最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第093次元 屈辱の娘



 大きな欠伸をして午前7時。
 レトはまだ寝ぼけている体を必死に動かして隊服を着たり、髪の毛を結んだりする。
 そして、いつものように食堂に向かう。

 「はよ、ロク」
 「おっは~、もう仕事あるのに寝すぎだってば」
 「わりぃな、眠くてしょうがなかったんで」
 「ま、いいけど」

 ロクの机の上には朝から超ハードなメニューが並んでいた。
 ミートパイ、カルボナーラ、メンチ、ハンバーグ、クッパ、トムヤンクン、グラタン、スープ……。
 よくこんな食欲があるなと思いながら口にパンを押し込んでいくレト。

 「キラーの捕獲があるから、朝から探索だよ」
 「あぁそうだったな。街を見歩くだけでいいんだろう?」
 「捕獲もだよ。もうー……」
 「うげー、もう動きたくねぇ」
 「おっはよ、レト、ロク」
 
 後ろからレトとロクの肩をとんっと叩き、白衣姿で現れたのはキールアだった。

 「おぉー、おはよう~」
 「はよ。お前も早いなぁ」
 「当たり前よ。あたしだって仕事あるもん」
 「楽しいか?」
 「うんっ。おかげさまで」
 「そか」
 「今日はちょっと街に薬の買い物行くから。医療部隊の人達に言っておいてくれる?」
 「自分で言えば良いじゃん」
 「今から出かけるし、時間ないから」
 「そうーかい」
 「行ってら~」 
 「行ってきますっ」

 キールアも何かと大変そうで、また朝から仕事のために買出しに行く。
 レトは朝やる気がでないためにぐだぐだと朝ご飯を食べていた。

 「ロクー、そろそろ戻る……ぞ……」
 「おかわり下さいッ!」
 「……もういい、やっぱ俺1人で行くわ」
 「えぇーっ!?ちょっと待ってよーっ」
 「お前を待ってると100万年は経つわ、阿呆」
 「何それ……」

 レトは体の影響で軽い食事だけを取り、暑苦しい食堂をあとにする。

 (あと何年……、この体なんだろう、俺)

 デスニーに騙され、殺されかけた自分の体。
 だが、どうしてあの時デスニーはレトやロクを殺そうとしなかったのか。
 普通、神族の目的は人間を殺す事に該当する。

 (ま、そこらへんはあれだな。運が良かったとか……)

 考える事さえめんどくさくなってしまったレトは廊下を歩きながら今日何度目であろう欠伸をした。
 ちょうどその時だ、班長がレトの目の前に現れたのは。

 「あ、班長」
 「今日も元気ないなぁ、レト。女の子に逃げられるぞ?」
 「それは班長だけだろ、んで?」
 「……、じ、実はキラーの捕獲をお前ら兄妹に頼んだよな?」
 「あぁ」
 「キラーが、街の中でうろついているという目撃情報が入ってきた」
 「ッ!?」
 「2人には直ちに現場へ向かってもらう」
 「あぁ、んじゃロク呼んでくるわ」
 「……それと」
 「?」
 「今度ばかりはかすり傷じゃすまされん。気をつけてかかれ」
 「……了解っ」

 レトはやっとやる気が出てきたのか、走ってロクを呼びに行った。
 ロクもちょうど食事が終わったところで、準備万全のまま街に出た。
 センターは今日も賑やかで、とてもキラーが潜んでいる街だとは思えなかった。
 
 「ねぇレトー」
 「あぁ?」
 「そういえば……、キールアって街に出かけたよね?」
 「……ッ!そういえば……」
 「ちょっと、危険なんじゃない?」
 「だが、相手はあくまで剣闘族。何の罪のない人間をむやみに殺す事はできないはずだ」
 「そっか……、それならいいんだけど」

 ロクは少し不安を抱えながら、ペースを速めて探索を続けた。


 (これ……と、あとこの液体も重要かなぁ……)

 キラーが街に潜んでいるとも知らずに賢明に薬を探しているキールア。
 その光景はいかにも楽しそうで、お店の人とも気軽に喋っている。
 
 「まいど、お嬢ちゃん。物好きだねぇ」
 「はい、医者を目指してるのでっ!」
 「そうかい、頑張れや」
 「ありがとうございますっ!」

 蛇梅隊で医療部隊として活躍しているせいか、すっかり医療の道にのめりこんだキールア。
 街の人からも、多くの信頼を持たれていた。

 (さて……、次はっと……)

 キールアは、はしゃぎながら歩いていた。
 家と家の境目の狭い道で、キラーが見つめているとも知らず。

 (あの娘は、この手で俺が殺す……、10年前のあの屈辱を晴らすため――――――)