ白な部屋に響く時計の音。
その針は、実に4時の方向を指し示していた。
うっすらとぼやける視界を広げ、きょろきょろと辺りを見回す。
軟らかなベッドの上…どうやら助かったらしい。
「はぁ……」
ロクは1つ、大きなため息を零すと、またベッドに倒れこんだ。
横で寝ているのは自分の兄だという事が分かったが、セルナがいない。
別の部屋にいるのか否か…そんな事を思っていた。
「あ……っ!!」
部屋の扉が開いた途端、少女の凛とした声が部屋に広がった。
片手に書類を抱えた少女、キールア・シーホリーは駆け足でロクのベッドへと向かってきた。
「ロク……、もう起きて大丈夫?」
「あ……、うん。……それより、レトは?」
「あぁ……審査の結果、かなり胴体に損傷が見られるの。刃物か何かで……突き刺されたんでしょ?」
「うん、近くにいたのに……ごめん」
「大丈夫だよ、レトってほら、結構タフだからさっ!!……それに、2人が助かってホント良かった」
「あと、もう1人……」
「え?」
「あともう1人、いなかった?眼鏡かけたオレンジ色の髪の……女の子」
「あぁ……いたけど、治療が終わったらすぐにどっかに帰っちゃったよ?」
「そ、っか……」
「あと、『本当に有難う御座います』って……何かしたの?」
ううん、特に、とロクは目を逸らして笑顔で言った。
そっか…無事なんだ、と小さく安堵して。
キールアは少し不思議がると、レトの方の様子を見て、さっさと何処かへ消えてしまった。
部屋にぽつりと、残されたロク。
だが、悪い気はしない。
損傷もしたし、僅かな元力も削ってしまった。
もうこれ以上使えないな…とため息交じりにそう漏らし、また窓越しの空を見つめる。
「また何処かで……会えるといいな」
そう、ロクは願いを空に託した。
まさかその願いが、
数日後、叶えられるとも知らず。

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