最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第219次元 大将決戦



 「……キールア?」
 
 金髪の少女、キールア・シーホリーはむくりと起き上がった。
 長椅子に寝そべっていたらしい。キールアは、はっとした顔で手すりに捕まった。
 
 「れ、レトは!?」
 「今、戦ってる」

 彼女は、反動で動けなくなった体を必死に起こし、手すりにしがみ付く。 
 そしてそう、下に見える幼馴染の姿を瞳に映した。

 (レト……)

 自分に出来るのは、ここまで。
 キールアはぎゅっと指を絡ませ、祈るばかりだった。


 相手の次元技は十大魔次元の一つ、岩皇。
 水や風なんかと違って固体な為、双斬でも対抗しやすい。
 だが一発目でなんなく十字斬りを相殺したとなると、リフォル・アーミストはかなりの手練れと見て良いだろう。

 「残念だけど、俺はここで負ける訳にはいかねぇ」
 「……それはこちらとて、同じ事よ」

 そろそろ煙が晴れる。
 レトヴェールはしかと前を見据える、そして。

 「――――――――ッ!!」

 地面を踏み締め、加速する。
 そして彼は――――――煙が晴れたと同時にレトの懐に飛び込んだ。

 「岩柱――――!!」

 そう、リフォルは地面に手をつけレトを上空へ吹っ飛ばす。
 反撃する間も与えられないレトは、喉元を軽く抑えた。

 「ぐ、ぁ……!?」

 更にリフォルは、レトの目の前にいた。

 「岩――――――ッ」
 
 リフォルが拳をひっこめ、構えた瞬間、
 レトは腕で双斬を自分の頭より高く上げ、

 「堕陣必撃――――――!!!」

 それを、思い斬り振り下ろした。
 遥か上空から一瞬の時を経て地面に突き落とされる2人。
 リフォルは自分の拳を取り巻いていた土や岩がぱらぱらと崩れていくのを感じる。
 煙の向こうにいるのは、左腰を抑え苦しくも笑う少年。
 彼はそれでも、両手剣を強く握り締めた。

 「あれで……終わると、思うなよ……ッ!!」

 レトは両手に握られた双斬を自分の体より後ろに構えた。
 その行動にびくつくリフォルは何もない腕を体の前に出す。

 「第七次元発動――――――――八斬切り!!!!」

 刹那の間。
 リフォルの表情が変わる事なく、煙が裂け、赤い液体が飛び散った。
 堕陣必撃の時の煙が残る中、更にレトは八斬切りを繰り出す。
 何というスピードだろうか。試合開始から5分も経っていない。

 「す、すげぇ……」
 
 思わず言葉を漏らすサボコロ。
 その横で無言ながら会場を見つめるエンも、じっと煙の先を見据えていた。
 2人が、レトの攻撃が当たったのだと錯覚する。

 ――――然し立っていたのは、レトヴェールではなかった。

 「「!!?」」

 エンもサボコロも、同時に驚く。
 レトヴェールは赤い液体に滴っていた。
 苦しみながら、レトは必死に手を動かす。
 
 「嘘だろ……!?」
 「一体何が……」

 レトヴェールは確かに、リフォルの陣へと斬り込んでいった。
 然し煙で観客は見えなかったが、中ではレトは攻撃を塞がれていたのだ。
 リフォルの、岩撃で。 
 攻撃を塞がれ、その場で体勢を崩したレトに向かい、岩弾を放つ。
 体中を痛めつけられたレトはそのまま地面の上を転がり、自分の血に塗れていた。
 
 つまりたった一瞬で、展開が一変してしまったという事。

 「ふむ……決して悪くない斬り味だな」

 リフォルは傷一つ負わず、そこに佇む。
 レトはやっとの思いで、それでもふらつく足つきで立ち上がった。

 「へへ……そうだろ?」

 今もそう、自信に満ち溢れた表情で。
 軽く口元を拭うレトは、もう一度、しかと地面を踏み締めた。
 それに何やら、リフォルは自分の頬をすっと撫でた。

 「……この私に傷をつけるとは、意外だったな」

 その撫でた箇所から、血が僅かに流れる。
 どうやら、絶対敵わない相手ではなさそうだ。
 
 「やっぱか……よっと」

 レトは何といきなり上着を脱ぎ出した。
 その重く黒いコートは、ばさっという音をたてて場外に転がる。
 レトは黄色いTシャツ一枚になると、ぐっと腕を伸ばす。

 「れ、レト!?」
 「あいつ……何をしているんだ?」
 「……な、なんつうか……」
 「そうだな……あれを見てると……」

 サボコロもエンも、少し顔を見合わせて、


 「「――――――――――、ロクに似てる」」


 そう、戦う時はいつもコートを脱いでいたあの少女。
 ロクアンズ・エポールにそっくりだと、そう思った。
 あの姿は、ロクの戦闘スタイルに良く似ている。
  
 「……気合の入れ直し、というやつか」
 「ま、そんなとこかな?」

 恥ずかしいからと言って、レトはそんな事をした事がなかった。
 でも今はまるで、あの義妹と共に戦っているのではないかと。
 そういう錯覚さえ覚える。

 「どうでも良い事を聞いたな――――――――、岩砲!!!」
 
 リフォルは勢い良く掌を前に突き出した。
 そして放たれる岩砲は、レトの目の前に迫り、そして。


 「第七次元発動――――――――十字斬りィィィッ!!!!」


 その砲撃を、真正面から受け止めた。
 
 「う……ぐっ……――――――うぁぁああああッ!!!!」

 全ての風を斬り抜け、十字の真空波は――――、岩砲を見事に打ち砕く。
 
 「――――!!?」

 十字の真空波は岩の塊を砕き渡り、僅かリフォルの掌に触れた。
 そしてリフォルは、奥歯を噛み締め、

 「ふ、……ざ、けるなァァ―――!!!」

 その怒号と共に放った岩撃で、真空波を打ち破った。
 然しレトヴェールの気配は、ない。

 
 「――――――なぁ、どっち見てんの?」

 
 挑戦的な、その声。
 金髪の彼は、双斬を頭上高く振り上げ、

 「真斬――――――――ッ!!!!」
 
 振り向いたリフォルの背中に、思い切り振り下ろした。
 衝撃と共に前方へ飛ばされるリフォル。
 そのリフォルを攻撃したのは、“真斬”。
 剣の刃に持てる全ての力を集中させる、絶対的強化系の技。
 然しその反動で動けなくなる場合もあるのだとか。
 レトは地面に膝をつけながらも、また、もう一度立ち上がってみせた。

 「お、おいおい……レトってこんなに強かったか?」
 「……あいつは戦場にいてこそその実力が伸びる……そういう特性を持っているという事か……」
 「まぁ……流石“あいつ”の義兄なだけあるって事か……」

 エンもサボコロも気付いていない。
 いつのまにか互いに言葉を交わし合っている事に。
 その事に微かに気付いていたキールアは、少しだけ微笑んだ。
 
 「流石に……易く勝たせてはくれないらしい、な……」
 「当たり前だろ。……勝たなきゃいけねぇからな、絶対に」

 レトの瞳に、闘志が宿る。
 譲れない戦いが、決して負けられない戦いが、両者の間で繰り広げられる。
 そして彼等は、お互いの武器である次元技を構え――――、


 「「第八次元発動――――――――!!!!」」

 
 ――――――、天に届けるかのように、そう吠えた。