最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第213次元 翼



 ――――――――――これは、私が幼かった頃の話。



 
 私は……小さな村に住んでいた。
 父と母と、妹と弟と……私。
 5人家族だった私。例え貧しくても、楽しかった毎日。



 『ま、ま――――――?』



 どうしてかは、未だ分からない。
 唯私は……怯えてた。
 

 『ごめんねファイ……これが運命なの』


 そう――――――――――、焼印。


 『どうして……?い、ぃやだよ……どうして――――――ッ』


 シェンランド王国。
 その支配下にあった私の村で……ある事が義務付けられていた。
 そこの住民は必ず体に焼印を入れる……という事。

 焼印なんて、痛いなんてものじゃなかった。
 まだ小さかった弟と妹はそれだけで体がボロボロになって、
 必死になって抵抗したせいで死刑。
 
 私の家族はいつの間にかいなくなっていた。

 怖かった。
 この廃人の生活も、誰1人知らない世界も。



 「何だァ?お前らちゃんと働けよ!!!」

 貧富の差が激しくて、無銭で働かされる日々。
 王国にいた人達が毎日のようにこの村にやってきた。

 廃れた村。支配下に置かれたその日から、変わってしまった私達の村。
 この時から……私は“感情”というものを失っていた。
 
 「……おいそこの女」
 「……」
 「お前だっつってんだよ!!!」

 振り向けば、そこには王国の人がいて。
 私はその人の事を……きっと嫌な目で見つめていたんだ。

 「何だよその目。歯向かったら命はねぇっつってんだろ?あァ!?」

 人の親を餓死させといて……良くもまぁそんな事が言える。 
 私の大事なものを……奪っておいて。

 「生意気だなァ?少しは口でも聞いたらどうだ?」
 「……必要性を感じません」
 「お前――――――――、死にてェのか!!!」


 死にたい……? 
 そう……できるなら、私は今すぐ死にたい。
 死んですぐに――――――――、家族に会いたい。

 

 多分この時が……私の感情が昂ぶった、絶頂の頃だった。 
 そうだって――――――――殺したい程憎んでたのだから。


 「次元の扉――――――、発動」


 私は……そう。
 ――――――、次元師だったんだ。

 
 「な……なんだ、よその翼――――――――うあァァァッ!!!!」

 
 
 「――――――――私はもう……何もいらない」




 何もいらなかった。
 家族さえいれば、何もいらなかったのに。

 「な、何だ……?」
 「あっちでなんか爆音が鳴ったぞっ」 
 「様子を見に行こう」


 その後私は自分で何をしたか……もう覚えてない。
 でもこれだけは分かる。 
 最初に次元技を発動した時……私にはもう理性がなかった。


 人間としての感情も、
 廃人としての目的も。


 自分で気がついた時にはもう……村は壊滅していた。
 残りの廃人達は何処か遠くへ逃げ、王国の人々は引き上げた。
 自分でした事だったと気付くまで……一体何日掛かっただろう。

 
 本当の本当に、独りになった私。
 行く宛もなくやる事もなく。
 いっそシェンランド王国を襲って、国ごと潰してしまおうか。
 そんな事も考えたけれど……後になって面倒くさい事に気が付いた。


 
 ――――――だから、あの人に出会った時は驚いた。




 『君……1人?』

 『……そうです』
 
 『じゃあ俺と一緒にいない?俺、そういう子放っておけないんだけど』

 『人と関わるのが、好きではありませんので……遠慮、しておきます』

 『小さくて可愛くて……序に次元師なのに?』


 そう、ルノス・レヴィンに。


 『良いからおいでよ……俺は裏切らないよ』



 彼は、本当に優しい人だった。
 彼も私同様次元師で、幻覚を使う次元師。
 何度も何度もその幻覚に騙されて遊んで……正直楽しいとさえ思っていた。 
 1度は失くした感情が、湧き上がってくるのを感じた。

 
 『貴方と遊んでいるのは……楽しい』
 『そう?、そうだと嬉しいけど』
 『うん……』

 
 彼は次元師の極意やら何やら……沢山の事を教えてくれた。
 まるでお父さんみたいに……。
 凄く凄く、優しくて強い人だった。

 
 『なぁファイ』
 『……?』
 『もう……独りになったりすんなよ?』
 『……どうして?』
 『独り程寂しいものは……ないからだよ』

 彼……ルノスは語ってくれた。
 自分の過去を。
 
 『……分かった……』
 『あと……誰にも負けない強さを……お前にも知ってほしい』
 『誰にも負けない……強さ』
 『うん……、それを見つけられたら、お前はもう独りで悩む事はないよ』





 それが彼の最後の言葉。
 彼はその翌日……私の目の前から消えた。

 メッセージを残して。



 『ファイ……ごめんな。
  俺には、もっと大切なものができちまった。
  お前の事……ずっと傍で見ていたかったけど……。
  
  ファイ……自信もっていいよ。
  お前は何かを失った時、どうすれば良いかをもう知ってる。
  
  本当の強さを……見つけろよ』


 
 もう何にも負けないと。
 そう、心から誓った。

 自分にも、心にも。
 
 
 『強く……なる。……本当の、強さで……』


 独りに、慣れない事。
 それを教えてくれたルノス。
 
 その後私は沢山の人と出会い、戦い、共に時間を過ごした。
 これはきっと……ルノスからのプレゼントなんだと、そう信じたい。





 
 ――――――――――――――――だから。



 
 「終わりです……もう、負けないと誓ったから……っ」

 ファイは2人の少年に向き直る。
 苦しかったあの日々を。楽しかったあの日々を。
 思い出して、噛み締めて――――――、そして。


 「サボコロ!!エン!!!、ちゃんと前見――――――――――!!!!」


 レトが再び大きく叫んだその時にはもう、
 ファイの腕は動いていた。



 「もう2度と――――――――――――」



 ファイは、その蒼い眼光で――――――、もう1度誓う。


 
 「――――――――――――、翼は畳まないッ!!!!!」



 もう二度と、独りにはならない。
 もう二度と、彼の言葉を忘れない。
 



 「「――――――――――――ッ!!!?」」



 2人が気付いた時にはもう――――――――遅かった。


 
 「紫踊大裂星――――――――――――!!!!」


 
 幾つもの紫の羽根。
 それが踊るように、2人の体を引き裂きながら舞う。

 それはまるで踊る妖精のように。
 然し残酷に――――――――少年達の信念を砕く。