Ultima Fabura―終焉へ向かう物語―
Aerith ◆E6jWURZ/tw 作

第九話 白き衣纏いし者 SHOT 2 〝ライシェルとヴィング〟
――誰だ!? ライシェル、だと!?――
息が切れるのも構わず、むき出しの腕が木の枝に当たりまくるのも構わずヴィングは走っていた。知っている、絶対知っているんだ。だけど思い出せない。苦しい。思い出せないのがこんなにも辛いことだったなんて。
どこをどう走ったのかなんてとうに判らなくなっていた。引き返すのにも方向がつかめない、月と星の光しかない暗黒の世界。その中にヴィングは確かに何かを探し当てた、と思った。
「おいっ!!」
後姿に声を掛けた。仲間の数が多い所為でヴィングは全員は把握しきれていなかった。喋れてもいなかったし名前も知らなかった。しかもこの人物に至っては姿まで見ることはなかった。今まで、ただの一度も――。
「・・・・・・何者だ?」
ドクン、とその声に心臓が鳴った。
ああ、そうだ。それだ。その声だ――。
「覚えてねーか? ライシェルさんよ。・・・いや、ルティア・O・ヴィレイトリム。」
自分の口を突いて出た言葉にヴィングは――いや、二人とも時が止まったように感じられた。
組んでいた腕をほどいてこちらを振り向く、ピンクブロンドの人物の姿がスローモーションのように見えた―――。
「ヴィン・・・グ・・・!?」
「あぁ、私だよ。ルティア。一人にして悪かったな。」
言ってヴィングは気付けば自ら、槍を持っていないほうの手で抱きしめた。ごめん、と呟いた。気配でライシェルが首を振り、俯いた気配があった。ヴィングは腕を解くと慰めるように肩に手を置いた。
「辛かったのにな。私が一番、あんたの側離れちゃいけなかったってのにな」
「いいんだ。もう、あの事は・・・。それより今は、やるべきことがある」
「こうなると思ったって言うしかねーよな。特に私は」
苦笑してヴィングは木々の生い茂って邪魔する狭い空を見上げた。さ、戻ろうぜと呟いてライシェルの肩を抱く。そのまま誘導するように一緒に歩いて行った。
もう迷わない。もう大丈夫だ。
気配を感じて顔を上げると、そこには腕組をしたライシェルと右腕だけ腰に当てたヴィングが立っていた。
「運ぶぞ」
それだけ言い、ライシェルはヴィルを背負った。唖然とそれを見守っていたミュレアも我に返ると慌てて立ち上がり、それを手助けした。テフィルのほうはジェッズが抱き上げ、運んでいくのを側で心配そうにレフィーナとカテーナが見守っている。
「運ぶって・・・どこへ?」
「宿があった」
平然と答えたライシェルに驚愕してシュヴェロは辺りを見回す。
「宿やて!? んなもんここにあるんかいな!? 仮にも此処は未開の地言われてる場所やん!! 未開の地なら未開の地らしく人なんておらん方がええわ!!」
「何だ? 行かないのか」
いくともさ、とブツブツ呟きながら横に並ぶ。未開の地なのに平然と商売しているような館があっていいものかとは思うのだが、今はそんなことはどうでもいい。納得はいかないが在って良かった。
「あれだ」
「ぅん? あ・・・ほんまや」
暗闇の中、オレンジの光が燈っているのが見えた。時折揺れるその光には温かみがあり、またどこか懐かしさを感じさせるものでもあった。外装は少し異国の雰囲気があり、森の中にあるのは少し不自然に見えた。
先頭にライシェルが進み出、引き戸を引いた。するとこの世界では変わった風の衣を着た女性がお辞儀をした。
「いらっしゃいませ。ようこそ、お客様。お待ちしておりました」
「あぁ。部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」
色白で金髪の、お姉さんらしい可愛らしさを持った女性はセミロングの髪を微かに揺らして「どうぞこちらへ」と手招きした。中は広く、玄関だけでも全員が伸び伸び入れるスペースだったが案内された部屋はまるで宴会の部屋のようだった。ここもまた、変わった床だった。ベッドではなく、厚布がそこに数人分敷かれている。恐らく男女で分けられているのだろう。
その中心のほうの厚布に重傷の二人が寝かせられた。
「あのぅ、これは?」
「この厚布は布団というものです。こちらが当店の寝具になっております。床は畳と言うものでして、そこらではお目にかかる機会は恐らくございませんね。私の着ているものも浴衣と言う服です。この引き戸は襖と申しまして、暖かな雰囲気を演出しております」
「成程なぁ」
恐る恐ると言った風な質問を投げかけたレフィーナに店員は完璧にすらすらと答えた。彼女のマントは桃色だった。その様子に感心したのか感慨深げにジェッズが唸る。色々知らない単語が出てきたが二人も布団の上に寝かされている重傷人のほうへ視線を向けた。痛々しいと言う言葉しか出てこない。
明るい光の下で見れば尚、重傷人の顔の蒼白さが鮮明に映る。それは二人も同じだった。
「あの」
店員が唐突に言った。ほぼ全員が振り返る。隙の無い笑顔で言った、店員の次の言葉は全員に言葉を失わせた。
パルフィディアエマージ
「貴女方は裏切りの魔導士ですよね。それも、〝雷獅子〟〝水不死鳥〟を交えた団体。
トータルパウンティ
まあ、当然ながら総合懸賞金は10億越え。それが私の目の前に重傷で・・・。これは由々しき事態ですね」

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