最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第125次元 世界一の宝物Ⅱ



 「ちょっとっ!!あたしはチョコのケーキって言ったはずだけどッ!?」
 「そうでしたか?いつもクリームをお頼みになられるので、そちらかと」
 「謝る気あるの?」
 「いえ、全く」
 「もう~~っ!!!」

 今日も宮殿は騒がしい。
 新人執事のガネスト・ピックと、
 次期王女のルイル・ショートス。
 この2人を見て、ため息をついていたのは多くのメイド達だった。
 毎日毎日喧嘩三昧。こんな2人を一緒にいさせていいのかと、不安を抱えていた。

 「前の執事の方が100万倍は良かったぁ~~ッ!!」
 「僕だってさっさと終わらせたいです」
 「……もう、知らないっ!!」
 「ご勝手に」
 
 ルイルは怒りのあまり部屋に戻ってしまった。
 ガネストが綺麗に立っていると、メイド達が集まってきた。

 「どうなさいました?」
 「ちょっと、いいのかしら?ルイルお嬢様にあのような口をきいて……」
 「あれでなくては次期王女は務まりません。もう少し厳しく接するべきです」
 「え……ただ端に王女が嫌いなだけじゃないの?」
 「それだけだったらもう逃げてますよ。王女には王女らしく生きていって下さらないと」
 「……でも」
 「……そういえば、ルイルお嬢様には亡きお姉様がいらっしゃるとか……」
 「……ッ!?」
 「そうよ、でも不運の事故で亡くなって……それからよね」
 「……?何がです?」
 「ルイルお嬢様、お姉様がいた頃にはまだ明るくて元気だったのよね」
 「そうそう、でもお姉様が亡くなってから、すっかり笑顔が消えたのよ」
 「まだあんなに小さいのに……」
  
 (お姉様の死により笑顔を失う……か)

 「でも……それだけであんなになるとは……心の弱いお嬢様だ」
 「そんな言い方……ッ」
 「……これが現実ですよ?メイドさん」
 「……ッ!?」
 
 ガネストは夕食の準備を済ませ、颯爽とルイルの部屋へと向かった。
 ガネストは扉に手をかけたが、中から声がする事に気がついた。

 「……?」
 「お・・姉……ちゃ……っ」
 
 (レイルお姉様……か)

 「本当は……いたい……に……」
 「……?」
 「笑い……たいのに……っ!!!」
 
 (――――――ッ!?)

 「寂しい……会いたいよ……お姉ちゃん……っ!!!」
 「……何も、言えない……か」

 ガネストはルイルが泣き止むまで、ずっと扉に背をもたれ、立っていた。

 

 「おぉー……良く来てくれた、感謝するぞ次元師殿」
 「はい、兄は急用で来れないんですけどね」
 「構わん、任務の方は、内容はもう……」
 「はい、承っております」
 「そうか……ではあの2人を頼むぞ」
 「はいっ!!」
 
 (優しい国王様だなぁ……。レトもあれぐらい優しければ……)

 なんと、ロクの任務先が、ここショートス家の宮殿だったのだ。
 その内容も定か……あの執事と王女の事だった。

 「どんな人達だろうなぁー……」

 ロクが期待しながら部屋に向かうと、扉の前で寝息をたてながら立っている少年がいた。
 あの姿からして執事だろう、とロクは確信した。

 「何やってるんだろう」

 ロクは、執事の肩をとんとんと叩いた。
 でも起きる様子がないのでロクはすぅっと息を吸い込み……。

 「起きろーーーっ!!」
 「おわぁッ!?」

 ガネストの耳元で叫んだのだ。
 ガネストは耳を抑えながらもロクの方に顔を向けた。

 「だ……誰ですかっ!?」
 「……ねぇ、そのご飯、冷めちゃうんじゃない?」
 「大丈夫ですよ、暖房効果が施されてますから……」
 「へぇー……今の時代ってすごいねぇ」
 「貴方も今の時代じゃないんですか?」
 「……あ、そっか」 
 「……誰ですか?と聞いてるんですが」
 「……聞きたい?」
 「はい、できれば簡単に」
 「いいよ、教えてあげる」

 ロクは自慢げな顔でふふふっと笑い、腰に手を当てて空いた右手の人差し指をビシッっと突き出した。

 「蛇梅隊戦闘部隊第二番隊ッ!!ロクアンズ・エポールだぁぁぁぁーーーーッ!!!」
 
 (……な……っ!?)

 ガネストは呆気に取られて声も出なかった。
 その恥ずかしいポーズをよくできるな、とガネストは感心した。
 
 「……どうしたの?」
 「んで、そのロクアンズさんは何しに来たんですか?」
 「任務だよ、勿論極秘♪」
 「はぁー……」

 (本人達には喋るなって……言われたね)

 「せいぜい邪魔にならないで下さいね。……次元師さん」
 「……何言ってるの?」
 「?」
 「君と王女も、次元師でしょ?」
 「……ッ!?」
 「図星だねぇー、分かるもんは分かるのよ」
 「……なんという直感ですか」
 「さぁ?まぁ蛇梅隊に勧誘するつもりはないけどねー」
 「……」

 (のろけた口調……エポールの姓……間違いないな……)
 
 「蛇梅隊始まって以来の期待の新人、エポール兄妹の妹さんですね?」
 「ほぉ……、良く知ってるねぇ」
 「まぁ、そこらじゃ有名ですから」
 「え、もう有名なの?この国も?」
 「ええ」
 「ほぇー……」
 
 この宮殿に入り込み、任務をしにきた蛇梅隊新人隊員のロク。
 ルイルは泣き疲れたのか、すやすやと眠っていた。
 
 我儘王女と冷酷執事の目の前にようやく現れたロク。
 ロクは、どうやって2人を変えるつもりなのだろうか。 
 その真相はまだ、誰にも知られない。