最強次元師!!

作者/瑚雲 ◆6leuycUnLw



第205次元 失われた力



 第1次予選、『フェルウェイの国に行き、“真”の真実を暴け』を見事突破したレト達【蛇梅隊Aチーム】。
 因みにミル達が【蛇梅隊Bチーム】となっていた。
 そしてAチームの3人は、ぞろぞろと宿泊室へと戻る。

 「フェイウェルの国って広かったなぁー……、森の中を歩くのに何日掛かったんだよ……」 
 「当たり前だ、フェイウェルは世界最大だぞ」
 「あ、そうだったのか?」
 
 レトは只今本部へと行き、“真”の真実……の答えを報告しているところだ。
 もうじき帰ってくるだろうと思った所で、がちゃりとドアノブの音がする。

 「……あぁー……遠かったー……」

 そこにはぐったりとしたレトの姿。
 隊服を着崩し、今にも倒れそうな顔で立っている。
 言うまでもなくその足はよろよろと不安定に動いていた。

 「本部から宿泊室までって遠いのなぁー……」
 「お疲れー」

 レトがばたんとベッドに倒れこむのと同時。
 サボコロはちょんちょんとレトの背中をつつく。

 「そういえばよー、あの言い伝え、全部解けたのか?……今更だけど」
 「あぁ、あれか……一応な」
 「……はぁ!?、じゃあなんで今まで言ってくれなかったんだよ!?」
 「別に知らなくてもいいと思って」
 「知りてぇに決まってんだろ」
 
 サボコロの苛々が募ってしまった事に気付いたレトは浅い溜息をついて、その場でむくりと起き上がった。

 「“森の奥の二手道”は勿論あの森の事だろうな。その奥に二手道もあった。
  次に“両方進むは神の道”はあの道を詳しく示したもので、神への道に繋がってますよって事だ。
  “黒白の月と太陽が互い祀るは神の水”はドルとメルの2人が祀り、護っていたあの泉の事だ」

 「俺が聞きたいのは最後の文なんだよ、“鏡の掟護らんと”“辿り着けぬは真の嘘”……あぁ、鏡は分かったんだけどよ」
 「“鏡の掟護らんと”は別の意味で、鏡を使えっていうのはカモフラージュなんだよ」
 「……はぁ!?」
 「本当の意味は、メルとドルの事。2人がまるで鏡に映したかのように入れ替わっている事を気付かせる為の……な」
 「でも安易にバレては意味ないと思って、2つの意味にしたってかぁ?」
 「まぁそうなるな。“辿り着けぬは真の嘘”……2人の正体を見破らないと、“真がついた嘘には辿り着けない”ってこった」
 「ま、待て待て!!」

 サボコロは遮るように声を張り上げる。

 「何で“真がついた嘘”なんだ?」
 「真……つまりメルギースがこの計画を持ちかけたからだろうな」
 「……ふーん」

 長い説明の末、サボコロは脳に限界が来たのか、ばたんとベッドに仰向けになって倒れた。
 つまりあの言い伝えにはメルとドルに繋がる道と……その真実が語られていた。
 だが未だあの言い伝えを作った人物が分からなかった。

 「でもよ、あんな言い伝え……何の為につくったんだ?」
 「そうだよな。その時分かってりゃぁ今頃予選に使うまでもなかったのに……」

 よいしょっとエンは立ち上がる。
 そしてふと気が付いた。キールアがぼーっとしていた事に。

 「どうした?キールア」
 「へ!?……あー……うん、何でもないよ」
 「ホントか?明後日にはもう2次予選だし……ゆっくり休んで元力回復しとけよ?」
 「……う、ん。そうだね」
  
 キールア自身以外、誰も知らなかった。
 もうキールアが次元師ではない事を。
 あの時……皆の傷つく姿を見て耐えられなくなったキールアは、自分を犠牲にして皆を救った。
 そのお陰で皆は見事勝利を掴んでくれたが、失ったものが大きすぎた。
 キールアの次元技……。そう、もうキールアは本当に唯の人間に戻ってしまったのだ。

 (どうしよう……打ち明ける、冪かなぁ……。でも、それでこの先戦えなかったら予選落ちしちゃうし……)

 「ホントに大丈夫か?おま……」

 レトはキールアの肩に触れた。
 その時、その瞬間……レトの言葉が止まる。

 「あ……!!」

 キールアは慌ててレトの手を払い、ばッ、っと背を向けた。
 レトは恐る恐るキールアに向かって手を伸ばす。

 「何でお前……元力ねぇんだよ……?」

 その言葉にエンとサボコロも反応する。
 キールアは未だびくびくと震え、その怯えた表情をレトへ向けない。
 
 「元力がねぇ、って……」
 「それは真か、キールア」
 「……」
 「キールア……」

 言える訳ない、話せる筈がない。
 話したら悲しむのは自分ではなく皆。 
 きっと自分の事を責めるだろうと思っていたキールアの頭に、レトはぽんと掌を乗せた。
 それは温かくて、優しい掌だった。
 キールアは、ゆっくりと後ろを振り返る。目に僅かの涙を浮かべて。

 「何で……ずっと黙ってたんだよ」

 そっぽを向いて、レトはそう言った。
 キールアの瞳には再びじわりと涙が浮かぶ。
 
 「だって、迷惑かけじゃ……い、いけないって……思って……っ」
 「それでも俺達は同じチームの仲間だろ……、迷惑とかふざけた事言うんじゃねぇーよ」

 うんうんと、サボコロもエンも頷いた。
  
 「ごめんなさい……ごめんね……っ」
 「……良いんだよ、元々俺達だって元力の事考えずに突っ走ってたから……自己責任でもあるんだ」
 「全くその通りだな。犠牲にしてまで勝とう等と……甘えた事をしてしまった」
 「俺達にだって非はあるぜ?キールア。だから1人で落ち込むな!!」
 「……いざとなったら、さ……俺が護るよ、キールア」

 うん、ごめんね……?と。
 キールアは涙いっぱいの顔で微笑んだ。
 その瞬間にサボコロは肘でレトをつつく。

 「なぁーにが“俺が護るよ”だよ。俺達2人を忘れてねぇかこの色男」
 「い、いろおと……!?ば……!!ち、ちげぇよ!!大体これはだな……!!」
 「言い訳はいらんぞレト。そのまま抱きついて接吻でもするか?」
 「だ……!!?て……、てめぇら待ちやがれーーーッ!!!!」

 キールアを置いて、喧嘩をし始める男3人。
 キールアはそんな姿の3人を見てふっと笑い、ありがとう、と呟いた。
 責められる事なんてなかった。護ってくれる、と、そう言ってくれた。
 だから自分も精一杯やろう……、そう思ったキールアの誓いは浅くなかた。
 
 後にBチームの4人が来て、更に宿泊室が騒がしくなった事は言うまでもなく。
 唯2チームとも1次予選突破おめでとう飲み会を行って、夜までどんちゃん騒ぎだった……とも言うまでもなかった。