Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第一話 〝雷獅子〟と〝風白龍〟 SHOT 3 〝からす〟
命の窮地を悟った化獣。最も能力の秀でたものが、他の仲間を喰らう。
あたりはすでに、血の海だ。仕方ない、それを流すのが建物の5分の4を占めているのだから。
建物に、唖然とする二人に。それは、降りかかる。
化獣の悲鳴。
最後の化獣がゆらりとこちらに振り向く。
「・・・!?おい、膨らんでいってるぞ!!」
「巨大化するんだろ、知らねェよ。うろたえんな、ビビり野郎」
うろたえてなんかいねェよ、と言い返したかったところだったが、化獣の膨らみ方の加速にヴィルは閉口する。建物よりもデカくなったそれは、爪の一枚でさえ3Mはありそうだ。
「さぞかし暴れるだろうな、この怪物は」
「くぁ~っ、面倒臭ェ」
「元凶が言うなバカ」
言って口元を笑いの形に緩めたフェルドは、駆け出した。
にゃろ、独り占めする気だな!!?いや待て、あいつ今・・・。
「ばかとはなんだ、バーカ!!」
・・・まぁ当然、負け犬の遠吠え。
向かうフェルド。しかし、化獣の様子がおかしいことに気づく。
腹部の一部が、出血している。
黒い影。
「誰だ」
「わたし?」
目の前に着地した女。
瞳は銀闇【ギンヤミ】。特殊な色だ。 クロウ
銀闇の瞳は、強い魔力を持ちし純粋な鴉族にしか与えられない。
つまりこいつは、純粋な鴉族――だ。
それを証明付けるかのように、緩やかなウェーブのかかった黒髪の下に生えるは黒い羽。
「リトゥス・レフトベッカ・・・・・・。 よろしくね」
「あ!俺そいつ知ってるぞ!!賞金首だ。俺達より高い奴」
「お前が賞金首の名前知ってるなんて珍しいな」
ふ、とリトゥスは妖しく笑った。
翼が彼女の体を覆い、再び開いたとき飛んで行ったのは黒い羽。
化獣がそれを虫のごとく払い除けようと前足を振るったが、払い除けるのに失敗した。
羽は一枚残らず、化獣の前足に突き刺さっていた。
「この羽根ね、ちょっとでも触れちゃったら血が出るわよー」
その言葉を合図のように、化獣の前足から大量に血が流れた。
いや、足はもう既にズタズタに引き裂かれて歩くことも叶わないだろう。
「強ェ・・・」とヴィルが好奇心からか、顔を輝かせた。
「女なのに強ェんだな」
「馬鹿にしないで。これでも鴉族の戦士なんだから、わたしは」
応戦する気か、化獣が口から噴出させたのは――火炎放射。
Σ「んぬわぁにぃいいい!!?」
それはリトゥスの延長上にいたヴィルたちにまで届く。否、届きはしない。2人は瞬間にかわす。
しかし、振り返ったヴィル。さっきまでいた二人の後ろにあった噴水が、干からびていた。
「げぇっ!?どういうことだよ、あの火・・・!!おかしいぞ」
「重々承知」
「だな」
リトゥスとフェルドが冷静に続ける。
突然、尾の一撃。
気づいたリトゥスが叫んだときにはもう時既に遅し、フェルドは受身の態勢で吹き飛ばされていた。
そのまま、後足の一撃で地面にのめりこむ。
ツ
「痛ッ・・・!!」
「フェルド!!・・・んの野郎!!もう許してやらんッ!俺は怒ったぞ!!!」
「単純なヤツね」
「おい待て、ヴィル・・・!」
しかしフェルドのうめき声はヴィルの耳までは届かず――彼は指をポキポキと鳴らすと構えた。
目にも留まらぬ速さで、残像を残しつつ彼は巨体に猛進した。手は青白い雷に包まれている。
何が起きるのかわからないまま、リトゥスはその光景を見ていた。
ロンド
「〝雷獅子・大牙――【舞踊】!!〟」
ヴィルが叫んだ瞬間、彼の体は掌にあった稲光に包まれた。青白い雷撃が辺りの地面を照らし出し、抉る。
舌打ちして細めたフェルドの、光のまぶしさに細めたリトゥスの瞳に映ったのは雷獅子。
「そうか、ヴィルが〝雷獅子〟と呼ばれるのはこれのせいなのね?」
「・・・クソッ。あの馬鹿、聞きやしない」
雷獅子は突如、姿を消した。――否、消えた、のではない。消えるように思えるほど早く動いたのだ。
光に勝る速度は無い。
為す術も無く、化獣は16方向から次々に打ち抜かれた。
雷光は時に蒼く、時に白く。交錯し、踊った。
倒れることの許されない、攻撃の乱舞。
「仲間を喰らい、なおも生にしがみつく愚かなる化物よ。
我の仲間を手にかけようとした罪よ。
我の守護神、雷騎士神【ラムオーディン】の捌きにより、消え去るが良い」
「・・・やな予感しかしない」
「finish!!」
格好つけるとき、それはヴィルの技が正確にヒットしている証拠だ。
難しい言い回しができるのも、「こういう格好良い言い方がしたい」と言われ、俺が教えたからだ。
化獣はうめき声を上げると、首を残して体は砕け散った。
鴉族の女はへたっと座った。
「あ~、トドメさされた」
「知るか。それよりお前、なんでここに」
ヴィルは首をかしげた。
「?知り合いか?」
「知り合いも何も・・・。こいつは、俺の従姉妹だ」
「ええええええええええええええええええええ!!?」
い・・・従姉妹・・・。
確かに、似てるかもしれねェけど・・・。
「母は龍族、父が鴉族だった」
「んで、この人の父さんはうちの母さんの兄」
3人の様子を遠目で見ている銀髪の人物が一人、時計塔の上にいた。
銀紅の瞳が月光に輝いていた。

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