Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―

Aerith ◆E6jWURZ/tw     作



第六話  救出    SHOT 3 〝戦いの幕〟



「わたしは――少し、考えさせてください」

目を伏せ、ミュレアは言った。王の冷たい瞳は感情を表すことも無く、ゆっくりと微かに、頷いた。
最初から決まっていたんだ。
彼を守りたい、けれどその為に他の命を消すつもりは無い。わたしの命ひとつで救えるなら喜んで差し出すだろう。しかし彼は生きろと言った。泣いてくれた。

一人で逃げる?

運命から一人だけ。仲間との絆も、何もかもを投げ出して。
ミュレアは静かに謁見の間から立ち去る。王は自分へと選択の余地はないと言っているのだ。無言のままでもそのくらいの意図くらい測れる。一人で逃げるのが一番楽かもしれない。
自分が巻き込んだのに?そ知らぬふりをして、自分達以外の生命が途絶えるのを眺めると?
そんなの、卑怯者だ。

「あぁ~あっ! やってらんね!」
ふと通りかかった女子トイレの前でそんな声が聞こえ、ミュレアは聞き耳を立てた。
聞いた覚えの無い声のうえ、喋り方といい言っている内容といいどう考えても使用人の類ではない。いや、使用人でも言う者はいるのだが今の声の主ほど大きな声では周囲に聞かれてしまうため、即刻クビになる。

「ったくよ~。私が掃除なんて・・・一体どんだけ前なんだか・・・ガキの頃くらいだよなぁ」
・・・独り言、でかっ。
思わずそう思い笑いそうになるが、なんとかして堪える。しかし声の主は「ん?」と言い、そこから出てきた。
隠れる間もなく立ち尽くすミュレア。出てきた女性はまじまじと彼女を見ると、「ははーん」とにやり笑いした。

「あんた、本物の姫君だな?」
「え。・・・あ」
「ふぅん、実感無いのか。それとも認めたくねーのか?そうだよなぁ、あんなろくでなしの娘にはなりたくねーよな」
男勝りに発する言葉遣い。目の前にいるミュレアを姫と知っていながらのこの態度。彼女は、一体――?得体の知れないこの女性に、ミュレアは軽く混乱する。まずミュレアの身分を、王を見下すような言い方をするこの女性は普通に考えてただの清掃員ではない。
だが「ろくでなし」という王の正体を知っているということはただの民間人でもなさそうだ。

「ヴィング・B・ヘルティ。それが私の名前さ。あんた、ミュレアだろ?探してたよ」
「・・・わたしを? 探してた・・・?」             ミナシゴ
「ああ。世界をひっくり返す、水の神のみなしご。私は大空の孤児さ。よろしく、私の義妹」
ふっと優しい笑みを浮かべ、ウィングは健康的に焼けた腕を差し出した。ミュレアも微笑み返し、その手を両手で包み込んだ。初対面だというのに不思議と敵意を感じない、一緒にいると安心感に包まれる女性だった。

「よろしく」
「おぅっ!!」
照れながらもそう呟くと、ヴィングは威勢良くそう答えた。辺りを見回し、ふとヴィングは溜息をついた。
ミュレアが不可解な顔をしていると、ヴィングは困ったような苦笑いを浮かべて言った。
「暑苦しいよな、コレ」
自分の清掃服の襟をつまみ、ぐいぐいと引っ張る。くすんだだぶだぶの服と帽子はヴィングの身体を殆ど覆い―長袖を彼女はまくっているが―保護していた。

「掃除しろ、とか言われてよ。けど全然汚れてねーし、私は掃除の仕方わかんねーしでヤケ起こしてたとこだわ」
「ふふ!だね、うん聞こえたよ」
「え、そんなデカい声で言ってたか?」
冗談めかし大げさに驚いたヴィングと二人して笑う。王城で笑い声が響いたのは前の王妃の幼かった頃以来だった。



                    *                    *


銃撃音、斬撃、爆撃・・・。その他あらゆる戦闘音がやかましく鳴り響く。衛兵達が悲鳴を上げ、しかし上官は自らを鼓舞し、下官に怒涛のごとく指令を浴びせ、位の低い衛兵どもは恐怖と叱咤の板ばさみになる。
そんな中をヴィルたち11人の戦士は爆走していた。

「撃て! 討て !!! 撃てぇえええ !!!!!」
「効くかんなもんっ !! ミュレアはどこだぁあああぁぁああ !!!!!!!」
大剣を振るい、浴びせられる銃弾を跳ね返し、先頭のヴィルは叫ぶ。立ち向かってくる人々をなぎ倒し、薙ぎ払う。
斬撃が竜巻のごとく舞い、バズーカが衛兵の一角を吹き飛ばす。
黒き刃が飛び交い、白き体毛から閃光が放たれる。
聖なる光が空を裂き、銀の鎖が数多に矢となりて射抜く。
植物が人を捕らえ、魔歌が人々を翻弄し、小さな竜巻が発生する。
とうとう門が破壊され、衛兵は誰一人歯向かうものはいなくなった。なぜなら、その場に立つものは11人以外いなくなったからだ。その11人は門を踏み越え、庭園へと踏み込む。

「やっと来たようじゃな」
「11人・・・城の中に1人・・・いや、二人」
「フヒ! フヒッヒヒヒヒ! トゥザムく~ん? それはどういう意味かなぁ?」
「・・・五月蝿いぞケフカ」
「戦いは、死ぬ、生きる、どちらか。」
「生の苦しみから解放してあげましょう・・・」
庭のあちこちから、おびただしい魔力を纏った魔導士がどこからともなく現れる。本能は告げる。衛兵の比ではない――と。何より、全員の瞳は銀紅だった。金交じりの藍や碧の者もいる。
その時、王城を取り囲む塀の上にも3人の人影が現れた。

「俺の前にまた現れる、とは。貴様、けんか売っているのか?気に食わない」
「生意気な弟だ。貴様、灰になりたいか・・・」
「その戦い、俺も混ぜろや!!血が騒いで仕方ねぇんだよ……!」
いずれにしろ味方ではなさそうだ。11人は背中を合わせ、それぞれ構えた。
仲間を救うため、そして王座の闇を消し去るため。永く大きな大乱死闘が今此処に幕を開けた。