Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第一話 〝雷獅子〟と〝風白龍〟 SHOT 1 〝夜の街〟
――ここは、夜の街〝レゲベル〟。
色々な出店があり、そのほとんどのところがオレンジ色の炎をともしている。彼ら自身が、経営しながら少しずつ念を飛ばして消えないようにしている炎だ。
精神力を使うためにこの出店は昼には出ない。それが〝夜の街〟のゆえんである。
昼に通りかかれば、ただ住人の住まう建物があるだけの村。
そこでわかる特徴と言えば3つ。中央の小さな噴水、レンガ色のタイルの敷き詰められた地面、質素な色の建物。
大都会にいた者が立ち寄れば、「廃れてる」としか言いようの無いほど殺風景である。
しかし今は夜。昼とは比べ物にならない位、とにかく――騒がしい。
そしてこの街には『無法者』も少なからず立ち寄る。
、、、
「追え!追え!アイツに間違いないッ!!魔導士の証の銀蒼の瞳!赤いマント、鉄錆色の髪!間違いなく本物の〝雷獅子〟だッ!!」
見るからに盗賊のような身なりをした男が、四つ折にしたボロ切れのような紙を片手に握り締め、もう一方に銃を構えている。
丁度今、八百屋の布製の屋根にポンと着地した少年が、そいつの言葉にぴくりと反応して振り返った。
視線を受けた盗賊は、その強い視線に思わず後ずさる。
「俺の髪は鉄錆色じゃねェっての!」
舌をべっと出す。更に「ば~か」と言われ、盗賊はブチ切れた。
持っていた四つ折の紙片は手配書だ。それをかなぐり捨て、盗賊の頭は憤怒の形相で辺りの通行人を突き飛ばす。
地に落ちた手配書には間違いなく目の前の少年の顔。もう17、8歳位の見た目だが、無邪気にべっと舌を突き出している事でどこか幼さを感じさせる。
そして写真の舌には――魔方陣。これも、そこにいる少年と同じだ。
「野郎ッ!!ナメていやがるッ!!」
「お頭、手出しするのは自殺行為に等しいかと。相手は3億2000万の賞金首、俺達が束でかかってもいけるかどうか」
「そーゆー事!ししっ!んじゃまたな!」
「っ!クソッ!!待てェッ!!」
ガラッガシャーーーン!!!
盗賊はあらゆる店の商品を跳ね除け、跳ね飛ばし、進む。店員の怒声が追ってくるが、お構い無しだ。
朱色の少し混じった茶髪、そして銀色の不思議な輝きをたたえた蒼い瞳の少年は店に迷惑がかからない様屋根をぽんぽんと移動しているが、後ろの騒動をも他人事のように噴水広場までたどり着く。
「あ~あ~あ~店が・・・。ひっでェなこりゃ」
「おいヴィル!街で騒ぎは起こすなと言っただろ!」
「うん?・・・あ~、そうだったっけ。ごめんごめんすまん」
「ったく、フザけるのも大概にしてくれ」
〝雷獅子〟ヴィルに話しかけた黒髪の青年は深緑のマントを翻して黒淵眼鏡を外し、踏み潰した。
青年の後ろには数人の女子が群がっている。勿論、本人がナンパしたとかではない。タイプが違いすぎる。
目前の光景に、ヴィルは肩をすくめた。
「まだここにいるか?」
「・・・?何で」
「何でもねェよ」
恵まれすぎてるって全世界の男子から批判受けるぞ、お前。
異常に女にモテすぎる奴ってどこかでナルシストだったりするけど、こいつは驚くほどニブいからそういう事は無いんだろうな。クソッ、いじり甲斐の無い奴め。
女なんて俺はどうでもいいけどな。弱いし。泣き虫だし。役立たず。あれのどこがいいんだ??俺にはわっかんね。
そうこう言っているうち、さっきの盗賊が―かったりィ事に―追いついてきた。
「!!?横にいるのは、お前・・・!!〝風白龍〟のフェルドかッ!?・・・なぜ、政府の犬がここに・・・」
「悪いな。俺は政府とは手を切った。今はこいつと組んでる。――つまり、フダツキだ」
「額3億1000万だよな」
「ああ」 トータルパウンティ
額を聞いた男は、あっけに取られたようにぽかんと口を開けたまま「総合賞金額6億3000万・・・!?」と呟き、卒倒しかけた。
部下共が頭の巨体を支える。しかし盗賊のそれは大きすぎ、重すぎて一同は悪戦苦闘していた。
ヴィルはそれを見て爆笑しているが、突如噴水の向こう側から――悲鳴。
俺達は顔を見合わせる。
「なんか出たっぽいな。・・・おしっ!やるか?」
「そのための俺たちだろ?」
「んっ!そうだな!」
「ギャアアアアアアア!!!助けてくれェエ!!」
盗賊たちは頭を運び出すことに成功していたが、その彼らの悲鳴がまた別の方向から聞こえた。
あれは――狼のような風貌だが、それよりも大きく、たくましい。
何より殺意が強く、よりによって今は飢えた瞳。赤い瞳が黄と黒の縞模様になっているのが何よりの証拠だ。
そいつらの牙からは、赤く光る液体が流れ出ている。負傷者の血だ。
ガルフ
「ヴィル、俺はあっちの化狼共を片付けてくるぞ」
「んあ?お好きにドウゾ。ボソッ(あっちいっぱいいてめんどいし)」
「お前・・・。まぁ、いいか」
露骨すぎるヴィルにあきれるフェルド。
化狼のほうに振り返ったフェルドの肘から腕にかけてチャックが風で開いた。
共に出てきたのは、彼の武器である大きな刃だ。彼のブーツの踵からも同じものが出てくる。
駆け出したフェルドを見送ったヴィルは、雄たけびを上げて突進してくる巨体に向き直った。
「うっし!俺もやるか!!」

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